「SDGsの内容を見直し、目標年度を2050年まで延長すべきだ」――世界的に著名な学者らが国連の未来サミットを前に提言
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6月発売の英科学誌ネイチャーに「持続可能な開発目標(SDGs)」の期間延長と内容の更新を求める意見記事が掲載された。著名な気候関連の学者ら10人が、9月に開催予定の国連未来サミットを前に連名で発表したものだ。SDGsの採択以降、新型コロナウイルスの流行や人工知能(AI)の登場といった変化があり、現行の目標の妥当性を疑問視する声もある。記事の著者たちは、SDGsを引き続き世界の政策アジェンダの中心に据えるべきだとしながら、より幅広い意見を取り入れ、改めて2050年を見据えた明確な道筋を示すべきだと主張する。(翻訳・編集=茂木澄花)
権威ある学者10人のグループが、国連SDGsの目標年度を2030年から2050年に延期すること、その内容を更新することを求めている。具体的な提案内容には、SDGsの影響を受けるコミュニティの意見をもっと取り入れること、AIをはじめとする破壊的技術の潜在的影響を考慮することなどを盛り込んでいる。
SDGsが直面する現状
当初の達成目標年度である2030年が迫る中、17ある目標の多くは達成できそうにないか、進捗が遅すぎる。主な原因は、新型コロナウイルスによる世界経済の停滞や国際紛争などだ。9月にニューヨークで行われる国連の「未来サミット」に向け、意見記事の著者たちは、目標年度を2050年まで延長することと、特定の目標をより明確な形に更新することを提言する。具体的には気候や「プラネタリーヘルス」に関する目標などだ。また、各目標に向けたターゲットを練り直すことも推奨する。
2015年に採択されたSDGsは、飢餓、貧困、健康、気候変動対策、教育、ジェンダー平等、平和、生物多様性など、世界的な課題を網羅する。それぞれの目標は、具体的なターゲットで構成されている。
比較的進展が速い目標や地域も見られるが、ほとんどの地域は後れを取っており、特に気候と生物多様性の目標では遅れが目立つ。また多くのターゲットは非常に曖昧で、定量的な評価が難しい。さらに、一部の国が他の国の犠牲の上で「進展」するのを防止することも重要な課題だ。著者らが指摘するように、低所得国や中所得国がSDGsを達成するために必要な資金メカニズムは整っていないためだ。
「社会や経済に関する目標を達成するために、地球を犠牲にしてはいけません」。こう話すのは、同記事の筆頭著者であるフランチェスコ・フゾ・ネリニ氏だ。同氏はスウェーデン王立工科大学(KTH)で気候アクションセンターのディレクターを務め、オックスフォード大学の名誉研究者でもある。「後回しにされ続けているのは、気候と生物多様性の目標です。しかし、SDGsを達成するための基盤となるのは健康的な地球です。これが、全ての社会・経済目標を達成するための助けにもなります」
フゾ・ネリニ氏らによる呼びかけは、ネイチャー誌に掲載された。共著者は以下のとおり。
マリアナ・マツカート氏(ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン)
ヨハン・ロックストローム氏(ポツダム気候影響研究所、アース・コミッション)
ハロ・ファン・アセルト氏(ケンブリッジ大学)
ジム・W・ホール氏(オックスフォード大学)
ステルビア・マトス氏(サリー大学)
アサ・パーソン氏(ストックホルム環境研究所)
ベンジャミン・ソーバクール氏(ボストン大学)
リカルド・ビニュエサ氏(スウェーデン王立工科大学)
ジェフリー・サックス氏(コロンビア大学)
SDGs達成に向けた取り組みの多くは連携を欠いており、戦略的な一貫性がないと、記事は指摘する。例えばコロナ禍からの復興政策では、健康関連の支出が増えるとともに、再生可能エネルギーの支援ではなく、炭素排出量の多い産業に資金が流れた。また、パリ協定に基づく気候変動対策の取り組みにおいて、収入、貧困、仕事、不平等、健康、教育といった、より幅広いSDGsの進展を考慮している国はごくわずかだ。
今こそ内容を見直し、再出発を
著者らは、SDGsの全ての目標を達成するための道筋と、マイルストーン(達成までの通過点)を早急に見直す必要があると強調する。具体的には、温室効果ガスの正味排出量ゼロを組み込むこと、国連加盟国が合意した既存の枠組みを使って、脱炭素社会への移行に対するガバナンスを世界全体で強化することなどだ。そして、SDGsを2050年までの目標としてふさわしいものにするためには、科学者、土地に根付いた人々、疎外されたコミュニティ、民間セクターなどと、より幅広く協議する必要がある。
また、AIの出現など、SDGsが採択された2015年以降に登場した重大な新技術についても指摘している。ある研究によれば、AIは全ての目標のうち、134のターゲットに役立つ可能性があることが分かっている。気象予報や医学的診断の改善などが見込めるためだ。しかし同時に、気候変動、エネルギー利用、偽情報の拡散を加速することで、59のターゲットの達成を妨げることも判明している。
著者らは、SDGsをより強固なものにするためのステップとして、ターゲットを明確にしながら目標を再構成することを促す。また、目標の達成に向けた公的資金の投入が増えるよう、国際金融アーキテクチャを改革することも提案している。
SDGsの達成に向けた十分な協調や、有意義で戦略的な進展が見られない中、著者らはこう述べる。「サステナビリティの目標やターゲットを精査して数を減らし、それらに集中すべきだと主張する人もいますが、私たちは反対します。全ての世界的な危機は互いに結びついているため、全体論的かつ全世界的なアプローチでしか、解決することはできません。今後もSDGsを世界的な政策アジェンダの中心に据えるべきです」
未来サミット
国連のアントニオ・グテーレス事務総長の呼びかけで、今年9月に各国の代表らがニューヨークに集結し「未来サミット」と題した会議を行う。このサミットの目的は「未来のための協定」と呼ばれる文書の改訂版の草案を採択することだ。この協定は、経済成長、ウェルビーイング、サステナビリティに対して、SDGsのように10~20の指標を設定することを提言するものだ。記事の著者らの指摘によれば、SDGsの目標8「働きがいも 経済成長も」は国家の政策立案における優先事項として重視されているが、他の目標はそれほど優先されていない。グテーレス事務総長は、この現状を変え、政策立案者たちがGDPなどの経済的な指標だけではなく、「Beyond GDP」と呼ぶ指標群に注目すべきだと考えている。
記事の著者らは「未来サミットに向け、国連加盟国に対してSDGsの枠組みを2050年までに延長して修正するよう呼び掛けています」と述べる。「そのためには、2030年と2040年の中間目標を設定する必要があります。また2050年の最終目標は、科学に基づき、高いながらも達成可能な、各国と世界全体の野心を維持するものにすべきです」
著者らは国連総会に対し、2026年までにSDGsの内容を見直し、新たなガイドラインを適用するよう強く促している。また各国が、遅くとも2027年までには自主的にSDGsの戦略を包括的かつ先進的に見直し、量的な評価が可能な中間目標を設定すべきだと主張する。
今後のSDGsとターゲットで優先すべきこと
ネイチャーの記事では、SDGsと各ターゲットに関して、見直すべき取り組みや時間軸などを挙げている。中でも特に優先すべきこととして強調しているのが、以下の内容だ。
・20年以内に地球を安全に活動できる場所に戻すため、科学者たちはSDGsのターゲットとマイルストーンを見直す道筋を示さなければならない。
・世界の温室効果ガスの排出量については、2040年から2050年までに正味ゼロを達成しなければならない。
・10年以内に世界の生物多様性の喪失を食い止めなければならない。手付かずの生態系を守り、管理された生態系を再生するための投資を行わなければならない。
・レアアース金属から建築資材、栄養素に至るまで、全ての資源抽出と資源利用を、循環型モデルに移行しなければならない。
・全ての経済取引で、地球への損害という真のコストを考慮に入れなければならない。