「詰め替えパック」から「詰め替えパック」へ 水平リサイクルしたフィルム容器を製品化 、 花王とライオンが資源循環に大きな一歩
使用済みの詰め替えパックや、製品として活用されなかったフィルム素材からなるリサイクル素材を約10%使って製品化した、花王とライオンの洗剤用「詰め替えパック」。これまで難しかった「詰め替えパック」から「詰め替えパック」への水平リサイクルを実現した
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洗剤やシャンプーなどのフィルム容器(詰め替えパック)を水平リサイクルし、使用済みの「詰め替えパック」からつくり出した新たな「詰め替えパック」を、花王とライオンが、初めて製品化した。何層もの薄いフィルムを重ねてつくられたフィルム容器は、メーカーごとに使用しているプラスチックの素材や設計が異なり、製品に再生するのは難しかったが、両社は2020年から連携してこの課題に取り組み、容器の一括回収やリサイクル技術の開発・検証を重ねていた。今回の製品化は花王の技術によるもので、花王、ライオンそれぞれが、一部に再生材料を使用した「詰め替えパック」を5月末から一部の店舗で数量限定販売する。(廣末智子)
花王とライオンは、資源循環型社会の実現に向け、フィルム容器リサイクルの社会実装をテーマに2020年9月に協業を開始。消費者や行政、流通との連携による分別回収の実証実験を重ねるとともに、企業や業界の垣根を越えて共通利用が可能なリサイクル材料・容器の品質設計を念頭に、フィルム容器から再度フィルム容器に再生する水平リサイクルの具現化に力を入れてきた。
背景には、国内では、花王とライオンをはじめとする日用品メーカーが1990年代から包装容器のプラスチック使用量の削減を進め、2021年には詰め替えや付け替え用製品が全製品の出荷量の約80%を占めるまでになる一方、詰め替えパックに使われるフィルム素材は多種多様なプラスチックで構成され、水平リサイクル技術の開発は難しいとされていたことがある。
花王 詰め替えパックの一括リサイクル技術を確立
花王は2016年から複数の自治体や企業、消費者と連携し、使用済みの詰め替えパックの回収を開始。2021年には水平リサイクル技術の開発に特化したパイロットプラントを和歌山研究所内に導入しており、今回の技術開発もこのプラントを使って行われた。
花王によると、使用済みの詰め替えパックを再度フィルム化する工程のなかで、詰め替えパックに含まれるアルミ箔やインクなどが粉砕しきれずに異物として残ってしまい、それによってフィルムに孔(あな)が空いてしまうという課題があった。そこで、アルミ箔が含まれる詰め替えパックをあらかじめ除いた上で、ポリエチレンとナイロンなど、互いに混ざり合わない素材を混ざりやすくするために細かく分散させることなどで、孔のない均質なフィルムを再生することに成功した。さらに容器の機能を担保し、表面が美しいパッケージになるよう、フィルム化工程での温度最適化などを行うことで、詰め替えパックの一括リサイクル技術を確立し、製品化が実現した。
「リサイクルつめかえパックができるまで(左)と、リサイクルつめかえパックの構造のイメージ図」(花王提供)
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現在は製品化した詰め替えパックに使用されているリサイクル素材は約10%とまだ低く、将来的にはこの割合を高めていくことも含めて検討する。10%のうち1%が、これまでに花王が回収を実施してきた自治体のものに加え、花王とライオンが協働で回収の実証実験を展開している総合スーパーのイトーヨーカドーやウエルシア薬局の一部店舗などで回収した使用済みパックで、残り約9%は、製品として活用されなかったフィルム素材となっている。
該当商品は、花王の液体洗剤『アタック ZERO つめかえ用(1620㌘)』と、ライオンの『トップ スーパーNANOX ニオイ専用 つめかえ用超特大』で、いずれも5月29日から、イトーヨーカドーとウエルシア薬局、イオンなどの一部店舗で数量限定販売する。
両社は、今回の製品化を通して業界はもとより、消費者にも、広く詰め替えパックの水平リサイクルの意義を伝えていきたい考え。今回の取り組みで見えてきた課題としては、使用済みパックの回収量の確保と、リサイクル全体にかかるコスト、製品を本格展開していくためのさらなる水平リサイクル技術の確立の3つがあるという。
こうした課題解決に向け、花王は詰め替えパックの一括リサイクル技術の向上にとどまらず、他のアプローチも含めた水平リサイクルに最適な技術開発を、ライオンはリサイクルしやすいフィルム容器の技術開発を進める。また流通店舗での回収を続け、消費者の協力を得やすい分別回収のプロセスや、行政とも連携したより効率的な回収スキームの構築を目指す。
今回の製品化にあたって、花王の包装技術研究所でリサイクリエーションプロジェクトリーダーを務める瀬戸啓二氏は、「使用済みの詰め替えパックを水平リサイクルし、再度容器にできると実際に示したことは、生活者の行動変容を促すための大きな一歩だ。今回は数量限定での販売となったが今後は本格展開を目指し、2025年を目標とする『回収パウチを使用した革新的フィルム容器の実用化』を推進していきたい。開発した技術は自社内にとどめることなく、社会・業界全体での課題解決に貢献していく」と抱負を表明。
また今後の展開について、ライオン・サステナビリティ推進部の中川敦仁氏は、「リサイクルを加速させるためには、回収の基盤となる仕組みの構築とリサイクル技術開発が不可欠であると同時に、消費者を含めたステークホルダーとともに社会の意識を変えていくことも必要だ。引き続き、資源循環型社会の実現を目指して企業の枠を超えて取り組みたい」と話している。