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サステナブル・オフィサーズ 第38回

廃プラから人気シューズ誕生:責任あるビジネス貫く――ポール・ハーディスティ アディダス・ジャパン代表取締役

Interviewee
ポール・ハーディスティ アディダス ジャパン代表取締役
Interviewer
森 摂(オルタナ編集長/サステナブルブランド国際会議(東京)総合プロデューサー)
アディダス・ジャパンのポール・ハーディスティ代表取締役

アディダスが「環境」と「ビジネス」を同軸に据えた経営戦略を進めている。海岸から回収したプラスチックごみを再生し、再繊維化して運動シューズとして販売したところ、500万足のヒット商品になった。全世界オフィスからはペットボトルを追放した。アディダスの環境政策の背景には、どんなブランド戦略があるのか。

責任あるビジネスを貫くことが経済的成功へ

リサイクルされたプラスチックを使った運動シューズ「パーレイ」

――まず、海洋ゴミから再生した運動シューズのことを教えて下さい。

アディダスはリサイクルされたプラスチックを使った運動シューズ「パーレイ」を開発しました。このプロジェクトは「パーレイ・フォー・ジ・オーシャンズ」というNGO(非営利組織)との協働によって実現しました。

プラスチックはモルジブなどで、海洋に流れ出る前に海岸で回収したものです。プラスチックごみを「リサイクル」して、再繊維化し、運動シューズの材料にしたのです。2017年に100万足、2018年に500万足を生産しました。2019年には1100万足の生産を予定しています。

運動シューズだけでなく、FCバイエルン・ミュンヘンのユニフォームや、テニスのアレクサンダー・ズベレフ選手が着るスポーツウエアにもなります。

こうした再生プラスチック由来のシューズは、一足一足の海洋プラスチックごみ問題に対する貢献度は小さいものの、そのリサイクルを通じて、ユーザーに製品のデザイン、機能や品質を超えた価値を提供しているのです。

シューズ以外にもTシャツ などにも再生プラが使用されている

――「ウルトラブースト・パーレイ」は好調なようです。サステナブルな環境方針が売上高に結びついたのですね。

サステナブルなビジネスを展開することは、株主の期待に応えるとともに、顧客や従業員、サプライチェーン関係者の関心にも応えることになります。人権問題を含めて、「責任あるビジネス」を貫くことが、経済的な成功に結び付くと信じています。

さらに、社会が変化し、最近の若者(特にZ世代=1995年生まれ以降の若い世代)は社会や環境への関心が上の世代よりも強くなりました。売上高を伸ばすためにも、若者たちと良い関係性を築き、彼ら/彼女らが求めるものを理解し、提供していくことが重要なのです。

事業もオフィスもサステナブルに

――プラスチックごみ問題では、ほかにどんな取り組みがありますか。

2016年以来、アディダスの直営店では、すでにビニールの買い物袋を使っていません。輸送用の包装材の一部はまだプラスチック製ですが、カーボンオフセットや、より持続可能な資材の導入を探っています。

ファッション・フォー・グッド財団には1500万ユーロを寄付しています。この金額はプラスチックの包装材による環境への影響を相殺するものです。この財団は革新的、持続的、そして再利用可能なファッション素材を推進しています。アディダスは2018年に同財団のパートナーになりました。

――世界ではサステナブルなグローバル企業が増えてきました。アディダスはサステナビリティ経営をどう進めますか。

アディダスでは20年前から、環境目標は大事だと認識していました。その重要性は、いまさらに高まっています。アディダスの事業のすべての部分にサステナビリティが深く浸透し始めたのです。

製造時には廃棄物を減らし、Tシャツを染める時の水にも配慮しています。販売時の環境負荷にも配慮し始めました。まだ100%ではありませんが、(電気やエネルギー使用による)CO2の排出、水排出の削減など、ビジネスのあらゆるパートで、あらゆる従業員が取り組んでいます。

――製造過程全体を通じて、環境負荷の低減を目指しているのですね。

より持続可能な原材料を使ったり、CO2の排出削減、廃棄物の削減を進めたりしています。2018年だけでもアディダスの世界のオフィス、店舗、倉庫やディストリビューションセンターなどで40トンものプラスチック廃棄を減らし、より持続可能な解決法を導入しました。

2018年12月にポーランドのカトヴィツェで開かれた気候変動枠組締約国会議(COP24)では、当社は「ファッション業界における気候変動防止憲章」に署名しました。これにより、2030年までに温室効果ガスの排出を30%削減することになりました。

アディダスの日本のオフィスでも、プラスチックの使用中止を進めています。ペットボトル、プラスチックのカップを紙製や繰り返し使えるものに変えました。木や紙製のナイフやフォーク、ガムテ―プも紙製に変えました。コーヒークリームのミニ容器も廃止しました。

お客様が当社オフィスに来られた時には、お茶か水しか出しません(誰も文句は言いませんが、たまには驚かれます)。

社員も使い捨てのビニール袋を止めてもらおうと、エコなトートバッグを配布しています。新入社員全員にはマグカップとトートバッグを配布しています。

「スポーツ」を軸にしたロードマップ戦略

――多くのグローバル企業は環境・社会NGOからの批判の対象になっています。例えば国際環境NGOグリーンピースは、生産段階で有害物質を出さない「デトックス」キャンペーンを展開しています。アディダスはどう対応していますか。

アディダスの環境・社会にまつわる活動はNGO、格付け機関やSRI(社会的責任投資)のアナリストたちからも前向きの評価を受けています。これらの機関は、私たちの環境・社会活動について、書類上でのチェックや従業員や経営者に対する取材を含め、深く調べています。

――アディダスは、サステナビリティとブランド価値の関係をどう捉えていますか。

アディダスはスポーツに携わる企業としてサステナブルな会社を目指しています。私たちにはスポーツに関わる場所や空間を守っていく義務があります。当社の「サステナビリティ・ロードマップ」では、スポーツの世界と密接な、6つの戦略的段階があります。

それは「企画」「デザイン」「製造」「物流」「販売」、そして「競技で使用されること」です。このようなスポーツ用品のサイクルにおいて、私たちはサプライチェーンの全段階において、責任あるアプローチを進めています。それらは数値で管理され、数値化された目標になります。

「もったいない」精神や江戸文化は日本の潜在力

アディダスは日本でもサステナビリティを訴求していく

――残念ながら、日本では「環境に良いこと」だけで製品を買うことは少ないです。日本の消費者に対して、どのようなアプローチをしていきますか。

確かに、難しい問題です。しかし日本でも、環境やサステナビリティを訴求していくことは決して無駄なことではありません。業界のリーダーとしてアディダスに何ができるのか、少しずつでも広めていきます。これは当社の義務なのです。

日本には「もったいない」の考えや、「マイカップ」の習慣があります。リサイクルの習慣も深く根付いています。江戸時代の日本は、世界で最もサステナブルな社会だったと言われています。ですので、日本社会もサステナブルになれると信じています。

日本では2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けてスポーツの世界が注目されていますが、アディダスは、スポーツだけでなくライフスタイル全般において、日本がもっとサステナブルな社会になれるよう支援する社会的責任があると考えています。

私たちはスポーツの場を守り、気づきをもってもらい、解決法を提供していきます。例えば、年間イベントである「ラン・フォー・ジ・オーシャン」はすでに14000人の日本人ランナーが参加し、海洋環境保護の活動に触れ、合計45万キロを走破しました(世界では92万4000人が参加)。

従業員も顧客も惹きつける「存在理由」を

――企業がサステナブルであることは社会にとって良いことですが、それがビジネス自体にも良いことであるという実感はありますか。

もちろんです。会社が従業員から支持される理由にもなります。コミュニティからも信頼されます。ブランドとして、企業として「存在する理由」が必要なのです。スポーツを通じて何か信頼できるものがあれば、生活全体を変えることもできます。

アディダスのミッションは、「世界最良のスポーツブランド」になることです。でも、「最良の」とはどういう意味でしょうか。それは人によって違うかもしれません。ですので、まず「私たちにとって」の最良を目指しています。

私たちにとっての「最良」の定義は、世界で最も高品質な製品を開発し、販売することです。それだけでなく、購入する時にも、使うときにもサステナブルという意味での「最良」を目指します。環境にも社会にも配慮する、という意味です。

こうした会社のポリシーは、「責任ある企業で働きたい」という人を引きつけます。顧客もひきつけます。なかには環境や社会課題に興味が無いユーザーもいますが、私たちは顧客も従業員も啓発していきたいのです。それがアディダスの社会的責任です。

アディダスの創業者は「お金を稼ぎたい」と言ったのではなく、「アスリートのためにベストのシューズを作りたい」と言いました。こうした価値観がアディダスのDNAなのです。

――そのDNAが今でもアディダスに受け継がれているわけですね。

その通りです。それは一時(いっとき)のことではなく、「私たちは常にサステナブルでなければならない」という思いを共有しています。製品を開発する時も、顧客に届ける時もそうです。「スポーツを通じて、社会を良くする」ことは当社のスローガンなのです。

持続可能性が投資の対象に

――投資家との関係はどうですか。

アディダスはDAX(ドイツ証券取引所)への上場企業です。ですので、株主からの期待に応えながら、プロフィタビリティ(収益)とサステナビリティ(持続可能性)のバランスを取らなくてはなりません。

さらに言うと、いまの投資家は株のパフォーマンスだけではなく、各社の持続可能性に投資しているのです。

――それがESG(教育・社会・ガバナンス)投資ですね。

株主の姿勢もこの10-20年で大きく変わりました。以前はリターン(配当)しか見ていませんでしたが、今は「社会的責任をきちんと果たす企業に投資したい」傾向が強くなったようです。

いくら収益が良くても、社会的責任を果たさない企業は投資の対象になりにくくなりました。株価も低迷するでしょう。

――21世紀は、グローバリゼーションに伴う社会課題が噴出しています。21世紀のビジネスは20世紀より難しくなりそうでしょうか。

おそらく、そうですね。しかしビジネス機会もあります。例えば海洋プラスチックごみ問題に取り組む「パーレイ」と、それをサポートするアディダスの関係性の中でも、再生プラスチックで作った運動シューズという新しい価値が生まれました。とてもクールな製品です。

何か環境負荷や社会課題が起きても、それを補い、解決することで新しい価値を生み出せます。ユーザーが自ら環境負荷を減らすことができなくても、環境負荷が低い製品を買うことで、問題解決の一端になるのです。カーボンオフセットも同じような仕組みです。飛行機に乗って燃油を消費したとしても、2ドルほど払って、環境問題の解決に寄与できるのです。

――もしアディダスがサステナブルな会社でなかったら、何が起きますか。

当社はサステナブルな企業ですので、従業員たちも付いてきてくれますし、顧客からの支持もあります。もしアディダスがサステナブルでなかったら、顧客も従業員も減ってしまうと思います。

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ポール・ハーディスティ
ポール・ハーディスティ

1967年生まれ、オーストラリア出身。1992年よりオーストラリアおよびニュージーランドのファッション関連企業でCFOを務める。1999年にアディダス インドネシア社長に就任した後、インド、韓国にてCOO、社長を歴任。2010年3月からアディダス ジャパン株式会社代表取締役。

森 摂
インタビュアー森 摂 (もり・せつ)

株式会社オルタナ代表取締役社長・編集長。東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。訳書に、パタゴニア創業者イヴォン・シュイナードの経営論「社員をサーフィンに行かせよう」(東洋経済新報社、2007年)がある。一般社団法人グリーン経営者フォーラム代表理事。特定非営利活動法人在外ジャーナリスト協会理事長。