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サステナブル・オフィサーズ 第3回

エネルギー開発企業として人権と環境に配慮―橘高 公久・INPEX取締役常務執行役員経営企画本部長

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Interviewee
橘高 公久・国際石油開発帝石取締役常務執行役員経営企画本部長
Interviewer
川村 雅彦・オルタナ総研フェロー

世界各地で石油・天然ガスの探鉱・開発・生産・販売事業を行う国際石油開発帝石(INPEX)は、操業地の地域社会を重要なステークホルダーと位置づける。特にオーストラリアにおける先住民への対応は、ベスト・プラクティスと言っても過言ではない。北村俊昭社長のトップダウンのもと、橘高公久取締役常務執行役員が陣頭指揮をとり、サステナブル経営を全社一丸となって取り組んでいる。

国際的ソフトローからCSRの重点課題を特定

橘高取締役常務執行役員は、開発事業という特性上、特に事業展開する国や地域に自社がどういう価値観・活動をするのかを丁寧に説明する必要があると語る

川村:INPEXの「サステイナビリティレポート2015」を拝読すると、CSR/CSVに関する必要かつ十分な事柄が簡潔に書かれていて、大変優れたレポートだと思いました。

橘高:INPEXは2008年に国際石油開発と帝国石油が経営統合してできた新しい企業です。当社は、世界20数カ国で約70の石油・天然ガスの探鉱・開発・生産事業を実施しています。事業の性質として40-50年という長期的な視野にたち、操業する地域社会に受け入れていただくためには会社の理念やビジョン・展望を伝え、理解していただくことが重要だと考えています。

我々の業界では「ソーシャル・ライセンス・トゥ・オペレート」(社会的操業許可)と言いますが、事業を行う国や地域から、INPEXという会社がどういう価値観をもち、どういう活動をするのかを認知していただくことが必要です。

そのために社内でもしっかりと議論し、その第一歩として、2011年に国連のグローバル・コンパクトに参加しました。また、事業活動においても国際金融公社(IFC)が定める社会と環境の持続可能性に関するパフォーマンススタンダードの自主基準化を行っています。

川村:長期的な事業継続のために、国際的なソフトローの観点からも具体的な会社の姿を内外に見せるということですね。

橘高:SDGs (国連の持続可能な開発目標)とISO26000(社会的責任に関する国際規格)への対応が重要な取り組みだと思います。これらを意識しつつ、CSR活動における重点テーマを示し、全社で取り組んで行くというプロセスの構築は、社長のリーダーシップによるものでした。

当社は2012年に社長を委員長とするCSR委員会を設置し、その下にCSR推進連絡会を設け、社員全員参加でCSR活動ができる仕組みを作りました。また同時期に設置した経営諮問委員会にはCSR分野の外部有識者に委員として参加していただいています。

エネルギー開発会社としての使命

川村:INPEXはやや国策に近い位置付けにある会社だと思います。そこで、エネルギーを安定供給する使命感についてお聞かせ下さい。

橘高:エネルギー企業としてより良い形でエネルギーを安定供給することが当社のCSVであり、使命だと思っています。エネルギーは広く経済活動や人々の生活に関わる重要な役割を担っています。日本をはじめ資源国、さらには世界へのエネルギー安定供給とそれを通じた経済や産業への貢献について強く意識しています。

目下当社がオペレーターとしてオーストラリアで進めている大型の「イクシスLNG (液化天然ガス)プロジェクト」についても、関係者は皆このような貢献につながる事業として使命感とプライドを持って取り組んでいると思います。

川村:社内浸透の努力はどのようにされていますか。

橘高:CSR/CSVは社内にも徹底しないと意味がありません。社長を委員長とするCSR委員会を中心とし、各部の実務者レベルで構成されるCSR推進連絡会を定期的に開催しています。また、社長が毎月発信するメッセージの中でもCSR/CSVに触れるとともに、イントラネットのCSRサイトを活用して情報発信を行い、社内周知に努めています。

川村:多くの日本企業では担当者レベルからの「ミドルアップ」が多いのですが、トップダウンにより上手く縦横の社内連携ができているようですね。社会的責任投資(SRI)の株価指標「FTSE4Good」に選定されましたが、それはどういった経緯からでしょうか。

橘高:第三者による客観的な評価は、良ければ良いで励みになり、悪ければ悪いなりに気付きになります。これまでもダウジョーンズ、モーニングスターや CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)などのSRIインデックスへ組入れられるよう努力してきました。

情報開示の充実や取り組みについて分かりやすい説明を行ってきた結果、指標に採用される機会が増えてきました。今年は、FTSE4Goodのグローバル・インデックスに初めて組み込まれるなど、当社の社会的責任投資について評価が高まっているようで、嬉しく思います。このような外部評価は継続することが大事ですので、引き続き努力していきたいと思います。

川村:エネルギー開発という業種特性を踏まえた、6つのCSR重点テーマ「HSE(健康・安全・環境)、地域社会、気候変動対応、従業員、コンプライアンス、ガバナンス」についてお聞かせください。

橘高:従業員、コンプライアンス、ガバナンスについては業種を問わず当然しっかり取り組まなくてはいけないことですが、開発企業としてHSEは特に重要です。石油・天然ガスの大規模な開発では、日々の安全操業はもちろんのこと、万一事故が起こった時の適切な対応も予めしっかり考慮したリスクマネジメントが非常に重要です。

開発・生産した石油や天然ガスが日本だけでなく、操業地のエネルギーの安定供給に繋がると、それはひとつのCSVになると考えています。従って資源開発を事業とする当社では、強く地域社会を意識しています。

地域社会は重要なステークホルダーであり、資源国を意識した仕事の進め方が非常に重要です。また、気候変動対応については、CO2排出等への対応が中心となりますので、国内外の動向を十分注意し、責任ある取り組みを進めていく必要があると考えています。

オーストラリア先住民へのリスペクト

川村:オーストラリアの「イクシス LNG プロジェクト」の開発作業を進めるにあたって、INPEXは先住民に対し非常に丁寧な対応をされてきました。先住民とのダイアログについて詳しくお聞かせください。

橘高:陸上のガス液化施設の設置に際して、北部準州から、熱心な受け入れの表明をしていただきました。当社としても期待に応えるべく、プロジェクトの内容だけでなく、プロジェクトが与える影響やメリットなどに関し、正確に理解していただくよう留意しました。

ダーウィン湾をLNG輸送船が安全に航行できるよう、必要な水深を確保するために行った浚渫作業に関しては130回以上の対話を行い、環境影響調査は200回以上行いました。伝統文化の保護や雇用機会の拡大、さらにプロジェクト成果の一部を地域に還元することなどを盛り込んだ「先住民社会との協調活動計画」(RAP)は毎年更新しています。

川村:先住民の土地や水の権利は「国連先住民族権利宣言」で認められたことから、グローバル社会では当たり前になっています。先住民は土地や水のトラディショナル・オーナー(伝統的な所有者)と表現されます。

橘高:オーストラリアでは先住民の権利がしっかりと保護されているようです。当社でも先住民の歴史と文化をリスペクトし、信頼関係の構築を第一に考えています。

事業を通じた気候変動問題への対応

川村:経営戦略やビジョンにおいて、COP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)の「パリ協定」を意識した2050年のイメージはありますか。

橘高:現在の中長期ビジョンは2020年代を見通した内容ですが、COP21や国内におけるエネルギーのベストミックスは2030~2050年を見通して議論しているところです。長期の経営環境を見越し、地球温暖化対策には正面から取り組む必要があると考えています。

同時に人口増加と生活水準の改善・向上を背景に、石油・天然ガスの世界的な需要は今後も拡大すると予測されていますので、エネルギーの安定供給の重要性は変わることはないでしょう。

特に天然ガスは化石燃料の中でも環境優位性のあるエネルギー資源ですから、インフラを整備し、より多くの人々が使えるように供給することが、CSVとして当社に課された使命です。

再生可能エネルギーに関しては、インドネシアで世界最大規模の地熱発電所の開発を行うサルーラ地熱発電プロジェクトに参画していますし、国内では北海道、秋田、福島での地熱発電の事業化に向けた調査活動を行っています。太陽光発電事業や電池事業のほか、CO2のメタン化や水素利用などにも長期的な視点を持って取り組んでいます。

川村:気候変動への「適応adaptation」について、オペレーション事業における経営上のリスクとして議論されていますか。ダボス会議のグローバルリスク調査では、近年、「適応の失敗」が上位に位置づけられています。

橘高:適応については、まだ確立した対応とまでは言えないのですが、昨年12月の「パリ協定」合意を受け、当社が加盟する国際石油産業環境保全連盟(IPIECA)が発行する意見書に則った形で、当社の考え方や対応策をまとめた気候変動問題に関するポジションペーパーを公表しました。ポジションペーパーの具体的な取り組みは毎年アップデートし、開示します。

川村:適応に関する課題設定を行い、アクションはこれからということですが、日本企業として、問題認識されていること自体が大変素晴らしい。事業と適応が裏表を成すことで、サステナブルな経営につながると思います。本日は、貴重なお話ありがとうございました。

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橘高 公久(きったか・きみひさ)
橘高 公久(きったか・きみひさ)

1957年9月23日生まれ(58歳)。1981年3月東京大学法学部を卒業し通商産業省(現・経済産業省)入省。JETROニューヨーク貿易保険事務所長、内閣官房内閣参事官(政府関係法人改革担当)、大臣官房審議官(消費者政策担当)、九州経済産業局長等を歴任。2010年退官後、国際石油開発帝石入社。経営企画本部企画渉外・法務ユニットシニアコーディネーターとなり、経営企画に携わる。2011年6月同部経営企画ユニットジェネラルマネージャー兼広報・IRユニットジェネラルマネージャー、2012年6月執行役員、経営企画本部本部長補佐を経て2016年6月に取締役常務執行役員、経営企画本部長に就任、現在に至る。

川村雅彦
インタビュアー川村 雅彦 (かわむら・まさひこ)

前オルタナ総研 所長・首席研究員。前CSR部員塾・塾長。九州大学大学院工学研究科修士課程修了(土木)。三井海洋開発㈱を経て㈱ニッセイ基礎研究所入社、ESG研究室長を務め、現在は客員研究員。環境経営、環境ビジネス、CSR経営、統合思考・報告、気候変動適応を中心に調査研究・コンサルティングに従事。(認定NPO法人)環境経営学会の副会長、(一社)サステナビリティ人材開発機構の代表理事。論文、講演、第三者意見多数。主要著書は『環境経営入門』『カーボン・ディスクロージャー』『統合報告の新潮流』『CSR経営 パーフェクトガイド』『統合思考とESG投資』など。