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2050年の未来へ あらゆるセクターや世代を超えて共創を――『グリーン・イノベーター・フォーラム』レポート

「Green Innovationの未来」をテーマに行われたセッション(2022年12月、東京・虎ノ門)

2050年に本当の意味での豊かな未来をつくるため、脱炭素社会に向けた狭義のエネルギーだけでなく、サーキュラーエコノミーや新しい都市像、食と農のあり方など、既存の分野や世代を超えて対話や連携を進めていくべき時に来ている。そうした方向に向け、第一線で社会を牽引するグリーン・イノベーターが集う『グリーン・イノベーター・フォーラム』が昨年12月、東京・虎ノ門で開かれた。その中から、ここでは東京大学理事でグローバル・コモンズ・センター ダイレクターの石井菜穂子氏やトヨタ自動車執行役員Chief Sustainability Officerの大塚友美氏らが、共創を実現する上では何が障壁となり、それを乗り越えるためには何が必要なのかについて議論したセッションを紹介する。(廣末智子)

パネリスト:
石井 菜穂子・東京大学 理事/グローバル・コモンズ・センター ダイレクター
大塚 友美・トヨタ自動車執行役員Chief Sustainability Officer
森口 太樹・慶應義塾大学経済学部3年/NPO法人アイセック・ジャパン事務局次長 兼 外部関係統括/ Green Innovator Academy 2期生
モデレーター:
鈴木 紳介・サステナブル・ブランド国際会議カントリーディレクター/博展 執行役員 CSuO(最高サステナビリティ責任者)

フォーラムはGreen Innovator Project実行委員会が、一般社団法人Green innovationとの共催で開催。同法人が「2030年までに、経済と環境の好循環を生む1000人のイノベーターを育成する」ための人材育成の場として運営する「グリーン・イノベーター・アカデミー」の2022年度の集大成となるイベントで、同アカデミーの2期生となる大学生や企業の若手社員らを中心に約400人が参加した。

石井氏や大塚氏が登壇したのは、この日のフォーラムを締めくくる「グリーンイノベーションの未来」をテーマとするセッション。モデレーターは、世界を舞台に商業活動の未来を創り出すブランド・イノベーターが集うグローバルコミュニティであるサステナブル・ブランド ジャパンを運営する博展の執行役員CSuOでサステナブル・ブランド国際会議カントリーディレクターの鈴木紳介が務めた。

地球との関係のリセットが迫られている

石井氏

財務省やIMF(国際通貨基金)、世界銀行などを経て2012年にGEF(地球環境ファシリティ)のCEOに就任した石井氏は、「地球環境の問題は、われわれに、今の生き方、経済社会のシステムと、これまで我が物のように所有してきた地球との関係のリセットを迫っている」と指摘。『グローバルコモンズ』の定義は『安定的でレジリアントな地球のシステム』であり、「都市とエネルギー、食料のシステム、そしてサーキュラリティーといったものをみんなで転換していって初めてこのグローバルコモンズが守れる」と強調した。


その基礎になるのは、気候変動や生物多様性、土地利用の変化など、地球の安定性を維持する9つの最重要プロセスを特定したプラネタリー・バウンダリー(地球の限界)の考え方で、石井氏は、「例えば地球にとっては『新規化学物質』とされるプラスチックなど人類の発明が地球に負荷をかけ、ティッピング・ポイント(臨界点)を超えてしまっている」と解説。さらに、地球がそうした状況の中で、「今後も人類が繁栄できるようなシステムチェンジをどう行っていくか」が問われており、「大事なのはみんながビジョンを共有し、中長期的な方針を確立させるためのメカニズムがあるかどうか。そのメカニズムの一つが、『マルチステークホルダーによるコアリッション(連携)』だ」と続けた。

多様な人々の、多様な幸せに寄り添う

大塚氏

マルチステークホルダーの連携は、フォーラムの大きなテーマでもある。次に登壇したトヨタの大塚氏は、自動車をつくる会社からモビリティカンパニーへとモデルチェンジを進めるトヨタが掲げる『幸せを量産する』というミッションについて、「画一的な幸せを量産するのではなく、多様な人々の多様な幸せに寄り添うというところに強いこだわりを持って取り組んでいる」と説明し、「ステークホルダーの方々と一緒に実現していきたい」と強調した。

トヨタの考える『幸せの量産』、そして『誰も取り残さないカーボンニュートラル』とは具体的にどういうことか。大塚氏は同社がグローバルにビジネスを行う中で、地域によって多様なニーズがあり、エネルギー事情もさまざまであることに改めて触れ、「電気自動車が非常に重要なソリューションであることは間違いないが、現時点でもインフラが十分でないために電気を使えない人たちが10億人ほどいることを忘れてはいけない」と指摘。

その上で、電気や水素、液体燃料といった車を動かすエネルギー源そのものが、化石燃料由来ではない、本当の意味でのクリーンなものへと移行していくなかで、その道筋をうまくデザインしていくためにも「地域ごとにベストなものを選べるよう選択肢を用意したい。一社だけではやり切ることができないので、エネルギーはその分野の人たちと、というように、みなさんと一緒につくっていきたい」などと語った。

『Youの視点』を持つには

森口氏

セッションにはグリーン・イノベーター・アカデミーの2期生から、慶應義塾大学経済学部3年で、「平和で人々の可能性が最大限発揮された社会の実現」をビジョンに世界100カ国以上の3万人の学生が活動するNPO法人アイセック・ジャパンの事務局次長を務める森口太樹氏も登壇した。

森口氏は、祖父母のいる長崎県壱岐市で親戚が運営する牛舎の仕事に携わってきた経験を生かし、離島の農業と観光を支援する学生団体を立ち上げたり、アイセック・ジャパンを通じて知った非財務情報の開示支援事業を行う企業のインターンシップに参加したりするなど、その活動は多岐にわたる。サステナビリティに対する思いでは、「他団体と一緒に同じビジョンに向かって取り組む、いわゆるコレクティブ・インパクト(行政や企業、NPOなどが協業し、インパクトを最大化するためのアプローチ)の領域に興味がある」という。


世代を超えた共創をテーマとする率直な質問として、森口氏が石井氏と大塚氏に投げかけたのは、世界の学生と比較して、「日本の学生はコンフォートゾーンを抜け出して自分の中に新しいものを取り入れようとする経験が少ないと感じる」ことをどう捉えればよいか、というものだ。

トヨタが大事にしている『Youの視点』を切り口に、「相手のために何かできないかと考えるには、やはり自分から世界の現場に行き、体感することが重要なのではないか」と話す森口氏に、大塚氏は、「サステナビリティや地球環境について切迫感と問題意識を持っているのは若い世代だと感じる」とした上で、メディアの報道などを鵜呑みにするのでなく、「まさに現場に事実を掴みに行く、その上で行動していくということがどんどん重要になってきている」と同意を示した。

またユース世代がとるべきアクションについて、石井氏は、『Intergenerational Injustice(世代間不公平)』という言葉を用いて「われわれがうまく経済システムの転換ができなければ、そのコストは次の世代が被ることになる。そのことにまず気づかなければいけないし、怒らなければいけない」と指摘。グレタ・トゥーンベリさんが巻き起こしたムーブメントは各国の法律や裁判所の判例を変えるなど、国際コミュニティで「この世代の起爆力がシステムチェンジにつながるのを間近に見ている」からこそ、「日本のユースがその流れに乗っていない」ことへの歯痒さも感じるという。その上で石井氏は森口氏との対話を通じ、「若い世代のみなさんには情けない大人の社会を動かすようなチャレンジをしていただきたい」と改めて要望した。

希望を持って前を向き続ける限り未来はある

人間と地球との関係をリセットするには一個人でも一企業でも一国家でもできない。各セクターや世代を超えて、共創を進めるには、一者にとってのバリア(障壁) と、それをどうやってみんなで越えていくかのビジョンを明確にすることが重要だ。

最後にそのための第一歩として何が求められるかを問われ、石井氏は「まずは事実を知ること。人間と地球の関係がどれほど抜き差しならないところまできているか、そして海外と日本の差がどれだけ広がっているか。ユースはユースの、企業は企業の、官は官の、アカデミーはアカデミーの役割があり、それぞれの範疇を超えたところで共創するための勇気を持つことだ」、大塚氏は「企業人として、学生として、というよりは、誰もが一人の人間として危機感を持ち、それを超えていくビジョンを共有していくこと」と言い切った。

これを受け、森口氏も、「どんな状況であっても僕たちが希望を持って前を向き続ける限り未来はあると思っている。若者だからこそ前を向き、勇気を持ってリーダーシップを発揮したい」と若い世代を代表して意欲を表明。

モデレーターを務めた鈴木は、サステナブル・ブランド ジャパンが2月14・15日に東京・丸の内で開催する「サステナブル・ブランド国際会議2023東京・丸の内」を紹介し、「今日はビジョンの共有をはじめ、共創のキーワードがいくつも出てきた。それらをぜひみなさんと推進したい。われわれSBの国際会議を共創のきっかけ作りにしてほしい」と同会議への参加を呼びかけて、セッションを締めくくった。

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廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーを経て、2022年10月からSustainable Brands Japan 編集局デスク 兼 記者に。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。