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対談:

中小企業のSDGs実践――太陽住建が地域と生み出す「ゼロから1」の創出

河原英信・太陽住建会長(右)と河原勇輝・同社社長。太陽住建社屋1階のコミュニティスペース前で

横浜に根ざし、経済や文化を循環させている企業活動を山岡仁美 SB 2020 横浜プロデューサーがクローズアップ。
第2回は河原英信・太陽住建会長、河原勇輝・同社社長との対談。

ニューヨーク・国連本部で今年7月に行われたSDGsに関する「ハイレベル政治フォーラム(HLPF)」で、 太陽住建(神奈川・横浜)の河原勇輝社長が同社のSDGsレポートについて講演した。同社は住宅のリフォームや太陽光発電設備の設置などを手がける、従業員数8人の中小企業。地域密着型の中小企業だからこそ可能なSDGs実践とは――。「地域の人がゼロから1を創出する拠点をつくる」という取り組みの根幹にある思いと今後の展望について、山岡仁美・SB 2020 横浜プロデューサーが河原勇輝社長と河原英信会長に聞いた。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局=沖本啓一)

SDGs通じて行政へのボトムアップ

山岡:太陽住建は公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)と共同でSDGsレポートをつくり、国連のハイレベル政治フォーラム(HLPF)でも発表を行いました。HLPFでの発表の反応や、海外の企業の印象はいかがでしたか?

河原勇輝氏(以下、勇輝):特に注目されたのは、従業員8人でSDGsを実践する姿勢や、障がい者の方々が働く場所をつくる取り組みです。本業を通して社会貢献しようという姿勢に対して評価を頂けたのではないかと思います。

中小企業として発表させてもらったことは、意義が大きかったと感じています。国レベルの発表が多い中、「中小企業こそSDGsに取り組んでいくべきだ」という言葉をいろいろな場所で聞きました。

山岡:国連は「すべての企業、経営者が本気で取り組まなければ、SDGsは到底達成できない」と言っています。特に日本は、一部の大企業を多数の中小企業が支える構造なので、太陽住建の取り組みはほかの中小企業のモデルにもなると思います。SDGsコンパスの5つのステップをきちんと踏まえて取り組みを進めておられますが、難しかったところ、効果的だったというところはありますか。(参考=SDGsコンパス)

河原英信氏(以下、英信):当初は各取り組みにSDGsの数字を当てはめて、それを継続することがSDGs達成につながると考えていました。

ところが昨年、ある方に「太陽住建さんのゴールは?」と聞かれ、それに対して明確な答えを持っていなかったことを非常に悔しく感じました。「SDGsは国レベルの目標で、中小企業はただ活動を継続することで目標達成につながる」という認識が覆りました。

それからSDGsコンパスやSDGsの基礎を学びなおし、横浜市発行の温暖化対策の冊子も隅々まで読み込みました。その冊子には2020年から2030年の10年間で、横浜市は16万kWhの太陽光発電施設を設置するという目標が記載されていました。

太陽住建は、身近な自治体である横浜市の目標をもとに、太陽光発電を432箇所に設置し、合計19440kWhの発電量を確保するという独自のゴールを設定しました。それによって横浜市の目標である16万kWhのうち、12.15%を太陽住建が担うことできるということを明示できたのです。
 
障がい者の就労支援実績のゴールも2030年に1296人と明確にしました。就労支援後、就職につながった人数はそのうちの25%を目標として324人です。このようにすべて数値化することで、毎年の進捗を発表するという指針を得ることができました。

自治体の目標に対して、太陽住建のような小さな会社が強くコミットしているということが、海外で注目された理由のひとつです。それによって行政に対する、本当の意味でのボトムアップにつながったことが重要だと感じています。

ディーセントワーク実現する障がい者の就労支援

山岡:太陽住建では、障がい者の就業支援にも長年力を入れていますね。SDGsの文脈でディーセントワークにはどのようにつながっているのでしょうか。

英信:例えばカレンダーを巻く作業といったように、健常者が障がい者の仕事の幅を決めてしまうということは起こりがちです。でも彼らは、もちろん健常者と同様に多様です。

太陽住建では現在、彼らに防水工事と太陽光発電の組み立てに携わって頂いています。屋外の作業ですので、町の中で、目に見える仕事の成果が残ります。給与は時給制で健常者同様の額をお支払いします。長時間の作業が難しい方もいますので今は一日3-4時間働いてもらっています。4年間続けてきましたが、これからも彼らの良さを生かす機会は増やしていきたいと考えています。

今後、正社員としての就業まで取り組みを進めるため、具体的な話をしているところです。一人ひとりに合った働き方を提案しながら彼らの可能性を引き出していけることが、仕事のやりがい、生きがいにもなり、ディーセントワークにつながっているのかなと思います。

山岡:究極のダイバーシティのひとつですよね。個々の違いを生かしていくというダイバーシティの根源にあることを障がい者の方の就労支援として発揮されているのではないかと思います。

拠点の運営ができる持続可能な地域に

山岡:空き家活用はSDGsにはどう関連していますか。

勇輝:野村総合研究所が2016年に「2033年には3軒に1軒が空き家になる」というデータを発表しました。それを見て、本業を通じた社会貢献につながる事業として空き家対策に着手しました。

事業を行う上で、さまざまな地域を見てきました。例えば補助金を受けて学生が運営をしていた拠点では、学校が引き揚げてしまって担い手がいなくなってしまっていました。そういう場所を見ていると、そもそも地域そのものが持続可能になっていないと拠点の運営も続かないのではないかと感じていたのです。

現在は横浜市の政策局の方と、地域の住民が主役になる新たな社会活動「リビングラボ」の取り組みを行っています。リビングラボの拠点は横浜市内に16箇所ありますが、その中の磯子地区の拠点を運営しています。ここでは1階は地域のコミュニティスペースとして活用し、2階には事業者の方に入ってもらいました。

取り組みの初期の段階から、区役所やケアプラザの方々に、地域がどのように成り立っているかを教えて頂きながら、町内会、老人会、子ども会を巻き込んで組み立てました。そうすると、利用する皆さんが場所に愛着を持ってくれるようになりました。

朝の植木の水やりのためなどで、町内会の方が毎日足を向けてくれます。地域の方がつくる責任者、つかう責任者になってくださるのです。地域だけでもこの拠点を運営していける、という母体をつくることで地域が持続可能になっていると思います。

さらに拠点に耐震シェルターなどを導入することによって、街の防災拠点を増やすことにもつなげています。町内の方々も空き家がいきなりオープンスペースになるというより「防災拠点ができる」というほうが受け入れやすいようです。

ゼロから1が始まる地域拠点

山岡:太陽住建が社会に寄与し、社会に参画するという意識を持ち、行動に移す動機はなんでしょうか。

勇輝:会社を興して2年目に、経営がかなり苦しい時期がありました。東京都内や埼玉などの遠方の現場が多いことが理由でした。その頃に社内で「地域に愛されて地域で仕事を頂けるようにならないと」と話し合いました。

徐々に地域の人たちと関わることで、地域の仕事を頂けるようになってきた頃、横浜市の住宅供給公社から井土ヶ谷アーバンデザインセンターの共同運営のお声かけを頂きました。拠点の運営を通して、より地域に溶け込めるようになってきたのかなと思います。

山岡:徹底的に地域密着で、地域に対してオープンで、地域に対してリスペクトがあるように感じます。このスペース(編集注:対談実施場所)もお話の中のパートナーシップのひとつにご活用になられています。

太陽住建1階のコミュニティスペース。部分的に鉄骨を残し、木の質感を生かしたデザインは横浜国立大の学生によるもの

勇輝:実はこのスペースは、横浜国立大の学生がデザインを手がけています。床のワックスを引いてくれたのは日枝小学校6年3組のメンバーです。私たちは特に、子どもたちと関わることを大事にしています。子どもたちは地域を「遊ぶ」という視点で見ていて「働く」の視点で見ることはなかなか少ないと思います。地域にこういう会社があるということを知ってもらうきっかけとして、総合学習の時間に来ていただいたり、私たちが学校に伺ったりしています。

山岡:場所をつくる段階からパートナーシップを創出しているコミュニティスペースですね。ここではどのような活動を行っているのでしょうか。

勇輝:先日はSDGsカードゲームを行いました。参加者はさまざまな課題解決に取り組まれている方ですが、「今日SDGsという言葉を知りました」という方もいらっしゃいました。意外と「活動をしたいけど拠点がない」という方々が多いので、この場所が使えるのは非常に助かるというお声を頂いています。

山岡:取り組みやSDGsを「知る」だけでなく、日枝小学校の活動やグリーンバードの活動のような地続きの仕掛けもあって、具体的な行動や日々の生活、仕事の仕方につながるきっかけになりそうです。それはとても意味のあることですね。

勇輝:そうですね。利用者が「やってみよう」と思うことにつながればとても嬉しいです。磯子地区の空き家で地元の方が料理教室をやってみようとか、現役を退いた60代の方がコーヒー会をやってみようといったこともありました。「ゼロから1が始まる拠点」になっていることがとても嬉しいです。

地域の方が能動的に発信してくださる第一歩になれば、パートナーシップだけでなく高齢者の健康や福祉、ジェンダーの課題にもつながります。私たちの会社は地域の人たちから身近に「見える」存在です。町内の方々が拠点を利用することで従業員と顔を合わせ、交流が生まれることでさらにパートナーシップが広がったと思います。

行政巻き込み自立した地域づくりを

山岡:これから未来に向けて、特に注力したいことはありますか。

勇輝:やはりエネルギーの目標に力を入れたいですね。目標を示した以上は行動する責任があり、従業員と一丸となって取り組んでいきたいと思っています。そして私たちと一緒になってSDGsに取り組むという方々が地域の中で増えると嬉しいですね。地域の拠点やスペースを活用して頂いて、それを通して地域の方々にSDGsを知ってもらうきっかけになりたいと思います。

英信:エネルギーの取り組みは特にポテンシャルが高いと考えています。神奈川県をプラットフォームとして、小田原の人たちや横浜の人たちとアライアンスを組み、すごくハードルは高いですが、ゆくゆくは行政に出資してもらって、町内会をまるまる新電力に変えてもらうという取り組みを始めています。補助金に拠らずに、自立した地域をつくることを目指し、行政を絡めて動き始めています。

山岡:それはとても頼もしいですね。

太陽住建のすぐ側を流れる大岡川。太陽住建、大川印刷、NPO法人海の森・山の森の三者で共催する「川でつながるsdgs交流会」は井土ヶ谷アーバンデザインセンターで行う人気イベント。地域に流れる河川からSDGsや持続可能性を考察する
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沖本 啓一(おきもと・けいいち)

Sustainable Brands Japan 編集局。フリーランスで活動後、持続可能性というテーマに出会い地に足を着ける。好きな食べ物は鯖の味噌煮。