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繊維産業に「人権デューデリジェンスなど業界ガイドライン策定を」 経産省が報告書

kzenon

経済産業省はこのほど、今年2月に設置した「繊維産業のサステナビリティに関する検討会」が取りまとめた報告書を発表した。強制労働が疑われる中国・新疆ウイグル自治区などでの人権問題に国際社会の厳しい目が向けられる中、報告書は各企業がサプライチェーン上で起きている労働環境問題などに対してより責任を持って把握し、対処するためのデューデリジェンスのガイドラインを業界を挙げて策定するよう提言。政府に対しては国内の繊維企業で働く外国人技能実習生について、最低賃金を下回ったり、違法な時間外労働をさせるといったことがないよう、法令遵守をこれまで以上に徹底させるよう求めるなど、コロナ後を見据え、官民を挙げて業界のサステナビリティを推進する必要性を訴える内容となっている。これを受け、業界団体の日本繊維産業連盟は1年以内に、企業がデューデリジェンスに取り組む上でのガイドラインを経産省と共に策定する方針だ。(廣末智子)

経産省は、サプライチェーン上の人権問題に国際社会の関心が高まり、欧州を中心に関連法の整備が進む中、日本でもこの問題への対応が喫緊の課題となっていることから、7月1日付で省内に「ビジネス・人権政策調整室」を設置。日本企業を巡るこの問題について省内の各局をまたがる施策を調整し、一元的に対応する体制を強化している。

報告書によると、国内の繊維産業は、円高や途上国の産業化による輸出競争力の低下などにより、国内生産が縮小し、事業所数も2018年時点で1991年の5分の1以下までに減少。一方で天然繊維から化学繊維まで幅広く扱い、先進的な技術や製品を有する国内生産の強みは存在し、海外からの高い評価を得ている。もっともバブル期の1991年に14.7兆円だったアパレルの市場規模は2019年には10.4兆円にまで減少しているのに対し、1990年に約20億点だった供給点数は2019年には約40億点へと倍増。さらに新型コロナウイルスの感染拡大で衣料品の販売額も減少し、その影響はアパレル企業だけでなく、生産などに関わる多くの関連企業に及んでいる。

繊維産業のサーキュラーエコノミー推進

こうした中、報告書は繊維産業のサステナビリティを「環境配慮」「責任あるサプライチェーン管理」「ジェンダー平等」「供給構造」「デジタル化の促進」の5つのカテゴリーに分類。このうち「環境配慮」については、これまでの大量生産・大量消費を前提としたリニア・エコノミー(直線型経済)から、製品と資源の価値を可能な限り長く保全・維持し、廃棄される量を最小化するサーキュラー・エコノミー(循環型経済)にしていくことを前提に、統一的な評価指数などを盛り込んだ製品設計に関するガイドラインの策定や、使用済み繊維製品の回収システムの構築などを業界に提言。環境配慮設計ガイドラインに関しては、「アパレルなどだけでなく、紡績、製織・製編、染色整理、縫製など、サプライチェーン上の各段階における業界や企業等の参画が望ましい」とし、今後、業界団体を中心に経産省も参画しつつ、策定に向けた議論を開始するよう求めている。

デューデリジェンス実施を促進

さらに、「責任あるサプライチェーン管理」の実施については、「リスク軽減の意味だけでなく、すべての労働者にとって、分け隔てなく、安心・安全な労働環境をつくり出すことにつながる」と強調。政府や関連団体は2017年にOECDが策定した「衣類・履き物セクターにおける責任あるサプライチェーンのためのデューデリジェンス・ガイダンス」の周知を図っているものの、「各企業レベルでは必ずしもその内容が理解され、実施される状況には至っていない」と現状の遅れを指摘した。その上で、OECDのガイダンスでも「すべての企業はその規模や操業状況に関係なくデューデリジェンスを行う責任がある」と明記されていることからも、業界全体として取り組むべき課題であり、「特に最終製品の提供者であるアパレル企業には一層の取り組みが求められている」として、業界団体に、幅広い労働問題に取り組む国際労働機関(ILO)などの国際機関とも連携しつつ、企業がよりデューデリジェンスに取り組みやすくするためのガイドラインを策定するよう促した。

また国内におけるサプライチェーン上の課題としては、紡績から縫製までの各段階で、多くの事業者が受け入れている外国人技能実習生に対し、兼ねてから最低賃金を下回ったり、割増賃金の不払いや違法な時間外労働などの法令違反があることが指摘され、海外企業との取引においては外国人技能実習生の雇用がリスクとみなされるとの指摘もあることに言及。これに関しては、経産省が2018年に決定した「繊維産業における外国人技能実習の適正な実施等の取組」に鑑み、国が企業に対し、自社のサプライチェーン全体における法令遵守や適正な労働環境の確保を十分に考慮すべき社会的責任を有していることを明記し、自社のサプライチェーンにおいて技能実習の実施に問題がないことを確認・保証することを引き続き徹底する必要性を強調している。

女性が多い業界ながら「ジェンダー平等」が課題

さらに報告書は繊維産業における「ジェンダー平等」について、生産工場に従事している女性の割合は58.5%、またアパレル・小売では 72.6%に上るなど、繊維産業における女性の就業者割合は全業種の中でも高い(2020年の平均値による)のに対し、女性役員の割合は、東証一部上場企業全体の6.0%に比べ、繊維関連企業は4.3%と低い傾向にあることを指摘。背景には、キャリアアップの仕組みが構築されておらず、パタンナーやデザイナーといった専門職は女性で、経営者や、商品開発から販売戦略までは男性が行うべきだといったアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)が存在していることなどが考えられるとした。

もっとも世界の潮流は、大企業のみならず中堅・中小企業でもジェンダー平等への取り組みを推進することが必須であることから、中小企業が大半を占める繊維産業においても、官民を挙げて女性が働きやすい環境整備や女性のキャリア支援に取り組むことが重要。「政府や産業界の代表が一堂に会し、先進的な取組事例などを議論し、共有する場として“官民ラウンドテーブル”を設置してはどうか」といった提案がなされている。

デジタル化の促進による新事業構築、生産工程の改革が必要

上記の5項目についての提言を踏まえ、報告書は今後の繊維産業について、「サステナビリティに取り組むことを一つの価値として創造・提供することで、新たな市場を獲得する可能性がある。そのためには長期的視点での在るべき姿を考え、戦略や計画を策定していく必要がある。これまで繊維産業において長く複雑なサプライチェーンを管理することへの取り組みは進んでこなかったが、今後は確実に把握する責任があり、そのためには川上から川下まで、大企業も中小企業もすべての企業が協力して取り組んでいかねばならない」などと総括。

その上で、「サステナビリティにかかる取り組みを求められているのは企業側だけではない。商品購入などを通じて企業活動に影響を与えている消費者の意識改革なくして取り組みを進めることは難しく、消費者には時代に合った資源の有効活用や消費の在り方をあらためて考えてほしい」とする消費者に意識改革を訴える言葉で報告をしめくくっている。

「繊維産業のサステナビリティに関する検討会」は、有識者のほか、日本アパレル・ファッション産業協会や日本繊維産業連盟など業界団体の関係者ら8人の委員と、3人のオブザーバーで構成。経産省製造産業局生活製品課が事務局を務め、今年2月から6月までに計6回の会合を重ね、今回の報告書を作成した。

報告書を受け、日本繊維産業連盟は今後1年以内にILOなどとも連携しつつ、企業がサプライチェーンのデューデリジェンスに取り組む上でのガイドラインを策定する方針で検討を始めている。経産省製造産業局によると、今後、同連盟による具体的な枠組みが決まり次第、同局もメンバーとして参画し、官民で指標を制定する。

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廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。