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ニッポンハムが「アニマルウェルフェアポリシー」策定、2030年度までに “妊娠ストール”廃止へ

イメージ画像 (Marek Piwnicki)

食品加工大手のニッポンハムグループが、動物の生命を大切に考え、家畜を快適な環境下で飼育するための「アニマルウェルフェアポリシー」を制定した。「家畜のストレスや疾病を減らすことは結果として安全な畜産物の生産にもつながる」とする考えのもと、パートナー企業と協働し、家畜の飼養管理、生産体制の改善や継続した技術革新などを進めるものだ。これに基づき、2030年度末までに国内の全農場の豚について、種付けされた雌豚を1頭ずつ檻(おり)「妊娠ストール」に拘束して飼育する方法を廃止するなど、重要課題の定量目標についても発表した。欧米では畜産動物への福祉をESG投資の重要な指標と捉える動きが進んでおり、同グループの表明で、畜産に関わる日本企業もそのスタートラインに立ったと言える。(廣末智子)

ニッポンハムグループは今年4月に策定した長期ビジョンの中で、サプライチェーンにおいて環境、人権に並んで「動物福祉」を重視する方針を打ち出した。制定されたアニマルウェルフェアポリシーは、「ニッポンハムグループは生命の恵みを大切に考え、家畜におけるアニマルウェルフェアに配慮した事業を行うことが重要な課題と認識している」と規定。その上で、世界の動物衛生の向上を目的とする国際獣疫事務局(OIE)において、アニマルウェルフェアが「動物の生活とその死に関わる環境と関連する動物の身体的・心的状態」と定義されていることに賛同し、同事務局の基本原則である「5つの自由(飢え、渇き及び栄養不良からの自由、恐怖及び苦悩からの自由、物理的、熱の不快さからの自由、苦痛、傷害及び疾病からの自由、正常な行動様式を発現する自由)」を推進する考えを表明。さらには情報開示やステークホルダーとの対話を通してアニマルウェルフェアの向上に努める考えを示している。

2030年度末までに豚の“妊娠ストールフリー” 2023年度末までに農場・処理場への引水設備やカメラ設置も

具体策としては、2030年度末までに国内の全農場で、妊娠・出産する豚を一切身動きのとれない狭い檻の中で飼育する方法を全廃し、“妊娠ストールフリー”といわれる飼育を実現することをはじめ、2023年度末までに牛・豚ともに全処理場内の係留所へ飲水設備を設置完了すること、同じく2023年度末までに国内の全農場・処理場への環境品質カメラを設置完了することを10日に開催した取締役会での決定事項として発表した。

妊娠ストールに関しては、雌豚に十分な運動ができるだけのスペースを確保するため、欧米を中心に禁止する動きが主流で、OIEでも2018年、「豚は群れで生活することを好む社会的な動物であり、妊娠した雌豚はなるべく群れで飼われるものとする」という国際基準を設けている。もっとも日本はOIEの加盟国の一つでありながら、日本養豚協会の調べで2018年の段階で91.6%の農園で妊娠ストールを使用していることが分かっており、対応が迫られていた。

また、家畜処理場の飲水設備についても日本では牛の処理場の50.4%、豚の処理場の86.4%に設備がなく(北海道帯広食肉衛生検査所などが2010〜2011年に実施した調査による)、屠殺までの長時間、動物たちが喉の渇きに耐えている実態が問題視されている。さらに農場・処理場へのカメラの設置に関しても「カメラが設置されているだけで、動物への扱いが穏やかなものになる」といった観点から、英国やフランス、イスラエルなどで導入が進んでおり、日本でも導入が望まれていた。

「豚たちにとって素晴らしいニュース」 動物の権利求めるNGOが高く評価

同社はステークホルダー・エンゲージメントの一環で、2020年2月と2021年1月の2回、人と動物が穏やかに共存する社会の実現に向け、動物が動物らしくいられるための権利と尊厳を守る活動を行う認定NPO法人「アニマルライツセンター」との意見交換を実施している。今回の決定の背景には、世界的なエシカル消費の潮流などがあるが、それを後押ししたのが広い意味でのステークホルダーとの対話と言えそうだ。

同社との対話について、アニマルライツセンターの岡田千尋代表理事は、雌豚の妊娠ストールフリーなどを求めて2013年ごろから署名活動などを行ってきた経緯を振り返り、「当初はなかなか市民団体の意見に耳を傾けてくれる雰囲気ではなかったのが徐々に対話の道が開かれ、真摯にテーブルについてくれた」と説明。長い交渉への回答のような形でなされた今回の決定を「非常に大きな設備投資を伴うもので、中長期的な観点から、相当に大きな決断をしてくれたと思う。“妊娠ストールフリー”の問題は特に、日本の畜産現場におけるアニマルウェルフェアの遅れを象徴していたので、食品加工大手のニッポンハムグループが先陣を切って廃止時期を明言した意味は大きい」と評価する。2023年度末までに国内の全処理場内の係留所へ飲水設備を設置完了することと、全農場・処理場へ環境品質カメラを設置完了することについても「自国での消費をメインとする日本企業が実現を表明した」ことの意義は大きく、「豚たちにとって素晴らしいニュースだ」と歓迎している。

アニマルウェルフェアポリシーの制定や一連の動物福祉策について、ニッポンハムグループの広報担当者は「持続可能な畜産を進める上で動物福祉に配慮した取り組みは必ずやらなければならない大事なことであり、どういう形で進めれば良いのか、NGOの意見を踏まえながら、決定した」と強調。その上で“妊娠ストールフリー”などの具体策について「方針を掲げたばかりであり、これから社内でそこに向けてしっかりと周知を行い、運用・実施していくことが大事だと考えている」と話している。

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廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。