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サステナブル・オフィサーズ 第31回

ビジネスで社会の「不」を解消する――瀬名波 文野・リクルートホールディングス執行役員

Interviewee
瀬名波 文野 リクルートホールディングス 執行役員/Indeed, Inc. Chief of Staff
Interviewer
川村 雅彦 オルタナ総研 所長・首席研究員

ビジネスを通じて社会の「不」を解消することを目指すリクルートグループは、今年10月に発行した統合報告書で新たな概念「Sustainability Orbit」(サステナビリティオービット)を打ち出した。経営陣のコミットメントを得て、行動指針に沿って具体的なサステナビリティ活動を推進していく仕組みだ。瀬名波 文野・リクルートホールディングス執行役員にその狙いと展望を聞いた。

リクルートグループの「サステナビリティ」とは

川村:今回の統合レポートで初めてサステナビリティオービットという概念を打ち出しました。そもそも、なぜこうした新しい体系を作られたのでしょうか。

瀬名波:その理由の1つに、リクルートグループがグローバル化したということがあります。日本ではまだまだドメスティックな企業というイメージが強いかもしれませんが、現在は海外の売り上げが50%近くにまで達しています。

加えて、社会がかなり変わってきたこともあります。2012年にサステナビリティ推進部の前身であるCSR推進部が立ち上がった時、ステークホルダーの意見を聞いて取り組みに生かしていくという考え方はすでにありました。ただ、グローバルに企業活動を行うグループとして、グローバルのステークホルダーの期待や要請と向き合うこと、それを社内で議論し意思決定するまでのサステナビリティにかかわるガバナンンス構造をきちんと整えていることなどを改めて言語化した、というイメージです。

川村:2015年にSDGs(持続可能な開発目標)やパリ協定が採択されるなど、文明史的な視点で世界の流れも大きく変わりました。

瀬名波:そうですね。ただ、変化する世界の中でも変わらない大切なことがあると思います。当社には、どんなことに対しても「あなたは、どうしたい?」を問う文化が根付いています。創業時代から社会の「不」に対峙し、事業に昇華させながら解決してきたという特徴があり、実際にほとんどの既存事業が従業員のアイデアから生まれたものです。

例えば、2017年の1年間で、国内だけでも988件の新規事業の企画提案が集まっています。このような文化が育まれていることもあり、サステナビリティに関しても、「SDGsが採択されたからリクルートはどうするのか」といった考え方ではありませんでした。世界には、不平等、不便、不安などたくさんの「不」があります。それに対し「私たちは、どうしたい?」を問いながら、施策を検討していく、というのが自然な流れでした。

生きている「創業の精神」と「リボンモデル」

川村:昔からそのような企業文化だったのですか。全く日本的ではないですね。

瀬名波:はい、1960年の創業当時からです。創業者・江副浩正が、大学生の就職先に関する情報が研究室からのコネや大学の就職掲示板など限られた場所に点在していて非常に不便で不平等であると感じ、求人情報を広く集めて学生新聞の中で掲載し始めました。まだ彼が東京大学の学生だった時のことです。

これは、2つの意味で、リクルートグループの重要な特徴を表しています。1つは、「不」を事業で解決するということ。そして、「マッチング」という価値を提供すること。当社ではこれを「リボンモデル」と呼んでいます。クライアントとカスタマーそれぞれがリボンの両側にあり、その2つがリボンの真ん中で出合うこと、そのマッチングを最大化することが私たちの役割であるという意識は、2018年の現在でも全く変わらず私たちの中に生きています。

川村:当時としてはかなり革新的だったことになりますね。そうすると、企業理念を実践するためには、おのずとサステナビリティの概念も自分たちでつくるしかないと。

瀬名波:そうですね。「リクルートグループらしいサステナビリティとは何か」がこの2年の大きな問いでした。第一ステップとして、ステークホルダーダイアログを実施しました。

川村:ダイアログではどういった方に話を聞かれたのですか。

瀬名波:NGO、有識者、投資家、法律関係の方など、68人に話を伺いました。それぞれの立場から見たリクルートグループに対するご意見やご要望が出てきて、とても興味深かったです。みなさまからの期待を感じ、大いに勇気も頂きました。

川村:68人はすごいですね。でも事業がグローバル化・多角化する中で、リクルートグループは何の会社かということが分かりづらくなってきたこともありませんか。

瀬名波:はい、コングロマリットですからね。だからこそ、様々なご意見やご要望、ご期待を受け止め、またサステナビリティに関して先進的なグローバル企業の取り組みについてもたくさん勉強しました。その上で、「私たちらしい社会への貢献とは」という問いを真ん中に置いて、社内経営陣でもかなり議論を重ねてきました。

経営陣がコミットする新たな仕組み

川村:それでは、サステナビリティオービットの考え方について教えてください。

瀬名波:まず、前提となるのは、価値創造モデルです。詳しくは統合報告書をご覧頂きたいのですが、リクルートグループが社会に価値を出していくプロセスの全体像を示しています。この中で、サステナビリティにかかわる取り組みの循環を「サステナビリティオービット」と呼んでいます。ステークホルダーのみなさまとの対話を通して広く社会からの要請や期待を認識し、社外専門家や社内経営陣を交えた「サステナビリティ委員会」で深く議論します。

その後、リクルートホールディングス取締役会で経営陣のコミットメントを得て、行動指針に沿って具体的なサステナビリティ活動を推進していきます。それを社会に還元していく中で、必要であれば軌道修正を行いながらより良いソーシャルインパクトを生んでいきたいと思っています。平面的ではなく立体的な螺旋状のオービットを想像して頂くと分かりやすいかもしれません。終わりがあるものではなく、常により良いものに進化していく、という意志を込めています。

重視するステークホルダーエンゲージメント

川村:それは、まさにステークホルダーエンゲージメントですね。瀬名波さんは、どのように機能させたいとお考えでしょうか。

瀬名波:ステークホルダーダイアログの実施や国際会議への参加などにより社会の要請を把握し、アクションプランを検討し、サステナビリティ委員会での諮問を経て取締役会で確定していく流れを考えています。

川村:そのタイムスケールと実現するにあたっての課題などがあれば、教えて頂けますか。例えば、不確定要素や阻害要因です。

瀬名波:循環する流れだと思っているので、タイムスケールはほぼ半永久的に、というイメージです。不確定要素・阻害要因ということではないかもしれませんが、例えば今年の議論の中で、そもそも従業員も大事なステークホルダーですが、昨年はNGOや投資家など社外のステークホルダーを中心にご意見や要望を聞いたので偏りがあったのでは、という意見が出ました。そこで今年から従業員とのダイアログ(タウンホールミーティング)を始めています。このように、必要に応じて軌道修正を積み重ねてより良くしていきたいですね。

5つの重点取り組み分野と「SDGsドミノ」

川村:それでは、御社が取り組んでいる具体的なテーマないし課題とその成果指標について教えてください。

瀬名波:サステナビリティ重点テーマに「働き方の進化」「機会格差の解消」「多様性の尊重」「人権の尊重」「環境の保全」の5つを掲げ、重点的に取り組んでいます。これは、ステークホルダーダイアログを通して集めた意見や要望と、リクルートらしく貢献できそうな度合いを掛け合わせるというマテリアリティ分析を経て決めたものです。さらに、それぞれの課題が関連する「SDGsドミノ」という考え方もあります。

川村:「SDGsドミノ」もユニークですね。いくつか重点課題を掲げていますが、これをどのように価値創造につなげていくのか、改めて教えて頂けますか。

瀬名波:最初のドミノとしてSDGsの中でも「目標10(人や国の不平等をなくそう)」に貢献する、と置いたのは大きいですね。リクルートグループ全体として「Opportunities for Life」というミッションを持っているので、リボンモデルをコアにしたマッチング価値を最大化することで社会に価値を発揮していきたいという意志を込めて目標10を最初のドミノに置きました。

ただ、個別の事業で見れば、別のSDGsに直接的に貢献するものもあります。例えば私たちは教育系のビジネスも行っているので、「目標4(質の高い教育をみんなに)」がストレートにヒットします。また、私たちは「とらばーゆ」という主に女性向けの求人情報メディアを運営していますが、これは「目標5(ジェンダー平等を実現しよう)」に該当するでしょうね。

このように、各事業が個別のゴールに直接貢献している例も多くあります。ですが、グループ全体としては目標10をファーストドミノと置き、それぞれの目標が互いに作用しながらソーシャルインパクトを生んでいきたいと考えています。

これらの例は、「事業そのもので社会に貢献する」という私たちらしさをよく表していると思います。ちなみに「とらばーゆ」の創刊は1980年。これは男女雇用機会均等法の施行より5年以上も前のことです。創業当時から、2018年の現在でも、本業を通して社会にポジティブな影響を与えていきたい、という考え方は変わっていません。そして、この積み重ねの結果として「一人ひとりが輝く豊かな世界の実現」という理念を実現したいと思っています。

川村:リスク面も含めて、今後のグローバル展開で「目指す姿」あるいは「ありたい姿」は、どのようなものですか。

瀬名波:リクルートグループが目指す世界として掲げ続けている言葉、それが「一人ひとりが輝く豊かな世界の実現(Follow Your Heart)」です。この理念の根底にあるのは、人間は一人ひとりの志や夢、欲求や情熱といった、いわば内発的な動機が解放されたときに最も大きな力を発揮するのだ、という信念です。その信念がグループ経営の各要素の中に組み込まれ、リクルートグループの「価値創造モデル」で詳細に示すとおり、すべてのステークホルダーのみなさまとのかかわりを経て、社会的インパクトを生み出す好循環をつくり出したいと考えています。

そして、「Follow Your Heart」というビジョンは単に壁に飾って掲げるようなものではありません。これを自社で実現できなければ、世界で実現できるはずがないと常々思っています。今回再定義したビジョン・ミッション・バリューズの中でも、特にバリューズ=社員一人ひとりが大切にしている価値観(WOW THE WORLD、BET ON PASSION、PRIORITIZE SOCIAL VALUE)が、価値を生み出す上でのコアエンジンですので、大事にし続けたいと考えています。

川村:やはり企業風土にかかわるバリューズが基本ですね。御社のサステナビリティの考え方がよく分かりました。本日はありがとうございました。



リクルートグループ統合報告書

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瀬名波 文野(せなは・あやの)
瀬名波 文野(せなは・あやの)

2006年リクルートに入社。経営企画室で新規事業提案制度「New RING(現Ring)」総合事務局、08年HR領域の大手企業担当の営業に。12年ロンドンへ赴任し、人材派遣会社Advantage Resourcing UK及びAdvantage xPOの2社の代表取締役を務める。15年リクルートホールディングス R&D本部事業開発室 室長、16年同社グローバル人事統括室 室長に。18年1月よりChief of Staff, Indeed, Inc.を務める。18年4月よりリクルートホールディングス執行役員(経営企画、コーポレートコミュニケーション、人事)に就任。16年Forbes Japan「世界で闘う日本の女性55人」にグループで初めて選出された。

川村雅彦
インタビュアー川村 雅彦 (かわむら・まさひこ)

前オルタナ総研 所長・首席研究員。前CSR部員塾・塾長。九州大学大学院工学研究科修士課程修了(土木)。三井海洋開発㈱を経て㈱ニッセイ基礎研究所入社、ESG研究室長を務め、現在は客員研究員。環境経営、環境ビジネス、CSR経営、統合思考・報告、気候変動適応を中心に調査研究・コンサルティングに従事。(認定NPO法人)環境経営学会の副会長、(一社)サステナビリティ人材開発機構の代表理事。論文、講演、第三者意見多数。主要著書は『環境経営入門』『カーボン・ディスクロージャー』『統合報告の新潮流』『CSR経営 パーフェクトガイド』『統合思考とESG投資』など。