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食品メーカーの気候変動対策の課題 排出量の多い北米50社の調査から分かったこと

Julie Nash (Ceres)
Mindaugas Dulinskas

企業はサプライチェーンの温室効果ガスの排出量を開示し、削減せずして、気候変動リスクへの信頼される取り組みを行っているとは言えない。米NPOセリーズ(Ceres)はこのほど、食品・農業分野での排出量実質ゼロへの取り組みを加速させるため、投資家主導のイニシアティブ「Food Emissions 50(フード・エミッション50)」を立ち上げた。北米で最も温室効果ガスの排出量が多い50社に対し、排出量の情報開示の改善、積極的な排出量削減目標の設定、パリ協定に沿った気候変動対策の実行を求めている。50社にはウォルマート、ケロッグ、コストコ、スターバックス、ゼネラル・ミルズ、ドミノピザ、ビヨンドミート、マクドナルなどが含まれている。(翻訳=梅原洋陽)

北米で排出量の最も多いとされる50社の食品関連企業を調査したところ、大半の企業がサプライチェーンからの排出量の測定や開示を行なっておらず、サプライチェーンの排出量を目標に含めることさえ忘れているようだ。調査した企業の70%が農業からの排出量を開示しておらず、土地利用変化による報告は80%以上公表されていない。また、60%以上がサプライチェーンにおけるスコープ3の排出量(事業者の活動に関連する他社の排出量)を開示していないことも分かった。

多くの企業が続々とネットゼロを実現すると表明する中、企業はこの目標をどのように達成していくのかを示す時が来ている。各企業がどれほど真剣にこの目標に取り組んでいるかを精査する傾向は強まっており、投資家達は企業が長期的にネットゼロを達成する野心を持ちながら、短期的に排出を削減していくための信頼できる、科学的な目標を掲げているのか、証拠を求めている。

食品業界ほど、自らが引き起こしている気候変動に向き合っていない業界はあまりない。私たちが食べる食料は世界の温室効果ガス排出量の3分の1を占めているのだ。スターバックスのような有名な食品企業の挑戦的な取り組みは、大きな注目を集め、食品業界もこの問題に取り組んでいく力があるという信頼を人々から得てきている。

こう言うと、将来は安泰だと思うかもしれない。しかし、残念なことに食品業界がサプライチェーンの排出量の影響を測定、評価、そして削減するまでには長い道のりがある。科学的根拠に基づく温室効果ガス削減のコミットメントは、食品業界の新たな規範となってはいるが、これらのコミットメントの多くはまだ普及していない。現状では、多くの企業はサプライチェーン内、つまりスコープ3(間接排出)、特に農業生産や土地利用の変化における排出量を測定、削減する努力をしていないのだ。

Leon Ephraïm

サプライチェーンからの排出は食品業界の気候変動対策におけるアキレス腱と言える。この業界の排出量の大部分が、主要な農作物の生産から排出されている。農作物や食料品の調達、生産、流通、販売を行う企業の排出量の多くはスコープ3に含まれる。

ベンチマークを深堀りしていくと、食品業界のサブセクターに関する詳細が明らかとなる。例えば、ウォルマートやコストコなどを含む17の食品・小売企業で農業からのスコープ3排出量を開示している企業は1社もない。さらに、ホーメルやタイソンのような大手食肉企業はスコープ3の排出量をまったく開示していない。

このデータは驚くべきものだ。情報を開示している企業によると、サプライチェーンからの排出量がとても多いのである。大手コーヒーチェーンのスターバックスは、実に排出量の96%がスコープ3によるものであり、チョコレート会社のモンデリーズとハーシーは94%がスコープ3からのものだと発表している。

まさにこれこそが、企業が気候変動リスクに信用される方法で取り組むためには、サプライチェーンの排出量を開示し、削減する必要がある理由だ。以前は、土地利用関連の取り扱い方に関する見解が統一されていなかったために、サプライチェーンの排出量を測定する責任から逃れることができた。しかし、現在はこれらの方法論は開発されてきており、来年中には企業が活用できるようになる予定だ。

そんな中でも、いくつかの先進的な企業は、既存の方法を使用して、スコープ3の排出量を測定し、スコープ3の排出量に対処することの重要性を明らかにしている。例えば、ハーシーの2020年度サステナビリティレポートには、41%の排出は土地利用の変化からだと示されている。この開示情報は衝撃的であり、さらに土地利用への対応が、今後の気候変動に関する対策の大部分を占めるとさえ伝えている。これはつまり、操業に関わる排出を減らすだけでは、排出問題に対処しているとは言えないということへの理解を示している。

Food Emissions 50とESG投資

しかし、1社だけではこの業界全体の最大の課題に対処していくことは不可能だ。世界の気温上昇を産業革命前の水準から1.5度以下に抑えるというパリ協定の目標を達成するために、食品や農業分野からの温室効果ガスを大幅に削減することが不可欠だ。出遅れている企業が追いつき、さらに役割を果たすように促すためには、投資家の行動が必要ではあるが、投資家達も重要な開示情報がないと動くことはできない。

そこで、NPOセリーズは8月上旬に、Food Emissions 50を開始した。セリーズは1989年に社会的責任投資家や環境活動家が集まって設立された団体で、投資家や企業、非営利団体などと協働し、人と地球にとって公正で持続可能な未来を構築する経済に向けて変革を行っている。

この新たな取り組みは、投資家達が、北米で最も排出量の多い50社の食料品企業に、排出量の情報開示、目標設定、そしてパリ協定に沿った信頼できるクライメート・トランジション(移行)計画を実行に移すよう促すためのサポートを提供することで、食品、農業分野のネットゼロ経済に向けた動きを加速させるのが狙いだ。この取り組みは「Climate Action 100+」や「Global Investor Engagement on Meat Sourcing(肉の調達に関するグローバル投資家エンゲージメント)」などの取り組みをベースに、スコープ3の排出に対処していくために、対象企業を増やし、これらの企業のバリューチェーンやサプライチェーンとの関係性を深めるもの。

具体的には、投資家達は、対象企業の取締役会や経営陣が排出量削減の目標を設定し、行動の透明性を高めることにコミットすることを求めている。最初のベンチマーク分析は、投資家が各企業の気候変動対策の実施状況を把握し、具体的な気候変動対策計画のどの部分に働きかける必要があるかを把握するための資料となる。今後はより野心的な指標を用いた調査を行い、それぞれの企業が排出削減戦略を進めているかどうかを判断していく。

Food Emissions 50は、企業が排出量を開示し、目標を定め、クライメート・トランジション計画により真剣になることを求めている。私たちの地球の未来はこれにかかっている。