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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)
サステナブル・オフィサーズ 第18回

「水と生きる」は社会への決意――福本ともみ サントリーホールディングス 執行役員 コーポレートコミュニケーション本部長

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Interviewee
福本ともみ サントリーホールディングス 執行役員 コーポレートコミュニケーション本部長
Interviewer
森 摂 オルタナ編集長 サステナブル・ブランド国際会議総合プロデューサー

サステナブルなブランドづくりにおいて、事業やCSR活動の方向性を決めるコーポレートメッセージは、重要な役割を担う。サントリーの「水と生きる」は抜群の知名度を誇るが、それがなぜ生まれ、どのように社内で機能してきたのか。グループのグローバル化が急速に進むなか、全世界の社員にどう理念を浸透させているのか。同社の福本ともみ執行役員コーポレートコミュニケーション本部長に聞いた。

「水と生きる」ことは事業の根幹

サントリーグループの理念体系

――サントリーのコーポレートメッセージ「水と生きる」の消費者認知度は7割を超えたそうですね。どのような経緯で生まれたのでしょうか。

福本:「水と生きる」には 1)お客様に水の恵みをお届けする企業として、貴重な水を守りたい 2)文化・社会活動を通じて社会と共生し、社会にとっての水となりたい 3)社員一人ひとりが水のように自在でしなやかに、力強く挑戦できる企業でありたい という三つの思いが込められています。これは当社の佐治信忠会長が社長に就任後、環境の時代である21世紀には新しい風を作りたいと社内に呼び掛け、2005年に生まれました。

企業理念に“わたしたちの使命(ミッション)”として「人と自然と響きあう」を掲げている当社は、自然の恵みをお客様にとって価値のある形にしてお届けするというビジネスを行っていますし、CSR活動も社会や自然と共生することを目指して取り組んでいます。この使命を、強い意志として社会に伝えていくために「水と生きる」というコーポレートメッセージを掲げました。

一方、「Growing for good」は“わたしたちの志(ビジョン)”です。さらに、これらのフレーズの土台にある「やってみなはれ」と「利益三分主義」という“わたしたちの価値観(バリューズ)”は、社員の行動原理や判断基準になっています。
自然が育む水資源に依存する当社は、水のサステナビリティ(持続可能性)が揺らいでしまうと、事業を継続していけません。サステナビリティ経営に取り組むことが事業の根幹なのです。

「水と生きる」は、会社と社員が「こうありたい」というコミットメントです。これを推進することが、ステークホルダーからの信頼の獲得につながります。社員のモチベーションの向上が顧客満足度やイノベーションを生み出し、長期的な競争力も強化できると考えています。

単にフレーズを唱えるだけではなく、社員に「水と生きる」を体感してもらうため、2014-2016年にかけてグループ会社を含めた国内6,000人を超える社員に、全国の「天然水の森」で、枝打ちや下草刈りなど森林整備を体験してもらいました。理念の共有には実践と体感が不可欠です。グローバル化やダイバーシティが進む中、基本となる価値観や創業の精神はしっかりと共有をしていきたいのです。

社会貢献の精神をDNAとして受け継ぐ

独自のプログラムである、次世代環境教育「水育(みずいく)」を展開

――環境についてのサントリーの中期目標を教えてください。

福本:当社では2013年に「2050環境ビジョン」と「2020環境目標」を設定しましたが、2015年の国連総会でのSDGs議決、国連気候変動枠組条約・第21回締約国会議(COP21)での「パリ協定」を受けて、「ビジョン」「目標」を見直すことにしました。現在、内容を詰めており、来年には発表する予定です。SBT(Science Based Target、科学的知見と整合した温室効果ガスの削減目標)も、認証取得に向けて検討中です。

――社会に対する長期的な取り組みについてはどうでしょうか。

福本:当社の社会貢献活動は、創業者の鳥井信治郎の時代に始まりました。当時は無料診療所の創設や、匿名で苦学生へ奨学金を提供した社会福祉活動が中心でした。2代目の佐治敬三が社長を務めた戦後の高度成長期にはサントリー美術館やサントリーホールを創設するなどの文化、芸術、学術活動への取り組みも開始しました。

ただ、業績好調な時だけ寄附や協賛を行うといった、一時的な社会貢献活動について佐治は懐疑的で、一時のブームではなく、企業活動の基本的な一部として継続していくべきだという考えでした。当社は創業期から、DNAのなかに「社会貢献」を保ち続けているのです。

2015年に始まった社内の学びの場である「サントリー大学」では、メインのプログラムとして「創業精神の共有」をテーマに掲げています。海外のグループ会社からキーパーソンが参加し、帰国後社内に創業精神を広める人材として育成する「アンバサダープログラム」では、サントリー美術館やサントリーホールの視察、次世代環境教育として展開している「水育(みずいく)」の体感研修やディスカッションを通じて、創業精神への理解を深めてもらっています。

「水」への思いは日本から世界へ

メーカーズマーク蒸溜所にて行われた植樹の様子

――サントリーは2014年に米バーボン業界最大手のビーム社を買収してビームサントリー社を設立。昨年には同社が「ナチュラル・ウォーター・サンクチュアリ」プロジェクトを立ち上げました。

福本:サントリーグループの「水と生きる」というメッセージに共感したビームサントリーが、自発的にプロジェクトをスタートしたのです。ケンタッキー州にあるメーカーズ・マーク(バーボン・ウイスキーの銘柄)蒸溜所の水源となっている地域で、森林保全の活動を始めました。

蒸溜所は風光明媚な土地にあり、従業員の地元愛も強い。そして、ケンタッキーは水が豊かで、石灰岩に磨かれたライム・ストーン・ウォーターは、バーボンウイスキーの命です。しかし、意外にも水資源を守るといった具体的な取り組みは行われていませんでした。

しかし、サントリーが日本で取り組んでいる水源かん養のための森林保全活動を知り、水資源の持続性が見直されました。地元の学術機関等と連携して行った流域の調査から浮かび上がった課題を受けて、本格的にサントリーと水資源保全活動を共有する動きが始まりました。

サントリーの活動が気付きのきっかけとなり、ビームサントリーが自発的に動き、またサントリーがレビューし、アドバイスするというサイクルを回しながら、共通の目標に向けて切磋琢磨していくという活動が始まったのです。

――今年4月にサステナビリティ戦略部を立ち上げた理由は何ですか。

福本:急速にグローバル化する事業の中で、国内で培った社会や自然との共生のための資産を生かし、企業理念である「人と自然と響きあう」に込めた想いを海外グループ会社とも共有することが重要だと考えています。その上で、世界レベルの社会課題にも対応しながら、企業理念を体現する活動を展開していくことを目指しています。そのために必要不可欠な「サントリーグループにとってのサステナビリティ戦略の構築」という意思を込め、新部署を立ち上げました。

ビームサントリーで始まった活動ですが、今後は欧州やアジアなど他の地域にも拡げ、水資源のサステナビリティに真摯に取り組む企業であることを目指してまいります。そのために先ず、本年1月に策定した「水理念」(水に関わる活動を行う際の基本スタンス)の浸透を図っているところです。

「水と生きる」というコーポレートメッセージは、グローバルに共有していく際に「Follow Your Nature」と表現しています。Natureは「自然」と「人間の持っている本質」という2つの意味があります。この理念の本質を世界に伝えることが重要だと考えています。

サントリーグループが世界の皆さんから信頼していただける「Good Company」として成長できるよう、あるべき姿をしっかりと描き、当社らしいユニークな取り組みを進めてまいります。

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福本ともみ(ふくもと・ともみ)
福本ともみ(ふくもと・ともみ)

慶応義塾大学大学院卒。1981年、サントリー株式会社に入社。2012年サントリー芸術財団サントリーホール総支配人、2015年サントリービジネスエキスパート株式会社常務取締役・お客様リレーション本部長などを経て2016年サントリーホールディングス株式会社 執行役員 コーポレートコミュニケーション本部長に着任、現職。兼職で公益社団法人 セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 理事。

森 摂
インタビュアー森 摂 (もり・せつ)

株式会社オルタナ代表取締役社長・編集長。東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。訳書に、パタゴニア創業者イヴォン・シュイナードの経営論「社員をサーフィンに行かせよう」(東洋経済新報社、2007年)がある。一般社団法人グリーン経営者フォーラム代表理事。特定非営利活動法人在外ジャーナリスト協会理事長。