サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japanのサイトです。ページの先頭です。

SUSTAINABLE BRANDS JAPANのサイト

カンヌライオンズ2022から考える、いま広告に必要な6つの視点

Thomas Kolster

世界最大の広告祭「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」が先月、3年ぶりに現地開催された。

広告業界では近年、企業・ブランドのイメージ向上を狙った過度な宣伝活動やグリーンウォッシュが問題視されている。カンヌライオンズの開催期間中には、国際環境NGOグリーンピースが化石燃料関連企業の広告を流さないよう求め抗議を行った。

グリーンピースのような団体だけでなく、関心の高い市民の声や規制からも分かるように、広告業界にはいま、先進国により多くの製品を売ること以上に、社会に変化や行動をもたらす意義のある作品をつくることが求められている。

ここでは、今年のカンヌライオンズから得た6つの重要な教訓と、どうすれば広告・コミュニケーションがより良く、より大きなインパクトを与えられるかについてトーマス・コルスター氏が解説する。 (翻訳=井上美羽)

トーマス・コルスター
GOODVERTISING AGENCY
創業者・クリエイティブディレクター
ブランディングとサステナビリティの専門家として活躍し、フォーチュン500企業からスタートアップまで、さまざまな企業のアドバイザーを務める。ガーディアンやAdweekなどでコラムを執筆。カンヌライオンズSDGs部門で審査員を務めた経験を持ち、日本のサステナブル・ブランド国際会議にもこれまでに2度登壇。

世界最大の広告祭でも進む、終末時計の針

カンヌ国際映画祭が映画業界にとって重要であるように、カンヌライオンズは広告業界にとって世界最大の重要な祭典だ。ここから世界に波及する影響は大きいものだが、果たして広告は本当の意味で環境・社会を変えるインパクト(影響)を与えられているのだろうか。広告が得意とする、実際のインパクトが伴わない大げさな約束と打ち上げ花火になってはいないだろうか。

私は若く希望に満ちたコピーライターだった頃からカンヌライオンズに通っているが、受賞作品の傾向はこの10年で大きく変わった。

ほんの10年前までは、サステナビリティに焦点を当てた受賞作品は片手で数えられるほどしかなかった。近年は、サステナビリティをテーマに掲げるグランプリ受賞作品は両手で数えられるほど増えた。さらに、この変化はグランプリのほかにノミネートされた数百作品を見ても明らかだ。

今年はカンヌライオンズとその周辺で行われたイベントにおいても、サステナビリティに強くフォーカスしていたのは素晴らしいことだが、グリーンピースを含めさまざまな声にもっと向き合うべきだと考えている。今年初めての試みとして、カンヌ周辺の多くの会場を出展者が開放し、業界が社会や環境に与えるインパクト、サステナビリティについて議論する「オープンハウス・フォー・グッド」という名のイベントが開催され、例年よりも多くの市民がカンヌライオンズに参加できるようになった。来年もこうした動きは加速していくに違いないだろう。

サステナビリティ課題に対する勉強不足と、単に流行を追う姿勢

残念ながら、大きな課題がまだ残っている。世界広告宣伝業連合(WFA)ニールセンのレポートでも指摘されているように、企業・ブランドや広告代理店など業界全体としての知識や教育の不足は否めない。受賞作品の多くは、問題の表面をなぞっただけで、根本的な課題解決のための行動変容をもたらすまでに至っていない。実際に行動を変えるためには長期的なコミットメントが必要だ。通常、新しい習慣が身につくには3〜6ヵ月かかるとされる。しかし、広告のキャンペーン的な性質は短期的な結果を求めるにとどまっている。

さらに、海洋プラスチックなどの世間から注目度の高い問題に対して、流行に乗るようにして宣伝活動を行っている企業を度々見かける。環境・社会課題に取り組もうとするマーケティング担当者が、データや世論に振り回されて今日のテーマを選ぶのは弱気なアプローチだ。企業・ブランドは、社会を映す鏡になることもできるし、社会を動かすこともできる。何が企業・ブランドの名声とレガシーを築くかは、私が言うまでもない。

そして、私たち全員がこの美しい地球とその運命を共有しているのだから、グローバル・サウス(南の発展途上国)にももっと光を当てることが必要だ。ブランドやキャンペーンが失敗するたびに、私たち全員にそのしわ寄せが及び、人々は非常に重要な「大きな規模での持続可能な変化」に対して懐疑的になってしまう。そして、誰もそれを責めることはできない。

私の姪っ子(11歳と18歳)の立場に立ってみると、彼女たちがこれまで目撃してきたのは、環境破壊や社会的不公正を犯した企業ばかりであるにも関わらず、企業側からは「私たちがいかに優れているか見てください!」といった自分勝手な言葉が聞こえてくる。この状況を軌道修正する必要があるだろう。

広告業界には、先進国により多くの製品を売ること以上に、社会に変化や行動をもたらす意義のある作品を生み出すことが求められている。ここからは今年のグランプリ受賞作品を参考に、課題に対処するためのコツを紹介したい。

① 適切なターゲットを選び、費用を無駄にしない

ある社会問題に対してすでに関心の高い人々をキャンペーンのターゲットにするのは、数十億ドルものメディア・広告費を無駄にしているのと同じだ。例えば、銃反対派のコマーシャル「The Lost Class(失われた学年)」は今回多くの賞を受賞した。しかし、このキャンペーンは銃規制強化には効果的とはいえ、米中西部の頑固な銃規制反対派を本当に説得することができるのだろうか。

メディアの選択とクリエイティブ戦略はもっとイノベーティブ(革新的)に。実際に説得を必要とする人々をターゲットにすることが重要だ。

② 賢いアイデアだけでなく、行動が必要

アイデアだけでは不十分だ。法改正の可能性や数百万の視聴数によって、全てを約束したかのような楽観的な動画は、本質的な問題解決につながっていないことを知るべきだ。私たちには真の変化が必要であり、そのためには行動が求められる。広告業界には、こうした変化に求められる起業家的な気質が備わっていない。多くの課題は宣伝活動の期間中に解決することはできず、独立した資金集めや事業部門、シンクタンクが必要かもしれない。

2019年のカンヌライオンズをきっかけに大きな影響を与えたスタートアップ企業を思い出してほしい。フィンテック企業ドコノミー(Doconomy)は、買い物時のCO2排出量を可視化・制限するドゥー・ブラック(Do Black)というクレジットカードを開発し、人々の気候変動のリテラシー向上に大きく貢献した。

今年注目が集まったのはメキシコの企業、データ・ティエンダ(Data Tienda)だ。これは、メキシコの女性たちが長年にわたって非公式に決済を行ってきた地元の店での支払い記録をもとに、銀行からの融資に不可欠なクレジットスコアを構築できるようにしたサービスだ。

③ 適切な出演者を選ぶ

広告では人気の有名人や親しみやすい動物が選ばれがちだが、どの問題を取り上げたいかによって、誰を選ぶかを考える必要がある。残念ながら、国連開発計画(UNDP)のCMで話題となった恐竜のフランキー(「絶滅を選ぶな(Don't Choose Extinction)」)は、国連官僚に化石燃料補助金への対策を促すことはできないし、気候変動懐疑論者に揺さぶりをかけることもできないだろう。

そういう人たちが耳を傾けるキャラクターを選ぶ必要があるのだ。例えば、石油会社の重役や、資金力のある政治運動のスポンサーを選ぶといいかもしれない。それは、子どもたちに砂糖の危険性を教えるために親しみやすいラッパーのキャラクターを選んだ以下の広告と同じように、意外とシンプルだ。

④ コラボレーションが鍵になる

こうした課題を解決するには、業界の垣根を超えて協力し合う必要がある。ブランドや代理店は、NPOやNGOの見識や知識、さらに業界のマーケットインサイトや商業的な創意工夫から多大な恩恵を受けられる。

パイナテックスは、パイナップルの葉から抽出したセルロース繊維を原料とする持続可能な皮革代替素材で、すでにH&Mやナイキなど200社以上の企業に採用されている。

ボルボが1959年に安全ベルトの特許をすべての自動車メーカーに提供したように、オールバーズが製品のカーボンフットプリント計算システムをファッション業界に向けてオープンソース化したように、コラボレーションとは成功の設計図を自分だけのものにするのではなく、他者と共有することでもある。サステナビリティに関して、私たちは協力し合うことで、より多くのものを手に入れることができる。さまざまなステークホルダーが集う新たなプロセスやワーキンググループをつくり、世界最高のチームをつくるにはどうしたらいいか考えてみてほしい。

⑤ 本質的なインパクト

あらゆる種類の良いことを主張する動画を次々に見せられることにうんざりしている。表面的な広告と本質的なインパクトをもたらす広告を見分けるのは大変だ。企業・ブランドの主張に対して、視聴者が日々、懐疑的になっているのも不思議ではない。

もしあなたが何かを主張するならば、それらの事実や数字を必ず文脈の中に置くようにしてほしい。ビール醸造メーカーのミケロブ・ウルトラ(Michelob Ultra)は、米国の農家の有機農業への転換を支援するプログラムを実施している。これは事実を述べている好事例だろう。

⑥ 自慢するのではなく、自信を与える

企業・ブランドは、人々からの信頼をこれ以上失いたくないのであれば、聖人のような救世主として売り込むことをやめて、代わりに、人々が変化するよう後押しするべきだ。それには、人々が変化できるような環境を整える必要がある。

説教はやめて、より持続可能で、より健康的で、より知識が豊富な、より良い自分へと人々を導くような広告をつくろう。さらに、ドイツのマーケティングリサーチ大手GfKとデンマークの広告代理店グッドバタイジング(Goodvertising)による最近の共同レポートにあるように、受け身な人々を積極的なアンバサダーに変える有効な方法もある。

月経についての話題はインドでタブーとされ、女の子が思春期に学校を退学する主な理由となっている。プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の女性用衛生用品ブランド「ウィスパー」がインドで展開しているキャンペーン「#キープ・ガールズ・イン・スクール(#KeepGirlsInSchool)」は、女の子が学校に通い続けられるよう月経教育を行うことを目的としている。これは、地域社会が必要な役割を果たせるように後押しするものだ。