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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)
サステナブル・オフィサーズ第10回

「A SUSTAINABLE FUTURE」に込めた、人と自然の豊かさとは―窪田 弘美・ヤンマー執行役員

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Interviewee
窪田 弘美 ・ヤンマー執行役員 ブランドコミュニケーション部部長
Interviewer
森 摂・オルタナ編集長

ヤンマーが2015年8月、「A SUSTAINABLE FUTURE」という新たなブランドステートメントを打ち出した。2012年に創業100年を迎え、次の100年を見据える中で、ヤンマーの山岡健人社長は「サステナブル」というキーワードに着目した。単に農機を生産するだけではなく、農業や農産物の価値を高め、地域の自然、社会、人々をより豊かにすることが自社の存在意義と位置付けた。それを自社のテクノロジーを通じて実現したいと意気込む。

――ブランドステートメントの「A SUSTAINABLE FUTURE」に「サステナブル」という言葉が使われた経緯について教えてください。

窪田:創業者の山岡孫吉は、「燃料報国」という理念を掲げていました。報国とは国に報いることですが、エネルギーを有効活用して農家の皆さんと一緒に収益を上げる、というものでした。

ヤンマーのDNAにそういう理念がありましたので、必然的に「サステナブル」という言葉が出てきました。「サステナブル」というと環境のイメージがありますが、当社は、自然と人の両方の豊かさをテクノロジーの力で追求していこうと考えています。最大限の豊かさを最小限の資源で実現することを目指しています。

――「A SUSTAINABLE FUTURE」には「テクノロジーで、新しい豊かさへ」というサブタイトルがありますね。

窪田:ブランドステートメントを打ち出すことには、2つの目的がありました。一つは、当社が100年の間で培ってきたブランドイメージが、天気予報の「ヤン坊マー坊」で、会社の実態を正しく表せていないのではないかと思いました。

大型船舶のエンジン製造やエネルギーシステムなど、研究・開発・製造・販売をやっている総合産業メーカーであるのに、農機のイメージが強い。何を目指している会社なのか、社会に理解してもらうことが必要でした。

もう一つは、社員の意識を変えることです。世の中の変化のスピードが早い中で、100年後にどういう会社を目指すのか、「A SUSTAINABLE FUTURE」を示すによって、社員の求心力を高めたかったのです。

――社員の意識を変えるタイミングにあった、ということですか。

窪田:そうですね。当社の産業はニッチですし、日本の農業マーケットは年々厳しくなっています。今まで通りのやり方ではやっていけないですし、グローバル展開の加速も必要です。

――事業の売上比率について教えて下さい。

窪田:アグリが全体の3割強で一番大きいです。日本と海外の比率で言うとほぼ、5割ずつ。特に海外事業の比率が上がってきていますから、ブランドステートメントを海外にアピールしていくことが必要です。

「サステナブル」をヤンマーのテクノロジーで実現

――「A SUSTAINABLE FUTURE」の発表のタイミングはいつ頃でしたか。

窪田:2015年8月です。今年度に入る前に各事業部で、「〇〇をすることによって、サステナブル・フューチャーを目指す」という宣言を、社内のイベントで行いました。

山岡社長の思いを理解してもらうため、社長と若手社員が座談会をしました。それをビデオに撮り、イントラや食堂で流し、社内報で紹介しました。社員一人ひとりが自分ごととして捉えることが必要です。

――社員の反応はいかがでしたか。

窪田:いつまでも豊かな自然が続くこと、そして人間の生活や暮らしが豊かであること。それを両立することが、ヤンマーの目指しているサステナビリティだと説明して、イメージが湧くようにしました。

更に「ヤンマーのテクノロジーで実現する」と伝えると身近になります。具体的にどんな社会を目指しているかを、4つに分けて、私共の活動の全てが、この4つの社会のどれかを実現することにつながっていく、と考えられるようにしています。

4つとは、「省エネルギーな暮らしを実現する社会」「安心して仕事・生活ができる社会」「食の恵みを安心して享受できる社会」「ワクワクできる心豊かな体験に満ちた社会」のことです。

――サステナブルな社会の実現には、地域や社会との対話が重要ですね。

窪田:社長からの指示で、とにかくお客様の声を聞いて、課題に応えることを優先しています。それも、自分たちだけで解決するのではなく、他社やNGO/NPOと協働して課題を解決していくことが大切です。

だからこそ「A SUSTAINABLE FUTURE」を打ち出すことが必要でした。何をやりたい会社なのか、何を目指している会社なのかを対外的に打ち出すことによって、様々な機会が生まれます。潜在的な未来のパートナーに対してもアピールしたかった。

――いま言われたことは、企業としての存在意義に関わることだと思います。

窪田:「わたしたちは自然と共生し、生命の根幹を担う、食料生産とエネルギー変換の分野で、お客様の課題を解決し、未来につながる社会と、より豊かな暮らしを実現します」がミッションステートメントです。食糧生産とエネルギー変換は、まさに当社のコアです。私たちの使命は大きいと思います。

企業の存在意義「パーパス」

――最近、存在意義という意味で「パーパス」という言葉が使われています。「ミッション・ビジョン・バリュー」は企業戦略の基本ですが、あるべき姿や方向性・やるべきことの根の部分が、パーパスです。企業の存在意義を考えると、社会との関わり方が非常に大事になってきます。

窪田:そうですね。当社としては物を売っているだけの会社ではないということを、きちんとアピールしたかった。特に、食糧生産とエネルギー変換に関する課題を解決していきたいです。

――食糧危機や貧困は非常に大事な問題です。社会の声を聞く仕組みはありますか。

窪田:当社では「担い手がいなくて困っている」という農家の声を直接聞いて、トラクターのデザインを魅力的に変えるという方向につなげていきました。

――2016年度グッドデザイン金賞を受賞した「YT3シリーズ」ですね。

窪田:奥山清行さんのデザインで、奥山さんは実際に農家を回ってヒアリングしました。皆さんの声をもとに、見た目だけでなく乗り心地や快適な操作性など、細部にこだわっています。

――奥山さんは、社外取締役に就任されていますね。

窪田:当社は全製品をデザインの力でより魅力的なものにしようしています。経営面でも、アドバイスをいただくためにお招きしました。奥山さんご自身も会社をお持ちですので、経営者の視点、グローバルな視点で厳しい意見をいただけることは、いい刺激になり、当社の強みです。

得意分野で日本の農業を守る

――僕らが子供のころは故郷にトンボがよく飛んでいましたが、今は絶滅の危機に瀕しています。その原因の一つがネオニコチノイドなどの農薬とされていますが、ヤンマーでも何か取り組みをされていますか。

窪田:岡山県倉敷市にオープンしたバイオイノベーションセンターで、環境に負荷をかけない農業の研究・開発をしています。

――農薬を減らす、という考えは盛り込んでいますか。

窪田:もちろんです。お客様の土の成分について、データを示さないと理解していただけないですから。

――御社にはリーダーシップを取っていただいて、日本の空にトンボが飛ぶようなストーリーが描けると力強いです。

窪田:実は当社のロゴは、「オニヤンマ」をモチーフにしており、ヤンマーという社名もトンボから来ているのです。それほど、当社は創業以来、農業だけではなく、自然とのかかわりを大切にしてきました。

農家の収益を上げるということも、日本の農業を守ることにつながると思います。本社の最上階にある社員食堂を「Premium Marche OSAKA」に名称を改め、2月4日から週末限定で一般にも開放します。直接、生産者の野菜で作った食事を提供します。

ロボットトラクターで作業効率を上げることも、農家を支援することにつながっていくはずです。日本だけでなく、世界的にも食糧生産の効率を上げていくことは、大きな課題です。私共は私共の得意分野で農家を支援することが出来ると思います。

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窪田 弘美(くぼた・ひろみ)
窪田 弘美(くぼた・ひろみ)

広島県出身。1984年成城大学経済学部卒業後、通信、IT関連の外資系企業にてマーケティング、広報を担当。レノボ・ジャパン株式会社にてコーポレートコミュニケーション ディレクターを務めた後、2015年6月ヤンマー株式会社に入社、執行役員、ブランドコミュニケーション部部長に就任。企業ブランディング、パブリックリレーション、スポーツマーケティングを統括している。

森 摂
インタビュアー森 摂 (もり・せつ)

株式会社オルタナ代表取締役社長・編集長。東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。訳書に、パタゴニア創業者イヴォン・シュイナードの経営論「社員をサーフィンに行かせよう」(東洋経済新報社、2007年)がある。一般社団法人グリーン経営者フォーラム代表理事。特定非営利活動法人在外ジャーナリスト協会理事長。