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サステナブル・オフィサーズ第13回

「まちづくり」を成長戦略の基軸に―竹中工務店・関谷哲也執行役員

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Interviewee
関谷 哲也・竹中工務店 執行役員 経営企画室長 ※
Interviewer
川村 雅彦・オルタナ総研所長

1990年代から環境経営に取り組んできた竹中工務店は、2012年の戦後初の赤字を契機にCSR経営へシフトした。早期に収益改善を果たし、社会に価値を提供したいと考えた結果、2025年を目標とする経営戦略を策定。2016年に「安定経営を確保する」としたステップ1が終わり、ステップ2が始まった今、その陣頭指揮を執る関谷 哲也・竹中工務店 執行役員 経営企画室長に話を聞いた。

川村:竹中工務店は早い時期から環境経営に取り組んでこられましたが、現在のCSR/CSVの考え方や成長戦略についてお聞かせください。

関谷:私は、8年間のヨーロッパ駐在を経て、2012年3月に企画室長に就きました。2012年は全社で本格的にCSRに取り組み始めた年となりましたが、同時に当社にとって戦後初の赤字を出した年でもありました。

当時は建設業の経営環境が厳しい時で、東京オリンピック・パラリンピックも決まっていませんでした。業績が苦しい中で経営計画を立てる立場として、会社として生きながらえる為にも、長期ビジョンが必要であると考えたのです。

そこで浮上してきたキーワードが「グループ」と「グローバル」でした。以前からその議論はありましたが、実際に経営戦略や経営計画に落とし込んではいなかったのです。そこで、2013年に2014年からの3か年事業計画の立案に先立ち策定したのが、「グループ成長戦略」です。

「竹中グループCSRビジョン」を策定する時には、「我々の事業領域は何か」を根底から考え議論した結果、出てきたのが「まちづくり」という言葉でした。

川村:建築が本業ですから、必然的に「まちづくり」という言葉が出てきたわけですね。貴社のコーポレートレポートには「サステナブル」という言葉がよく出てきます。

関谷:建設請負業は、お客様の事業計画や行政の都市計画があってこそ成り立つものです。しかしながら、今後企業は何のためにあるかという議論の中で、まずは前提となる「社会的課題は何か」について、役員自身が深堀をする必要があるということに思い至りました。

CSRビジョンの策定では、地球環境、地域社会、顧客、従業員、協力会社などのステークホルダーを意識しました。そうすることで社会的課題を共有し、事業内容や専門性で応えながら、サステナブルな社会の実現に貢献していくという方向になりました。

川村:社会的課題を認識し、それを解決するプロダクトを提供することで、持続可能な社会づくりに貢献するという考え方は、CSR/CSVの研究者としてもしっくりきます。

関谷:社会全体が抱える課題には、少子高齢化、エネルギー問題、災害リスク、社会インフラの老朽化などがあります。この社会的課題を解決するというビジョンを実現していけば、「請負」という事業形態からさらなる進化を遂げることが出来るのではないかと思います。

これまでの請負業は建物の工事が完成すると業務が終了します。しかし、建物を使ってどのように価値を創り出すかを求めていくと、必然的に「サービス」ということになります。それを「まちづくりを通じて、未来のサステナブル社会へつなぐ」と表現しました。

川村:それは「ソリューション・プロバイダー」になることですね。「まちづくり」は点から面への広がりですが、「まちのライフサイクル」を全体として捉えていると感じます。どういう経緯で、そこまで辿り付いたのですか。

関谷:CSRビジョンは経営企画室が中心となって検討しましたが、役員検討会や役員がセミナーを受講して、理解を深めるなどの積み重ねをした結果です。ビジョンは取締役会で決議され、企業理念の新体系として新しい風を吹き込むことができたと思います。

2013年に就任した宮下正裕 取締役社長の専門は都市計画で、実際に街づくりをしていました。従いまして、社長のメッセージとして強い、説得力のあるものとなりました。

収益向上のためにプロジェクトの生産性を上げていくと同時に、長期ビジョンの備えをしていくことが、両輪として回り出しました。ステップ1の2014年から2016年はそういう時期でした。

ネット・ゼロエネルギービル(ZEB)の普及促進で「脱炭素社会」を目指す

川村:成長戦略は2025年、「環境コンセプトブック」では2050年をゴールとされています。2025年と2050年の関係性はありますか。

関谷:地球環境のことを考えると、それだけのロングスパンが必要です。両者は齟齬がある関係ではなく、整合性をもって並立させています。

川村:地球環境については、パリ協定は2050年を一応の目途にしていますし、違和感はありません。早い段階で2050年を目標にされました。

関谷:ビルのZEB化を実現したのは本当に最近のことですが、やっと2050年という数字にリアリティが出てきました。ZEB促進のために、省エネルギー型ビルとして「ZEB Ready」「nearly ZEB」という考え方を導入しています。

川村:ZEBプロジェクトが12件ありますが、業界では多い方ですか。さらに創エネルギー量がエネルギー消費量を上回るネット・プラスエネルギービル(PEB)はいかがですか。

関谷:ZEBは突出しているわけではありませんが、自社ビル(東京本店)は2004年竣工だったので、10年以上の実績となります。PEBについては、当社のZEB改修した東関東支店で達成見込みですが、エネルギーマネジメントをビル単体で考えるのではなく、ビルをネットワークでつなぎ、相互補完やエネルギー源の共有を考えることも必要ではないかと考えています。

ネガティブ情報の開示は今後の課題

川村:ここまでお話を聞く限りでは、ステークホルダーへの対応が弱い印象を受けます。

関谷:建設業では職人や技術者が不足しています。そこで、主要協力会社で構成した「竹和会」とともに、技術者育成や技術継承などに取り組んでいます。

川村:人材のダイバーシティはいかがでしょうか。

関谷:やはり、女性活躍推進が大きな課題ですが、より広い視点が求められていると社内で議論していて、多様な人々が多様な働き方ができるよう取り組んでいます。

川村:建設業界では、業種特性もあって長時間勤務が問題になっていますね。

関谷:おっしゃる通り、建設業の特性として長時間勤務は否めません。内外勤の生産性を上げ、ゆとりのある生活をしつつ、一定のビジネス成長を目指す具体的計画を、この3年間で実施しようと考えています。

川村:企業は人で成り立っているわけですから、内部のステークホルダー対応は重要です。しかし、KPIを含め数値パフォーマンスが開示されていないことが気になります。

関谷:「竹中コーポレートレポート」の第三者意見でも指摘されました。今後は開示していくつもりです。単に見える化して結果管理をすることを目的とはせず、現在、事業領域プロセスのストラクチャーを検討しています。この春に少し改善したレポートを発行する予定です。

川村:グローバル展開をされていますが、連結売上は国内中心に見えます。海外の売上比率はどのくらいですか。

関谷:海外売上比率はピーク時で16.5%です。大規模プロジェクトを受注すると突出した数字になりますが、昨年は少し下がりました。海外事業については明確なビジョンがありませんでしたが、本年からの経営計画に織り込まれましたので、これからは成長を志向することになります。

川村:海外事業の管理者は、現地の人が担っているのでしょうか。人材のローカル化は、ダイバーシティそのものです。

関谷:今は国内が忙しく、日本人を海外へ出せない状況です。ですから必然的にローカル主導になってきました。海外の副支店長クラスは現地の方が務めています。

バブル以降、海外出張や留学は減りましたが、ここ3年くらいは積極的に社員を海外に出しています。海外駐在も若いうちから経験してもらおうと、プログラムを組みました。逆に海外社員が日本で研修を受けることもあります。

川村:ところで、CASBEEの件数が減っていますが、その理由は何でしょうか。

関谷:2015年は下がりましたが、2016年は増加しており一時的なものと考えています。また、そのことを含めて、ネガティブ情報の開示については議論しているところです。既に事案件数は把握していて、法令違反かハラスメントかといった分析はしています。ただ、社外にお伝えするところまでは至っていません。

社会貢献活動をすることで事業につなぐ

川村:貴社では、2030年や2050年はどんな社会になっているとお考えですか。

関谷:日本社会に国際競争力があるかどうか、地方が活性しているどうかが「カギ」になると思います。実は「まちづくり」を考えた時に、街の多様性に気づきました。

街は単に国際競争力や人口増加で評価することはできません。脱炭素社会や循環型社会を目指す中で、グローバルに売れる資源や技術を蓄積していくべきでしょう。そうすることで、街ごとに戦略が立てられる専門家になることができます。

川村:そういう企業や人材が求められているということですね。

関谷:日本でも街ごとに課題が違う、と考えるべきです。CSVとは社会的課題を事業で解決するものですが、「非事業で解決する」というモードもあると思います。

例えば、生物多様性に問題があれば、自ら原因を調査する必要があります。でも、自分で森づくりをしなければ、それには気づきません。すぐには事業にならないかも知れませんが、社会貢献活動をきちんとしていないと事業につながらないと思っています。

川村:単なる社会貢献ではなく、「戦略的社会貢献」ということですね。

関谷:おっしゃる通りです。非事業モードが長くても、短期的な収益をあまり気にしすぎる必要はないと思います。当社では社会貢献活動をする従業員を表彰しています。その活動をCSR部署で一元的に把握し、社内共有や新規開発に試したりしています。事業性がすぐ見えるものだけをやるべきだ、というスタンスでは、企業の持続的な成長は望めません。

川村:「まちづくり」はその場所だけで帰結するものではなく、バリューチェーンの中であらゆるステークホルダーとの交流が大切だと思います。本日は、どうもありがとうございました。

※インタビュー当時。平成29年3月28日付 常務執行役員に就任。

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関谷 哲也(せきや・てつや)
関谷 哲也(せきや・てつや)

1984年3月東京大学大学院 工学系研究科建築学専攻 修士課程修了後、4月に株式会社 竹中工務店に入社。プラントエンジニアリング本部 課長、CM本部長、アセットバリュープロデュース本部長、国際支店 ヨーロッパ竹中 代表を歴任。2012年企画室長、2013年に執行役員 経営企画室長に就任し、経営企画に携わる。2017年3月28日付で常務執行役員に就任。

川村雅彦
インタビュアー川村 雅彦 (かわむら・まさひこ)

前オルタナ総研 所長・首席研究員。前CSR部員塾・塾長。九州大学大学院工学研究科修士課程修了(土木)。三井海洋開発㈱を経て㈱ニッセイ基礎研究所入社、ESG研究室長を務め、現在は客員研究員。環境経営、環境ビジネス、CSR経営、統合思考・報告、気候変動適応を中心に調査研究・コンサルティングに従事。(認定NPO法人)環境経営学会の副会長、(一社)サステナビリティ人材開発機構の代表理事。論文、講演、第三者意見多数。主要著書は『環境経営入門』『カーボン・ディスクロージャー』『統合報告の新潮流』『CSR経営 パーフェクトガイド』『統合思考とESG投資』など。