持続可能な生理用品「月経カップ」を普及させるには? 立命館大らプロモーション戦略を提案
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:Vanessa Ramirez
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持続可能な生理用品である「月経カップ」はなぜ普及しないのか。立命館大学政策科学部などの研究チームはこのほど、日本とフランス、インドネシアの消費者を対象に調査を行い、月経カップの利用を促進するための効果的な戦略を探った。(翻訳・編集=小松はるか)
柔軟性のある医療用シリコンでつくられ、繰り返し使える月経カップは、使い捨ての生理用ナプキンやタンポンに代わる持続可能な製品だ。しかし、普及は限定的で、その要因も完全には明らかになっていない。
今回の調査により、月経カップの費用対効果が最大のセールスポイントになる可能性があることが明らかになった。米総合病院のメイヨー・クリニックによると、平均的な女性はナプキンやタンポンに年間50〜150ドル(約7800〜2万3500円)を費やしていることが分かっている。しかし、生理用カップであれば1個あたり20〜40ドル(約3100〜6300円)で、6カ月〜10年間は使うことができる。さらに、各国の特性に合わせたプロモーション戦略を展開することで、月経カップはより一般的な選択肢になるだろう。
この数十年間、使い捨てプラスチックは社会にまん延し、プラスチック汚染を著しく急増させ、地球環境に多大な被害をもたらしてきた。この問題に対処するには、できる限り持続可能な代替策を優先することが必要になる。
使い捨ての生理用品が話題になることはめったにないが、世界のプラスチック廃棄物の明らかな要因だ。世界では1年間に120億個以上の生理衛生用品が使い捨てられ、推計約20万トンのプラスチック廃棄物が発生している。さらに、プラスチック汚染に対抗する国際ナレッジ・ハブ(International Knowledge Hub Against Plastic Pollution)によると、プラスチックや関連化学物質を含んだ使い捨て生理用品の製造工程では、年間24万5000トンのCO2が排出され、使用後もその大半が埋め立てられ、分解されるまでに最長で500年間かかるという。
月経カップのような、より持続可能な選択肢がますます普及しているにも関わらず、多くの国において使い捨て製品を好む消費者が依然として多い。月経カップの実用性や環境面での利点、快適性や健康への影響についての先入観、いまだにまん延する生理の貧困について認識が不十分なことなど、考えられる理由の多くはこれまでの研究で報告されてきた。さらに、世界の再生産年齢の女性の4人に1人は、生理を管理するのに必要な情報や必需品を手に入れられていない。しかし、どの生理用品を買うかを決める際、消費者がこうした要素をどう取り入れているかは完全には分かっておらず、月経カップの効果的な販促キャンペーンを考案することはさらに難しくなっている。
こうした知識の差を解消するために、日本の立命館大学、上智大学、総合地球環境学研究所、仏ベルサイユ・サン・カンタン・アン・イヴリーヌ大学の研究者らからなる国際研究チームは、生理用品に関するさまざまな情報が、各国の消費者の意思決定にどのような影響をもたらすかを解明することに取り組んだ。6月に発行された学術誌「フロンティアーズ・イン・サステナビリティ(Frontiers in Sustainability)」5巻に掲載された研究では、社会経済や文化的に異なる背景を持つ日本、フランス、インドネシアの消費者の意思決定プロセスを調べるために大規模なオンライン調査を展開し、離散選択実験(複数の選択肢から最も好ましい選択肢を選ぶことを繰り返し、個人の選好を明らかにする手法)を行った。
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立命館大学
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オンライン調査の参加者(各国約2000人ずつ)には、月経カップ、生理用ナプキン、タンポンの3種類の生理用品が選択肢として提示された。さらに、それぞれの参加者グループには健康や環境への製品の影響、費用対効果など異なる情報が与えられた。
調査結果を分析し、研究者らは月経カップの優れた費用対効果について、情報を提供することが3カ国すべてで極めて効果的なことを発見した。
研究を指揮した立命館大学政策科学部の上原拓郎教授は「調査をした国々では生理用ナプキンが一般的ではあるものの、私たちの研究では、経済・環境的な利点よりも月経カップの費用対効果を強調することで、使用を促進できることが明らかになりました。これは、コスト削減を強調する情報が、持続可能な生理用品としての月経カップの使用を促進する上で、重要な役割を果たす可能性があることを示しています」と説明している。
市場特性に合わせたマーケティング戦略
研究チームはさらに、月経カップが消費者から選ばれるための戦略も検討し、以下を提案する。
・政府や非営利団体による啓発活動を展開し、月経カップが使い捨ての生理用品よりも長期にわたって経済的利点があることを強調する。情報を拡散するためにヘルスケアの専門家や企業、メディアを活用する。
・“単純化とフレーミング(情報の枠組みをつくる)”戦略をとり、買い物客がより持続可能な選択ができるように、売り場などの購買時点で、月経カップの近くに1回の使用につき、かかる費用を示した情報を提示する。
・月経カップを無料配布する。とりわけ、生理の貧困率の高い低・中所得の国や地域で実施する。啓発活動とともに行い、入手しやすいように工夫をしながら、利用者に月経カップの利点やメンテナンスの条件について伝える。
研究チームは、消費者や市場の違いを考慮し、それぞれの特性に合わせた戦略を立てる必要性についても調査した。例えば、日本では、インフルエンサーマーケティングや教育的な取り組みが月経カップに対する人々の懸念、限られた知識に効果的に対処し得ることが考えられる。フランスの場合は、月経カップが使い勝手が良く、快適で、活動的なライフスタイルに適応することを強調するマーケティングを展開すべきだ。インドネシアでは、入手のしやすさが課題なため、小中規模の企業を支援しながら、現地生産された月経カップを宣伝することが普及の促進につながるだろう。
こうした取り組みが、月経カップのより優れたマーケティング・販売促進戦略につながり、月経カップの普及を拡大し、プラスチック汚染の主な原因を取り除くのに役立っていくことを期待する。