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サステナブル・オフィサーズ 第21回

経営戦略と環境戦略は一体:言行一致がカギ――積水ハウス 石田建一 常務執行役員・環境推進部長兼温暖化防止研究所長

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Interviewee
石田 建一 積水ハウス株式会社 常務執行役員・環境推進部長兼温暖化防止研究所長
Interviewer
川村 雅彦 オルタナ総研 所長・首席研究員

積水ハウスは2017年10月、日本の建設業で初めて国際イニシアティブ「RE100(注1)」に加盟した。2040年までに、事業活動で消費する全電力を自然エネルギーに切り替える方針だ。「環境戦略と経営戦略は一体。会社が言行一致することがカギになる」と石田建一環境推進部長兼温暖化防止研究所長は話す。その言葉通り、同社は2008年の脱炭素宣言以降、新築戸建住宅のZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の割合が74%に達するなど環境戦略を着実に進めている。

環境戦略はお客様の幸せのため

川村:積水ハウスは、今年10月に国内建設業としては初めてRE100に加盟しました。以前からZEHの推進には積極的に取り組んできました。積水ハウスがこのように環境問題に積極的に取り組むのはなぜでしょうか。

石田:積水ハウスは「家」を売っているわけではなく、お客様に幸せな人生を提供しています。ですから、顧客が幸せな人生を送るために必要なものは何かを常に考えています。その答えは、顧客の健康であり、快適であり、安心・安全です。

お客様が本当に幸せな人生を送るためには、そもそも地球環境がきちんとしていなければなりません。地球温暖化による自然災害が起きないようにする必要があります。ですから、積水ハウスにとって地球環境に特化した事業活動を行うことは非常に重要で、当然なこととして取り組むべきことです。

川村:顧客の幸せと地球環境。「家」を売るということの深い意味が分かりました。

石田:顧客が幸せな人生を送るためには、積水ハウス自体が持続可能でなければなりません。家のライフサイクルは最大100年です。顧客の家を長期的にサポートするには、企業としても成長し続ける必要があります。

環境戦略は経営戦略と一体

インタビュワーの川村 雅彦 オルタナ総研 所長・首席研究員

川村:ハウスメーカーとして、環境問題に取り組むことは必然的だということですね。具体的な環境戦略はどのようなものでしょうか。

石田:当社の環境戦略は経営戦略と一体です。分けて考えることはできません。例えば、ZEHを買っていただいた分だけ、CO2排出量を減し、顧客満足度も高めることができて、当社の売上高にも貢献できます。

川村:なるほど。ZEHはまさに一石三鳥を狙っているわけですね。

石田:当社は2008年に脱炭素宣言をしました。それを実現するために、2009年から環境負荷を大幅に低減する環境配慮型住宅「グリーンファースト」の普及に着手しました。1990年比で、住宅のライフサイクルにおけるCO2排出量を50%以上削減することを目指しています。

また2013年には「グリーンファースト」をさらに進化させたZEH「グリーンファースト ゼロ」の発売を始めました。高断熱化と高効率の省エネ設備機器によって大幅な「省エネ」を実現し、同時に大容量の太陽光発電システムと燃料電池「エネファーム」により消費電力以上の「創エネ」を行うことを可能にしました。

ただ、私たちはZEHの普及そのものを目指しているのではありません。家は、まず敷地があり、そのうえに顧客のライフスタイルがあって設計するべきです。自動車を買う時に、燃費だけを見て選ばないのと同じです。家も、生活プランがあって、住まい心地があって、その次にゼロエネルギーかどうかです。

川村:「家」の本質が社是につながっていますね。ところで、RE100への加盟に際して、「太陽光発電を設置したお客様へのFIT制度(注2)終了後のメリット創出」を掲げ、余剰電力の買い取りを宣言されました。

石田: FIT制度は2019年度から徐々に終了に向かいます。これまでに、積水ハウスが供給してきた太陽光発電は670メガワット(MW)を超えています。

一方、積水ハウスが同期間に事業で使用した電力量は12万MWh強です。それを賄うのに太陽光発電であれば120メガワットの容量で足ります。そこでFIT制度が終了したオーナーから積水ハウスが余剰電力を買い取ることで、オーナーのメリットを継続し、同時に積水ハウスも自然エネルギーに切り替えていけるのです。このようにして、顧客と共にRE100を達成していきたいと考えています。

賃貸住宅などのZEH化でマーケットリーダーを目指す

インタビューに答える石田 建一 積水ハウス株式会社 常務執行役員・環境推進部長兼温暖化防止研究所長

川村:今年度から始まった第4次中期経営計画を拝見すると、6分野からなる「CSV戦略」は、ESGと関連付けられて成長戦略と位置づけられていますね。

石田:今後の基本方針としては、賃貸住宅やマンションのZEH化や、既存住宅の省エネリノベーションの取り組みを進めていきたいと考えています。新しいマーケットを創り、その市場の中でリーダーになることを目指しています。

川村: ZEHを中心に売上高が伸びていますが、戸建の販売単価が上がる中で、CO2排出量は下がっています。これは「デカップリング」と表現しても良いのではないでしょうか。

石田:デカップリングと言えるかは難しいところです。人口減や新築の絶対量が減っていることによって、棟数が減っているからです。戸建の一軒だけを見るとデカップリングかもしれませんが、全体的には難しい気もします。

しかしながら、こうしたことはESG投資家から評価されると思います。実際、積水ハウスはDJSI World(注3)に選ばれていますし、RobecoSAM(注4)でもゴールドクラスに選ばれています。また、日本のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が採用した3つのESG指数の全ての構成銘柄に選定されています。

COPなどの国際会議に参加して感じることがあります。例えば日本政府は「温室効果ガスを2050年までに80%削減する」と目標に掲げているのにも関わらず、再生可能エネルギーではなく火力発電所を増やしていることについて、世界では批判を受けています。

今、世界が何を見ているかというと、言っていることとやっていることが一致しているかどうかです。ですから、積水ハウスの経営も「言行一致であるか」を常に自ら問わないといけません。

川村:持続可能な社会・環境の実現に貢献しつつ、自らも持続的な成長を図るためには、ご指摘のとおり、言行一致の企業経営が大事になると思います。そのためには、世界に向けてアンテナを高く立てることも必要です。本日は積水ハウスのフィロソフィーに触れた気がします。ありがとうございました。

(注1)「RE100」は再生可能エネルギー100%を目標に掲げる、世界の主要企業が加盟する国際イニシアティブ。ITから自動車まで幅広い業種を含む加盟企業は、低炭素社会への移行を促進させるよう、政策決定者や投資家へメッセージを発信している。Climate GroupがCDPとのパートナーシップの下で主催する「We Mean Business」連合の一部として活動する。
(注2)FIT制度:再生可能エネルギーの固定価格買取制度
(注3) DJSI World:Dow Jones Sustainability Index
の略。サステナビリティ投資の株価指標。
(注4) RobecoSAM:スイスのSRI格付機関。DJSIの格付けも手掛ける。

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石田 建一(いしだ・けんいち)
石田 建一(いしだ・けんいち)

1957年東京都生まれ。85年工学院大学大学院博士課程修了、積水ハウス入社。東京設計部、商品開発部、ICT推進部などを経て、2002年ICT推進部長、2006年温暖化防止研究所長、2012年4執行役員・環境推進部長兼温暖化防止研究所長、2016年4月から現職。

川村雅彦
インタビュアー川村 雅彦 (かわむら・まさひこ)

前オルタナ総研 所長・首席研究員。前CSR部員塾・塾長。九州大学大学院工学研究科修士課程修了(土木)。三井海洋開発㈱を経て㈱ニッセイ基礎研究所入社、ESG研究室長を務め、現在は客員研究員。環境経営、環境ビジネス、CSR経営、統合思考・報告、気候変動適応を中心に調査研究・コンサルティングに従事。(認定NPO法人)環境経営学会の副会長、(一社)サステナビリティ人材開発機構の代表理事。論文、講演、第三者意見多数。主要著書は『環境経営入門』『カーボン・ディスクロージャー』『統合報告の新潮流』『CSR経営 パーフェクトガイド』『統合思考とESG投資』など。