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G☆Local Eco!

アメリカの地ビールは、地域再生モデルの象徴だ!

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SB-J コラムニスト・青木 茂樹
Berkeley CAにあるブルワリーパブ(筆者撮影)

Berkeley CAにあるブルワリーパブ(筆者撮影:2016年 6月11日)

[G☆Local Eco!第2回]いま、日本でも地ビール・ブームが再燃しており、コンビニでも複数のブランドを見るようになってきた。また最近のイオン・グループのイオン・リカーでは、世界各地の地ビール(以下、クラフト・ビールと呼ぶ)が品揃えされており、一昔前のビール売り場とは様相が違っている。

アメリカでのクラフト・ビールのブームが日本にも伝播したものと考えられるが、そのブームの背景は全く違う。まずは、図表1を見てもらいたい。マイクロ・ブルワリー(ビール醸造所)やパブ付きブルワリーを合わせても2008年までは1500店舗程度であった。これが急激に増加するのが2008年。今日、4000店舗以上がひしめきあっており、都市部では16キロに一店のブルワリーがあるという。

この年は、アメリカの文化的象徴であった米国バドワイザーがABインベブというベルギー資本に買収された年である。社会事業団体が、様々な寄付を頼む先が米国バドワイザーであったが、これが難しくなったのは衝撃なことでもあった。

図表1)アメリカにおけるカテゴリー別クラフト・ブルワリーの数

図表1)アメリカにおけるカテゴリー別クラフト・ブルワリーの数
出典:BREWERS ASSOCIATION (2016) ウェブサイト,https://www.brewersassociation.org/statistics/number-of-breweries/,より


そして何よりも、2008年はリーマンショックで世界経済が落ち込んだ年でもある。高卒・大卒の4割の学生が就職できず、2011年には、「Occupy Wall Street(ウォール・ストリートを占拠せよ)」というデモも起きた。

この辺りからアメリカの若者意識の潮流はエコノミーからコミュニティへ、経済もFinancialからSocialへとシフトした。就職を果たせなかった何人かの若者は東海岸の金融機関を目指すのではなく、各地の都市へと散らばった。デフレで崩壊した地方都市にて彼等が始めたのがビールづくりである。

古い建物をリノベーションして、手づくりで始めた者も多い。大麦やホップは地産ではなくても、輸入すればつくることができ、腕次第でもある。

州や市によっては行政が醸造免許や販売免許の規制緩和をして、若者らはブルワリーを造りパブを併設した。近くの農家は若者が集まってくるブルワリーにホップなどを生産するようになったり、少量生産用の醸造機械も製造されるようにもなった。

地元の食材を使った料理しか出さないパブ、太陽光などの自家発電を主電力としたブルワリー、クラフト・ビールを扱う小売や飲食店に配送する卸売など、地産地消のきっかけをつくった。何よりもパブに集まる人々によって、冷え込んだダウンタウンにコミュニティが再燃してきたのだ。

こうして、カリフォルニアでは2万2千人の雇用が生まれ、彼等は家族との時間を大切にしながら、慈善活動や地域のサステナビリティの活動に参画している。つまりクラフト・ビールは単なるビールではなく、こうした時代背景をバックとした地域社会再生の「象徴」であるのだ。

このムーブメントの大きさはいまや大手ブルワリーの売上にも影響し、大手ブルワリーも素材や製法にこだわったビールを作り出した。しかし、これらはクラフティ・ビールと呼ばれ、そうした社会背景をもったクラフト・ビールとは区別されている。

この地域社会的な動きはビールに限らず、スーパーマーケットにおけるコニュニティ・マーケットの登場や家庭菜園ブームなど、あらゆる局面にも見られるようになって、アメリカの地方都市の再生につながっている。

第三の矢や地方創生という掛け声はあっても、これに火がつかない日本経済とは違い、アメリカのGDPやCPI(消費者物価指数)が成長している理由には、サステナブルな地域経済モデルを作り出そうという起業家達のフロンティア精神と、行政や地域住民との横のネットワークがあったのだ。

参考資料)Thomas Kolico,Deane Macdonald, Courtney Cobb, et al.(2013),"Crafting A Nation", http://www.craftinganation.com

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青木 茂樹
青木 茂樹 (あおき・しげき)

サステナブル・ブランド国際会議 アカデミック・プロデューサー
駒澤大学経営学部 市場戦略学科 教授

1997年 慶應義塾大学大学院博士課程単位取得。山梨学院大学商学部教授、
University of Southern California Marshall School 客員研究員を歴任。
多くの企業の新規事業の立ち上げやブランド構築に携わる。地方創生にも関わり、山梨県産業振興ビジョン策定委員、NPOやまなしサイクルプロジェクト理事長。人財育成として、私立大学情報教育協会FD/ICT活用研究会委員、経産省第1回社会人基礎力大賞を指導。やまなし大使。
2022年4月より、デンマークに渡り現在 Aalborg University Business School 客員研究員を務める。

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