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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)
サステナブル・オフィサーズ 第20回

社会ニーズに応え、持続可能な企業をつくる――立石文雄 オムロン会長

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Interviewee
立石文雄 オムロン会長
Interviewer
森 摂 オルタナ編集長/サステナブル・ブランド国際会議総合プロデューサー

普通の企業は「顧客ニーズ」に応えることを目指すが、オムロンは「社会ニーズ」に応えることを目指してきた。この違いは、創業以来、同社の経営陣が常に事業と社会との関係性を考えてきたことに端を発する。さらには、サステナビリティ(持続可能性)と事業収益の両方を追うことを鮮明にし、役員の評価軸にもサステナビリティを取り入れた。その意図はどこにあるのか、立石文雄会長に聞いた。

根底にあるのはソーシャル性

――オムロンが2015年に改定した企業理念の「私たちが大切にする価値観」に「ソーシャルニーズの創造」という言葉が出てきます。一般的に企業では「顧客ニーズ」という言葉を使うことが多いですが、なぜ「ソーシャル」とされたのですか。

立石:その思いは創業者(立石一真氏)の生い立ちに遡ります。創業者は1900年に熊本で生まれ、小学校1年生で父を亡くし、5年生のころから新聞配達で母と弟を養いました。配達先の地域の人との温かい交流を体験しています。

その後、奨学金を頂いて熊本高等工業学校(現・熊本大学工学部)を卒業しました。このような背景があり、創業者は国のため、世界のために、より良い社会を創ることで恩返しをしようと考えました。その思いが今もオムロンの価値観につながっているのです。

――社会の課題を起点とした新規ビジネスの創出という考え方を、創業当時からお持ちだったのですね。

世界初の無人出札装置(北千里駅)

立石:私たちは自動改札機などの無人駅システムや電子式自動感応信号機、オンライン・キャッシュ・ディスペンサー(現金自動支払機)などを、それぞれ世界で初めて開発しております。社内では1955年を「オートメ元年」と宣言しました。日本のオートメーション事業はオムロンが先駆けたのです。今では何十万点もあるコンポーネント(部品)から、システムを構築し、装置をつくります。こういったニーズは、顧客だけからは見えてきません。社会全体を見るということが非常に大事です。

私たちは短期的な経営をしません。中長期的な視点で、いかに持続可能性を担保できるか、を考えています。企業としての利潤の追求だけではなく、どのように社会に貢献するべきか。そして創業者自身がつくりあげたのが、「われわれの働きで われわれの生活を向上し、よりよい社会をつくりましょう」という社憲です。

オムロンの企業理念

その精神を守りながら、事業を通じて社会的課題を解決し、より良い社会を創ることがオムロンの存在意義です。

「よりよい社会をつくりましょう」には2つの意味が込められています。一つは、企業は「社会の公器」であることです。事業を通じての社会的な課題の解決や、社会の発展に貢献するという志です。もう一つは、オムロンが世の中の先駆けになるということです。

より良い社会は、待っていれば誰かがつくってくれるわけではありません。オムロンが率先してチャレンジし、より良い社会をつくる先駆けになろう、という意志が込められています。

1990年には社名を「立石電機」から「オムロン」に変更しました。同時に1959年に制定された社憲を進化させ、企業理念に置き換えました。全社員に企業理念を理解してもらい、ソーシャルニーズを創造し、社員モチベーションを高めることを徹底しています。

サステナビリティと事業は不可分

――オムロンでは役員の評価軸にもサステナビリティを導入しました。

立石:企業理念改定プロジェクトの後、2015年から、サステナビリティをどのように実践するかという検討プロジェクトを、ほぼ1年かけて行いました。財務的価値がある事業はもちろん、世の中やステークホルダーの要請に応え、非財務的なサステナビリティの取り組みもしっかりと行うべきですので、サステナビリティにも重きを置くことにしました。

事業のKPIとサステナビリティのKPIを統合するのであれば、「サステナビリティをいかに推進、加速するか」という方向に社員の意識も向けさせるために、まずは役員から範を垂れることが必要です。

オムロンのサステナビリティが推進できているということを、第三者に客観的に、中期的に見てもらいたい。そこで、外部の評価企業からの評価を役員の報酬に反映させることにしました。

ビジネスをしていると「何のために仕事をしているのか」という命題に突き当たります。上司のため、社長のために働いているという考えも正しいのですが、企業の存在価値としては社会をより良くするために働いているのです。そこをしっかり認識しておけば、企業として、ぶれることはないのです。

民間企業は有限のリソースをいかに再配分するかが問われます。より良い社会をつくるために働くのであれば、サステナビリティと事業を分けて考えることはできません。

2030年からのバックキャスティング

――立石会長は、経団連の呼びかけにより設立されたCBCC(企業市民協議会)の副会長でもありますね。経団連は2017年11月に、企業行動憲章を7年ぶりに改定し、SDGsを前面に掲げました。

立石:前述したように、2015年に、企業理念をシンプルに実践してもらうために企業理念を改定しました。そのタイミングで国連がSDGsを採択し、日本でも2~3年前からESG(環境・社会・ガバナンス)投資という言葉も聞かれるようになりました。

世界で社会課題への意識が高まるタイミングが、私たちの理念の改定作業時期とリンクしました。経営計画にもSDGsが生かされています。オムロンは1990年度からこれまでに、10年ごとの長期ビジョンを策定しています。2017年度は3回目の長期ビジョン(2011~2020年度)の、最終の中期経営計画(2017~2020年度)のタイミングです。

世の中の流れが速くなり、2014年度から2016年度の中期経営計画の継続ではこの変化に対応できません。SDGsの目標年である2030年からのバックキャスティング(未来のある時点に目標を設定し、未来を起点に現在すべきことを考える方法)で経営計画を練らないと、これから先は通用しません。

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立石文雄
立石文雄

1972年慶応大学商学部卒業。1975年立石電機株式会社(現オムロン株式会社)入社。1987年OMRON CANADA INC.社長に就任。オムロン株式会社インダストリアル事業グループ営業統轄事業部マーケティングセンター所長(1993年)、コーポレートストラテジーセンター国際グループ長(1995年)を経て、1997年、取締役に就任。1997年11月OMRON EUROPE B.V.社長に就任。2003年 執行役員副社長、インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー社長に就任し、取締役副会長(2008年)を経て、2013年より現職。一般社団法人日本電機工業会(JEMA)理事、日本経済団体連合会常任幹事等を歴任。

森 摂
インタビュアー森 摂 (もり・せつ)

株式会社オルタナ代表取締役社長・編集長。東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。訳書に、パタゴニア創業者イヴォン・シュイナードの経営論「社員をサーフィンに行かせよう」(東洋経済新報社、2007年)がある。一般社団法人グリーン経営者フォーラム代表理事。特定非営利活動法人在外ジャーナリスト協会理事長。