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ワコール、2030年までに自社の排出量ゼロ・製品廃棄ゼロ 新疆綿の使用も中止へ

米国産のオーガニックコットンや和紙などを使った新ブランド「ナチュレクチュール」

ワコールホールディングスはこのほど、2030年までに自社の使用電力などによる温室効果ガスの排出量をゼロにするとともに、下着などの製品破棄をゼロにすること、製品の素材を再生繊維やリサイクル糸に切り替えるなど環境配慮型素材の使用比率を50%まで高めることの3つを柱とする「環境目標2030」を発表した。また先月から、オーガニックコットンや和紙といった自然由来の素材を使用したインナーウェアの新ブランドを発売。サプライチェーン全体を含めた温室効果ガスの排出量削減については2022年春に削減目標を開示する予定で、あらためて地球環境を守ることは企業の責務とする認識に立ち、消費者に長く使ってもらえるためのものづくりを推進するとしている。人権への対応についても、トレーサビリティが確保されない新疆綿などは今後使用しない方針だ。(廣末智子)

「スコープ3」の排出量も初めて算出 全体の98%占める

同社によると、上場企業の気候変動への取り組みに関する情報開示を求める流れが強まる中、従来は社内目標にとどまっていたのを一歩進め、「環境目標2030」の設置に踏み切った。

目標1の「自社排出量をゼロに」では、温室効果ガス排出量のうち、いわゆるスコープ1とスコープ2とされる自社の企業活動に伴う排出量のゼロを目指し、順次、再生可能エネルギーへと切り替えていくことを表明。それとともに今回、グループとして初めて、「スコープ3」とされる事業者の活動に関連する他社の排出量について算出し、その結果、同社の国内事業全体の温室効果ガス排出量約34万4000トンのうち、「スコープ1」と「スコープ2」はわずか2%に過ぎず、残りは「スコープ3」が占め、さらにその90%(訂正)が原材料、購入製品、パッケージング、消耗品、販促物の製造過程によるものだったと報告した。

この「スコープ3」の削減に向けては、サプライヤーとの協働が重要であり、今後は中長期的な視点からサプライチェーン全体で気候変動に対応するための行動計画やプロセスの策定を検討するとともに、サプライヤーへの温室効果ガス削減の働きかけを進める方針という。

目標2の「製品破棄をゼロに」に関しては、ワコールの国内工場での材料の破棄削減に向けた取り組みなどをさらに推進し、現状でも1.0%(2020年3月期)と低い製品破棄率をゼロにする。下着という商品の特性上も同社の製品廃棄率は他社のアパレル製品に比べて低い。生産から販売までの全工程を通じて、“総生産・総在庫・総販売”の方針の下、利益を創出しつつ、製品廃棄を極力少なくする仕組みが構築できているが、今回、目標を掲げたことで社員一人ひとりに今の仕組みをさらに高度化し、精度を上げるための意識づけにつなげる考えだ。

また目標3の「環境配慮型素材の使用比率を50%に」は、製品の素材を再生繊維やリサイクル糸などに切り替えるというもので、“環境配慮型商品グループ”として新ブランド「Nature Couture(ナチュレクチュール)」を先月発売したのもその一環といえる。

自然由来の素材使った新ブランドも発売 廃棄材料のリサイクルシステム確立へ

新ブランドは、“やさしい世界を、身に着ける”をコンセプトとするインナーウェアのシリーズで、米国産のオーガニックコットンや、マニラ麻から採れるセルロース繊維を主原料とした和紙など、自然由来の素材を使用したキャミソールやニットトップなどをラインナップしている。染色にもオリーブの葉やバラの花など植物から抽出した色素を使用している上、生地の裁断時に発生する廃棄材料を国内工場で回収し、それを糸に再生して来シーズン以降の同ブランドの材料として再利用するなど、同ブランドを通じて“廃棄材料リサイクルシステム”を確立することを目指しており、その観点では、目標2とも密接につながった取り組みだ。

不用になったブラを生活雑貨のパーツにリサイクル 2008年から活動継続

一方、同社は「ブラは捨てにくい」という女性の悩みに応える取り組みとして、不用になったすべてのメーカーのブラジャーを回収し、リサイクルするプロジェクトである「ワコール ブラリサイクル」を2008年から、毎年、期間を限定する形で継続して行っており、2020年10月〜2021年3月の期間で集めたブラジャーの枚数は約22万枚、総重量は22トンにのぼるという。

昨年度からは日本環境設計(神奈川・川崎)の、古着を回収し資源に循環させる枠組みである「BRING」に参画。消費者から紙袋などに入れて店頭に持ってきてもらう方式で回収したブラジャーをBRINGの提携工場で一次分別した後、細かく粉砕し、ワイヤーなどの金属部分を磁石で取り除き、おもちゃなどの生活雑貨のパーツとして生まれ変わらせている。プロジェクトは今年も10月から来年3月31日まで、全国の百貨店や量販店、下着専門店など約750店舗で展開する。

SBTiの認定も視野に 新疆綿などトレーサビリティが確保できない素材使わない

同社は今回の「環境目標2030」の設定に際して、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に賛同するとともに(TCFD提言に沿った開示については2022年度に予定)、CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)の気候変動質問書にも初めて回答した。

こうした気候変動対策について、同社コーポレートコミュニケーション部の小松原圭司部長は、「ファッション産業全体でみると他の産業に比べて遅れているのは事実だが、できるところから取り組んでいきたいという思いのもと、『スコープ3』の算出にもたどり着き、中長期的な視点に立ったシナリオ分析ができた」とした上で、企業の温室効果ガス削減目標が科学的な根拠と整合したものであることを認定する国際的なイニシアティブ「SBTi (Science Based Targets initiative)」から、「スコープ3」の削減目標に対して、産業革命前からの気温上昇を1.5度に抑えるための科学的根拠に基づいた削減目標であるとの認定を受けることなども、「将来的にはその方向で考えている」と話す。

またESGの根幹である人権問題についても、「すべての調達材料について、今後はトレーサビリティの確保されている素材しか扱わない」方針を固めているという。その上で、国際的に問題になっている新疆ウイグル自治区産の綿については現在、市場に出回っている同社の全製品のうち1%ほどに使われていることが確認されているものの、「これからつくる製品に限っては、現地確認が難しく、トレーサビリティが確保されない状態である限り、新疆綿に限らず素材として使うことはない」と話している。

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廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。