米ペタルーマ市、市全体で再利用カップを循環利用へ スターバックスや地元飲食店が参加
Image credit: Starbucks
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カリフォルニア州ペタルーマ市では8月5日から、スターバックスなど30以上の全国チェーンや地元の飲食店で、使い捨てカップを再利用可能なカップに無料で交換し、カップのリユース(再利用)を促進するための実証実験を行う。これに伴い、カップを回収する専用の返却ボックスを市内各地に設置する。(翻訳・編集=小松はるか)
スターバックス、コカコーラ、ペプシコ、ピーツ・コーヒー、ヤム・ブランズ、そのほかの世界的ブランドや地元の飲食店が、再利用を促進するために前例のない協働事業「ペタルーマ・リユーザブルカップ・プロジェクト」に参加する。
今回のプロジェクトは、米国の一市にある複数の飲食店で、再利用可能な持ち帰り用カップを当たり前の選択肢にしようとする初めての試みだ。リユースを促すための重要かつ画期的な取り組みであり、より多くの顧客に数十万個の使い捨てカップの廃棄物を再利用してもらう機会をもたらす。
プロジェクトでは、リユース計画を成功させる上で鍵となる返却の習慣をつけるために、顧客を支援することに力を入れる。市全域に広がる取り組みは、リユースの仕組みを促進・拡大するための重要な一歩であり、ネクストジェン・コンソーシアム(NextGen Consortium)の5年間の事業に基づいて進めるもの。同コンソーシアムは、ニューヨークに本拠を置くクローズド・ループ・パートナーズ(Closed Loop Partners)のサーキュラー・エコノミー・センター(Center for the Circular Economy)が、多数の大手フードサービス企業と連携して運営する団体だ。
プロジェクト参加団体(ペタルーマ・リユーザブルカップ・プロジェクトHPより)
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プロジェクトに大手全国チェーンや地元の独立系飲食店、コンビニエンスストア、コミュニティ・ハブ、公共施設などが参加することは、消費習慣や文化規範の形成にもつながる。ペタルーマ市の30以上のレストランがこの取り組みに参加する予定で、スターバックスやディスカウントストア「ターゲット」とスーパー「セイフウェイ」内のスターバックスカフェ、ピーツ・コーヒー、KFC、ハビット・バーガー・グリル、ダンキンドーナツ、そして多くの地元のカフェや飲食店が名を連ねる。この取り組みは、ペタルーマ市をはじめゼロ・ウェイスト・ソノマ(Zero Waste Sonoma)、レコロジー(Recology)、地域団体、地元企業の支援・協力による広範な官民連携によって実現した。
手軽に楽しくリユースできる仕組みをつくる
スターバックスのマイケル・コボリCSO(チーフ・サステナビリティ・オフィサー)は「私たちが見たい未来をつくるにはコミュニティ全体で取り組むことが必要です」と話す。同社は1月、米国のコーヒー小売業者で初めて、モバイルオーダー時にも再利用可能なマイボトルを使えるようにした。
「環境に関する約束は私たちのビジネスの中核であり、そのためにすべてのスターバックスの飲み物をリユーザブル・カップ(再利用可能なカップ)に入れて提供する未来に向けて取り組んでいるのです。当社は、同じ志のフードサービス企業、地域の店、コミュニティのステークホルダーらと連携し、リユースを広げるための行動変容をさらに加速させる取り組みを率いていきます。当社の顧客やそのほかの企業の顧客全員が簡単にリユースを選択し、廃棄物を減らせるようにしていきます」
米国では、毎年500億個の使い捨てカップが購入され捨てられている。そのほとんどが飲食店に供給され、家庭や職場、学校で捨てられている。サーキュラー・エコノミー・センターの調査によると、使い捨てカップの平均寿命は廃棄物になるまで1時間未満。リユースは急速に拡大している一方で、タンブラーなどの個人用カップの利用、既存の再利用カップシステムは利用率が低かったり、返却率が低かったりする。責任ある形で再利用を拡大するために、消費者が自分のカップを持ち歩き、返却することを覚えておけるような、手軽で楽しい消費者体験を生み出すことが必要不可欠だ。
「包装材の廃棄物がない世界をつくるには、リユースに向けて文化の転換を加速させながらも人々の現在のニーズを満たし、環境にプラスの影響を与えるような方法で食品パッケージを再利用する仕組みが拡大される必要があります」とサーキュラー・エコノミー・センターの責任者で所長のケイト・デイリー氏は話す。
「コミュニティ産業界の重要なステークホルダーと連携し、市全体でカップの再利用を試験することで熟考した実験を通じ、協力しながらリユースを拡大でき、リユースが当たり前の選択肢となる未来を築くことができるのです」
サンフランシスコ・ベイエリア北部のペタルーマ市が、今回の取り組みに選ばれた理由はいくつかある。まず、この地域ではリサイクルできない使い捨ての包装材の段階的廃止を促進する政策環境があり、企業や消費者はリユースを取り入れることに理解がある。また、同市では2023年にも、今回も参加するスターバックスの店舗でリターナブル・カップ(返却できるカップ)を運用する試験に参加している。ペタルーマ市の商業地区は徒歩圏内にレストランや地元の店が密集し、郊外や農村地域も近く、その規模や密度は持ち帰り用カップを再利用する取り組みを試すのにも適している。地元のステークホルダーと協働することは、今回の取り組みを地域の政策やインフラに適応させ、市内の最適な返却地を特定し、幅広いコミュニティを巻き込むのに役立つ。
ペタルーマ市のケビン・マクドネル市長は「ペタルーマ市は、カップのリユースを一つの選択肢とするだけでなく、当たり前にするための土台づくりをしている。市には積極的に関与する、素晴らしいコミュニティがあります。われわれは地元のレストランやここで事業を展開するグローバル企業と協力し、このプログラムの成功を支援することを楽しみにしています」と語る。
市が位置するソノマ郡のゼロ・ウェイスト・ソノマ(Zero Waste Sonoma)事務局長のレズリー・ルカーチ氏は、「持ち帰り用カップがすべて再利用でき、余計な手間をかけずに返却できる地域を想像してみてください。再利用カップを使い捨てカップのように便利で簡単に手に入れられるようにすることで、自分のカップを忘れた時には代替のカップを提供できます」と言い、「ユニバーサル・アクセシビリティ(誰にとっても使いやすくすること)はリユースへの文化的転換の基礎になります」と続けた。
ペタルーマ市の再利用可能カップ・プロジェクトでは、市内に60以上の返却ボックスを設置する。再利用のできるカップは利用され、返却された後、収集と洗浄が行われ、次の使用のために再循環される。ネクストジェンが開催したデザイン・コンペ「ネクストジェン・カップ・チャレンジ」で2019年に優勝し、ネクストジェン・サーキュラー・ビジネス・アクセラレーターに進んだ、高精度の再利用カップ・システムを有する企業ミューズ(Muuse)は、ネクストジェン・コンソーシアムが、サービスや返却のロジスティクスを管理するために選んだパートナーだ。
同社のCOO兼共同創業者のブリタニー・ガメス氏は、「リターナブル・パッケージング・システム(返却できる包装材を利用する体制)への移行は、使い捨ての包装材の廃棄物を減らすために欠かせません。さらに、私たちはその背後のオペレーションの支援に焦点を置く必要があります。こうしたシステムは、その過程でさらに廃棄物を生み出してしまう影響を最小限にできるように熟考した上で、責任を持って導入されなければなりません。こうした取り組みを通じて、共有するシステムの運用を可能にするのに必要なものや、リユースを大規模に行うにはどうすればいいかを明らかにできるのです」と話す。
11月まで実施するペタルーマ市での取り組みでは、顧客の参加率や、再利用を標準の選択肢にすることで生じる、環境への影響を測定して基本データを収集するほか、今回のモデルが規模的に運営可能かを検証する。収集したデータは、企業や規制当局が活用でき、新しいリユースのシステムを設計したり、十分な情報に基づいた包装材に関する規制を起草する際にも活用できる。
ネクストジェン・コンソーシアムや企業パートナー、サーキュラー・エコノミー・センターは2018年から連携してリユース促進運動の最前線に身を置いてきた。ネクストジェン・コンソーシアムは2019年と2020年に、どうすればカップの再利用プログラムを複数の飲食店で同時に展開できるかを探るためにサンフランシスコ・ベイエリアで試験を開始した。リユースの促進を目指すサーキュラー・エコノミー・センターの取り組みは、カップにとどまらず広がっている。2023年には、買い物袋に再投資するコンソーシアムがCVSヘルス、ターゲット、ウォルマートなどの大手小売業者と連携して、あらゆる規模の小売店が実装できる、使い捨てプラスチック袋の短期的削減を実現できる手引書を発行した。
ネクストジェン・コンソーシアムは、産業廃棄物を減らす再利用システムを効果的に拡大するために、イノベーターや活動家からグローバル企業、政策立案者にいたるまで、リユース事業に関わるバリューチェーンのステークホルダーとの協働や連携を継続していく意向だ。