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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)
サステナブル・オフィサーズ第17回

ミッションは「最強のCSV企業」をつくること――ヤフー 西田修一・執行役員 SR推進統括本部長

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西田修一・執行役員 SR推進統括本部長
Interviewer
森 摂・オルタナ編集長(サステナブル・ブランド国際会議総合プロデューサー)

ヤフーは宮坂学社長の就任以来、「課題解決エンジン」をミッションに掲げ、社会課題への対応を進めてきた。東日本大震災でも「ツール・ド・東北」や「Search for 3.11」など、他の企業とは一線を画す取り組みを続ける。この4月、新設のSR(Social Responsibility)推進統括本部のヘッドに就任した西田修一執行役員に同社のCSR/CSV戦略を聞いた。

課題解決エンジンの原動力は

――ヤフーは今春、SR統括推進本部を立ち上げました。その狙いと今後の方向性を教えてください。

西田:ヤフーのSR推進統括本部は一般的なCSR(企業の社会的責任)のイメージより広く部門を括っています。その下には、社会貢献事業本部と、広報などを担当するコーポレートコミュニケーション本部、CS(カスタマーサポート)本部、そして可視化推進本部があります。

可視化推進本部は、市場の動向などを可視化するのがこれまでの主なミッションでした。今後は、社会貢献と事業成長の相関性を示すことも必要になると考えています。

今後、事業会社が社会貢献活動を推進することの意味付けを、どこかで問われるのではないかと予測しています。ユーザーファーストや社会貢献を持続可能にするためには、それが事業成長にとっても良いことだと、相関性を示すことが非常に重要です。

――ヤフーはデジタルマーケティングの会社ですからね。「可視化」とははっきり見えない「モヤモヤしたもの」を「数値化していく」ということですか。

西田:そういうことです。自社の活動と社会の評価の相関性を見い出したいです。社会がより良くなることと、私たちの事業が良くなることの関係性を、最初にしっかり作りたい。

ユーザーファーストを掲げていますが、手前では、従業員がしっかりと幸せでなければいけません。従業員が幸せになるとユーザーファーストが推進できる、その相関性を示すという点でも、可視化が必要になります。

そのために、いわゆるES(従業員満足度)調査と、他のさまざまなデータを関連付けていくことが必要です。

例えば、社食では誰がいつ、何を食べたかが記録されます。食事の時間や内容と、社員のパフォーマンスや勤務状況、ここにES調査を加えて、データで社員満足度とパフォーマンスを関連付けることは可能なので、今後検討していきたいです。

――ヤフーがそれを数値化・可視化すれば、他の企業も参考にするでしょうね。世の中の企業全体にいい流れができてくると思います。首尾一貫して掲げている「課題解決エンジン」というミッションはどのような位置付けですか。

西田:私たちが目指すのは「UPDATE JAPAN」というヴィジョンを掲げている通り、「日本のアップデート」です。日本は世界で4番目に災害が多く、その他にもたくさんの課題を抱えています。

そんな日本をどうアップデートするのか、何をするかというと、日々の生活の中の課題を一つひとつ解決することが必要です。これが「課題解決エンジンであれ」という言葉に集約されます。課題解決エンジンとしての行動規範として、「バリュー」を設定しています。

――社員にCSR意識や社会意識、SRと事業を統合していく意識は浸透していますか。

社内調査で、約6割の社員は社会に何かをしたいと思っていると、数字で判明していますが、言葉としてCSVの浸透率は高いとは言えません。

ただCSV(共通価値の創造)が何かを、言葉で説明できることが重要だとは思っていません。自分のサービスが課題を解決していて、その結果利益を生み出している。それが共通価値の創造だと、体験的に理解されればいいのです。

SDGs(持続可能は開発目標)の認知も同様です。まず体験があり、俯瞰するとSDGsというものがあって、体験していることはSDGsの中で特定のターゲットに当たる。こういった順番で自分ごと化しないと、途端に迷子になってしまいます。

横の連携を生かす、災害時の取り組み

――最近、他社に呼び掛けて、緊急災害対応アライアンス(SEMA)を立ち上げましたね。

西田:災害時に、企業・NPOが連携して被災地の支援を行う取り組みです。

ヤフーでは、もちろんこれまでも災害時にはできる限りのことを全力で取り組んできました。熊本地震発生時には直後に現地に社員を送り、募金の立ち上げ、情報発信など支援のためのアクションを起こしています。その一方で、自社だけでできることには限界があります。

例えば、ヤフーは物資も流通のインフラも持っていないので、物資を用意したり届けたりすることは得意ではありません。なので、さまざまな分野の企業や災害支援を得意とするNGO/NPOの方々と一緒に手を組み、それぞれの得意領域を活かしながら、連携して被災地を支援しようという考えです。

「災害対策本部」を当社に設けて、そこで情報を集約・共有しつつ、物資として何が足りていて何が足りてないのか、どういう配送ルートがいいのかといった情報を集約します。その上で、A社にはこの物資をお願いしますとか、在庫がなければこちらはどうですかと、事務局であるヤフーが調整し、物流関係の加盟企業や現地で活動するNPO/NGOが協力して届けます。

日本は自衛隊や自治体の支援活動が非常に優れていますが、それでも間に合わない部分をSEMAが担いたい。次に、公助より高いレベルで、避難所生活、被災地での生活の向上を目指します。民間だからできることからはじめていきたいと考えています。

SEMAで連携している企業は現在、キリン、ファミリーマート、西濃運輸、ハート引越センターなど17社です。今後も製薬会社など、足りてない領域を中心に拡充したい。その後はできれば一社一業種ではなく、さらに層を厚くしていきたいと考えています。

「ヤフーを最強のCSV企業に」

――SR推進統括本部の責任者として、西田さんのミッションとは。

西田:僕の個人的なミッションは、ヤフーを「最強のCSV企業」にすることだと思っています。プロダクション部門からコーポレート部門に異動し、会社を俯瞰的にみられるようになり、やはりこの会社にはたくさんの可能性があると感じました。先述したように、「社会に何かしたい」というマインドを持っている社員が6割もいます。

ところが実際、社員たちが社会課題に出合う機会はまだまだ少ない。ここにうまく刺激を与えることで、この会社はもっとたくさんの課題を解決できるし、新規ビジネスやイノベーションというのが生まれてくると期待しています。

最近、実験的に「社会課題×U(You・あなた)」という社内ワークショップを立ち上げました。専門家に講演をしてもらい、社会課題の解決についてディスカッションする、といった社内イベントです。普段、例えばヤフー・ショッピングの担当者は、買い物をする人の課題をどうやって解決するか非常に知恵を絞っていますが、子どもの貧困問題について深く考える機会は多くありません。

子どもの貧困問題と自分たちが持っているショッピングのシステムを掛け合わせると、何か生まれるかもしれない。こういう刺激や揺さぶりを投げかける場が必要と考えています。第一回目は子どもの貧困をテーマに、100人近くの社員が集まり、話し、聞き、考えてくれました。

「できることはやればいい」がブランドに

――社会貢献、地域貢献することが企業の価値を上げると考えていますか。

私たちにとってのメリットもしっかり示さないとそれを続けられません。しかし、私たちが何かできることがあるなら、やればいいと思っています。一見、会社にメリットのないことでも、しっかり知恵を使えば、何かを生み出せます。直接的、金銭的なメリットでなくてもいいのです。

東日本大震災の復興支援では、初年度でもソーシャルで97万のシェアがありました。「いいね!」ではなく、シェアの数字です。実感として、社会の中で「ヤフーは災害対応に強い」という認識が広がっています。

このような認知、ブランディングにつながれば、それは大きなメリットです。他にも、採用競争力が高まるといったことも考えられます。

「お金儲け」と限定して考えると、できることは非常に少なくなってしまう。広い目で、間接的、長期的視点で考えると、多くのことにメリットがあります。だからこそ、持続可能に、広く社会課題の解決に取り組むことができます。

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西田 修一(にしだ・しゅういち)
西田 修一(にしだ・しゅういち)

ヤフー株式会社 執行役員 コーポレートグループSR推進統括本部長。2004年、ヤフーに入社。2006年から「Yahoo! JAPAN」トップページの責任者を務める。2013年に検索部門へ異動。東日本大震災の復興支援キャンペーン「Search for 3.11 検索は応援になる。」や検索で一年を振り返るイベント「Yahoo!検索大賞」を立ち上げる。2015年4月に検索事業本部長およびユニットマネージャーに就任。2017年4月から現職。

森 摂
インタビュアー森 摂 (もり・せつ)

株式会社オルタナ代表取締役社長・編集長。東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。訳書に、パタゴニア創業者イヴォン・シュイナードの経営論「社員をサーフィンに行かせよう」(東洋経済新報社、2007年)がある。一般社団法人グリーン経営者フォーラム代表理事。特定非営利活動法人在外ジャーナリスト協会理事長。