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サステナブル・ブランドの作り方

第2回: 創業以来のミッション(使命)がぶれないライフブイ

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SB-J コラムニスト・足立 直樹

こんにちは、サステナブルビジネス・プロデューサーの足立直樹です。少し間隔が空いてしまいましたが、「サステナブル・ブランドの作り方」第2回です。

今回は私がとても好きな映像をご紹介したいと思います。まずは以下の映像を見てみてください。

いかがでしたか? 

きっと最初は意味がわからなかったのではないかと思います。
もしかしたら若い女性は気がふれてしまったのでしょうか?だから、村人や若い男性は哀れみの目で彼女を見ているのでしょうか?

いいえ、そうではありません。でも彼女がこんな行動を取るようになった背景には、とても悲しいストーリーがあるのです。ウタリという名前のこの若い女性は、大切な子どもを幼くして亡くしてしまったのです。ウタリの住む村では、子どもが生まれると記念に木を1本植える習慣があるのだそうです。なので、今から5年前にこの若い男女が(そう、男性はウタリの旦那さんです)男の子を授かったときにも、その記念に1本の木を植えたのです。

ところが、不幸にしてその男の子は、5歳になる前に亡くなってしまいました…。けれどウタリはその男の子のことを忘れることができず、植えた木をまるで我が子のように大切に、大切にしているというわけです。

いつまで亡くなった子どものことばかり考えているのか。若い父親は、妻の行動をそんな風に見ているようにも思えます。しかし、彼もやはり亡くなった息子のことをちゃんと覚えているのです。なので最後のシーンで、彼は妻に、そして5年前に植えた木に優しく語りかけます。

「今日は早く休まなくちゃ。
 明日は大切な日なんだから。
 明日、お前は5歳になるんだよ、息子よ」

それにしても、なぜこの夫婦の子どもは亡くなってしまったのでしょうか?
そして、なぜこれが、サステナブル・ブランドと関係があるのでしょうか?

この映像の最後の部分のキャプションには、こんなことが書いてあります。

「毎日、5000人近いウタリのような母親が、5歳になる前の子どもを亡くしています。下痢や肺炎などの感染によって。」

そして、木だけが残るのです…。

しかし、このような死の多くは、石鹸で手を洗うだけで防げます。
そういうことだったのですね。

それにしても、毎日5000人もの子どもたちが幼い命を落としているとは…。日本の私たちからはちょっと想像を絶しています。しかし、これが世界の現実なのです。実はこの映像は、ライフブイという名前の石鹸メーカーが作ったものです。なんだ、石鹸の宣伝かと思わないでください。途上地域においては、これは本当に切実な問題なのですから。

実際この会社は、インドのThesgoraという村の管理を引き受け、下痢の発生率を36%から5%に減らすことに成功したそうです。手を洗うという習慣を教えるだけでです。そして今度は、インドネシアのBitobeという村でも、子どもたちの命を救う活動をするとあります。おそらくこのBitobeが、ウタリの住んでいる村でしょうね。

それでは、ライフブイという石鹸メーカーはなぜこのような映像を作ったのでしょうか? これは単なるプロモーションビデオなのでしょうか?

そもそもの正確な意図は私もわかりませんが、私はこれはライフブイという会社が、自分たちはどういう会社であるかを示すために作った映像だと思います。そももそもライフブイ(lifebuoy)とは「救命浮輪」という意味です。もともとは1895年にイギリスで作られた会社ですが、消毒薬であるフェノールを含む石鹸を作り続けて来たことから、当初から石鹸で子どもたちの命を救うことがミッションであったことが想像できますね。

その後、アメリカでも石鹸と言えばライフブイという時代があったそうですが、第二次世界大戦後は競合も多く出現し、現代的な香りの石鹸にシェアを奪われてしまったと言います。ですので、今はもうイギリスやアメリカでは生産されていないのですが、ユニリーバのブランドの一つとなり、アジア、アフリカ、ラテン・アメリカなどを中心に世界中に手を洗う習慣を広めることをミッションとしています。

その象徴的なものが「Help a Child Reach 5」(子どもが5歳になるのを助けよう)であり、そのために様々なプロジェクトを行っています。

先に述べたインドやインドネシアの村でのプロジェクトもその一部ですが、最近はもっと手の込んだ教育プロジェクトも行っているようです。

次の映像は、その社会実験を記録したものです。

Lifebuoy Help A Child Reach 5 - Chamki

詳しい説明はしませんが、どうやったらお母さんたちの習慣を変えることができるか。そのために真剣な努力を重ねていることが伝わってきますね。サステナビリティの課題に詳しい方であれば、これはSDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」だなと思われるかもしれません。その通りです。

しかし、SDGsができるより120年も前から、石鹸で手を洗うことで衛生状態を改善する必要性を考え、ライフブイ(救命浮輪)という名前でスタートした会社があったのです。

素晴らしいサステナブル・ブランドだと思いませんか?

社会の課題を解決するためにビジネスを行う。その自分たちのミッションをどんどんと発信して、ファンを増やす。「ライフブイと言えば、あぁ、手洗いを広めているあの会社ね。」と認知される。これこそサステナブル・ブランドですね。

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足立 直樹
足立 直樹 (あだち・なおき)

サステナブル・ブランド国際会議 サステナビリティ・プロデューサー。株式会社レスポンスアビリティ代表取締役。一般社団法人企業と生物多様性イニシアティブ理事・事務局長。東京大学・同大学院で生態学を学び、博士(理学)。国立環境研究所とマレーシア国立森林研究所(FRIM)で熱帯林の研究に従事した後、独立。2006年にレスポンスアビリティを設立し現在に至る。2008年からは企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)事務局長も兼務。

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