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サステナブル・オフィサーズ 第51回

自分らしく生き、人にも優しくできる社会をつくる――寒竹明日美・tsumiki証券CEO

Interviewee
寒竹明日美・tsumiki証券代表取締役CEO
Interviewer
田中信康・サステナブル・ブランド国際会議 ESGプロデューサー/サンメッセ総合研究所 代表

サステナブルファイナンスへの期待が高まる中、丸井グループは2018年8月に従来の証券会社とは一線を画す形の証券会社をスタートさせた。積み立て投資専門の、その名も「tsumiki証券」だ。扱うのは「つみたてNISA」対象商品の中から、運用会社の経営理念や実積などに重きを置いて厳選した4商品のみ。そこから選んだ商品を、丸井グループが発行するエポスカードを使って毎月3000円―5万円の範囲で積み立ててもらう仕組みで、日々の生活に溶け込んだ形での投資を、積み木を一つずつ積み上げていくように、資産形成につなげていってもらいたいという思いがある。事業の立ち上げ時から関わる寒竹明日美CEOに、あらためて同社が生まれた背景や、この2年間の気づき、日本に投資を根付かせることへの思いを聞いた。

「Co-creation」の理念が出発点に

田中:tsumiki証券が設立されて2年が経ちました。今でこそ小売業などを手がける丸井グループが、フィンテック分野として証券分野に参入された意義はそもそも論としてよく理解できます。今一度、背景をお聞かせください。

寒竹:丸井グループというと、小売りか、クレジットカード会社というイメージがあると思います。現在、利益の大きな部分を占めるのはいわゆるフィンテックと呼ばれる金融サービスですが、グループの始まりは家具の卸業でした。昔は高くて買えなかった家具を月賦で買えるようにしたり、バブルの時代には高級ブランドの洋服を分割で買えるようにしたりと、主に決済の力でお客さまのライフスタイルを応援し、小売と金融が一体化したビジネスを続けてきた歴史があります。

グループがいちばん大事にしてきたのは「共創(Co-creation)」の理念。お店づくりも商品も、お客さまの声を聞きながらつくってきました。その流れを背景に、これからクレジットカードや金融サービスをどうしていこうかと検討する中、カードって使うだけじゃなく、貯められたらすごく嬉しいよね、という声をいただきました。20代や30代の若い世代を中心に、将来のお金に対して漠然とした不安を待っていらっしゃる方が多いことが分かったんです。最近では、老後の「2000万円問題」も話題になりましたが、世の中は低金利が続いていて、銀行に預けているだけでは資産は増えない。そこで3年ほど前、丸井グループとして資金形成のお手伝いができるサービスができないかと考え始めたのが最初です。

田中:証券会社の設立ありきで進めたことではなかったともお聞きしていますが。

寒竹:そうです。カードでお客さまの生活が豊かになればそれでいいと思っていたので、いい金融商品をカードで安定して買えるような仕組みができないかを模索していました。でもちょうどそのころ、フィデューシャリー・デューティー(受託者責任)が言われ始め、顧客本位の金融のあり方が国全体で議論されるようになりました。それに加え、子どものころから金融教育が当たり前になされ、投資信託などで着実に家計の資産を増やしている米国や英国と比べて、日本人の貯金は増えているけれども、それですごく豊かになっているかというとそうではないのではないか、といった声も聞こえるようになっていました。ですから、私たちがグループの強みとしてできることと、お客さまのニーズと、世の中の要請と言いますか、日本社会の課題に背中を押された感じですね。

田中:御社の商品ラインナップを見ると、サステナブルファイナンスやESG投資の観点からパフォーマンスをあげている「顔の見える」運用会社にこだわっていることを感じます。金融サービスにおける社会的意義や役割といったことを考え、社会的課題を整理した際に、行き着いたところが証券会社だったということでしょうか。

寒竹:そうですね。いろいろ法律の立て付けなどを調べる中で、それならもう自前で証券会社をつくって、私たちの理念に共感してくださるパートナーの投資信託を販売していけばいいのではないか、という話になりました。

7割が投資初心者の20―30代

田中:サービス開始から2年が経ち、口座開設やその年齢層にも関心があります。

寒竹:今、4万人強のお客さまに申し込みをいただいていて、その中で20代、30代のお客さまが7割です。エポスカード全体では20代、30代が5割ですので、tsumiki証券をご利用いただいているのはさらに若い方が多いです。また男性よりも女性が多く、投資の初心者の方が7割ぐらいを占めるのが特徴です。

田中:いわゆるオンライン証券で投資されている方たちの層とはやや異なっていること、また証券会社とはいえ商品ラインアップの充実を売りにするのではなく、若い世代の方を中心にした積み立ての手がけやすさがセールスポイントということですね。

寒竹:そうですね。積み立てしかやっていませんし、商品も4つしか扱っていません。法律上、カード決済の上限額は月5万円と決まっているので、本当に小額投資ということになります。でも一般的な収入のビジネスパーソンですと月5万円は大変ですので、毎月3000円からちょっとずつという仕組みにこだわりました。できるところから始めてもらい、続けるうちにだんだんと、あっ投資ってこういうことなんだ、世の中とつながっているんだ、と気付いていただければ、と思っています。

田中:顧客のニーズを拾い上げてサービスをつくり、そのサービスを通じて新たな気づきを広げていく。これこそ丸井グループの「共創」概念がベースであることにポリシーを感じます。

寒竹:この2年間を通じた弊社の変化としては、サービスを始める以前は、将来のお金に対するお客さまの不安を解決したいとか、投資に対して漠然と分かりにくいと思っていることを分かりやすくお伝えしたい、と考えていましたが、それだけではお客さまに共感いただけないということが分かってきました。結局、不安を解消するだけだとマイナスがゼロベースになるだけで、何も進まないし、楽しくない。もっと資産形成をすることの意義を伝え、お金は企業活動の源泉であったり、困っている人を助けるかもしれない、世の中につながる素敵なツールであることを実感していただきたい。そして、将来に対しての備えとしてだけでなく、例えば留学したいとか、子どものために良いことをしてあげたいとか、そういった目的や自己実現のために積み立ててほしい。そういう思いが強まったんですね。それで昨年から、ウェブサイトの中で、実際に資産形成をされているお客さまの体験談を紹介する「わたしとつみたて」というコンテンツをつくり、より自分らしく幸せに生きていくための情報発信に力を入れています。

「顔の見える」運用会社とタッグ

田中:商品ラインアップは4本の投資信託のみとし、その運用会社は、レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者の藤野英人氏、セゾン投信社長の中野晴啓氏、コモンズ投信社長兼最高運用責任者の伊井哲朗氏と、まさに「顔の見える」という点で評価も高くそれぞれ代表者ご自身が明確な運用ポリシーをもち、情報発信をされている3社となっています。どういう視点で選ばれたのでしょうか。

寒竹:ちょうど国が長期の資産形成を応援する「つみたてNISA」制度が始まりましたので、弊社としてもまずはその商品の中からのラインナップを前提とし、初心者の方でも選びやすいようあえて4商品に絞りました。運用会社については、お客さまに対する説明責任を大切にしていて、良い時も悪い時も預けたお金の行き先を教えてくれる、そういう活動をブレずにやっている3社とタッグを組ませていただくことを決めました。それぞれの会社の信頼と実績、経営理念であったり運用者の人柄が決め手となり、このブレない方たちと、お客さまに資産形成の良さを伝えていきたいと考えました。今、日本に約6000本もの投資信託があって、ネット証券でも2000本ほど出ている中で、私どもはしっかりと選ぶ基準をお客さまに開示し、その基準の中で選んだ4つの商品の特性をお伝えし、買っていただくようにしています。

田中:いわゆるハイリスクハイリターンではない商品をコツコツと積み立てていくことが、御社の基本的な考え方ですね。扱う商品の運用会社自体も同じ考え方であり、それが顧客に分かりやすさとして評価されていることも一つの理由になっているのかもしれません。

寒竹:ただ、ほとんどのお客さまからすると、金融の世界ってすごく遠く、魅力を伝えるのにかなり苦労しています。ウェブサイトでも、tsumiki証券のパートナーである「顔の見える」運用会社として、その方々の人となりをお伝えしているのですが、それを見たお客さまから、運用会社ってそんな素敵な仕事をしているのか、そういうことだったのね、と思ってくださる方が少しずつ増えてきているのが現状です。

田中:現実問題としてまだまだサステナブルファイナンスという概念は浸透していません。しかし、エシカル消費は普及しつつあり、SDGsやESG投資という言葉も広がってきている中で、投資という行為にも今後、持続可能な金融に投資するという視点が普及していくことを期待してやみません。

寒竹:お客さまの中には「世の中にいい投資」というキーワードで弊社の商品を選んだ、という方もおられます。ただやはり、まだまだ難しいです。ウェブサイトやアプリをどれだけ簡単に作っても、お金のサービスに対するハードルの高さを感じます。これが普通の買い物なら、ちょっと高いけど環境にいい商品だから買おうとか、この作り手さんのストーリーに共感できるから買おうというところにお金を使う。でもそれが金融となった瞬間に遠いところにいってしまうようなんです。最近はコロナ禍でクラウドファンディングが盛り上がりを見せていますが、寄付という行為は素敵だけれど、投資となると、どうしてもそこまで広がらない。近所の飲食店をクラウドファンディングで助けることと、いい投資信託で投資をすることは同じことなんですけどね。本来、好きな洋服を選ぶように、心の豊かさを感じたいからtsumiki証券を使いたいんだ、といった理由で、選んでいただけると嬉しいです。

SDGs、ESGと金融の橋渡しがしたい

田中:世界的にミレニアル世代は特にESG投資に対する関心が高いと言われているのですが、やはり日本では金融経済教育が不十分で、学校教育の現場においてお金の話が控え目であるということも原因になっていると思います。

寒竹:それはあるかもしれません。でも金融教育と言われても、私もそうでしたが、難しいと感じる方もいらっしゃいます。きっかけはカードのサービスであっても、そこから資産形成の大切さだったり、お金が世の中に流れている意味をお伝えしていきたいです。

ミレニアル世代に関しては、例えば、新入社員と話したり、採用面接の時など、「社会にいいことをする仕事をしたいんです」と、ほとんどが率直に言うので、課題解決から行動を起こしている若者が多いと感じています。でも全員が全員そうではない。それでも、生活の中でごみの分別はちゃんとしないといけないといったことに気がついている人は多いし、SDGsやESGってそこから始まると思うんです。ですから、そこと、まだまだ遠い金融との間の橋渡しができるといいですね。

田中:お金がちゃんと循環しないとビジネスモデルも成り立たないように、ファイナンスとサステナビリティの関係性が今後より問われる中において非常に重要でかつ大きなテーマです。

寒竹:はい。でも今の若い人たちって、結構、いいお金の使い方を知っています。人のため、世の中のいいことのためにお金を使う。そういう意味では、SDGsネイティブなのかもしれません。でもやはり、それを資産形成と結びつけた時に、資産形成ってなんかすごく利己的なことだと思われているのかな、と。自分さえ儲かればいいみたいなイメージがどうしてもあるみたいです。本当は違っていて、いい企業に投資すれば企業も利益を上げることができ、株価が上がることで自分も儲けられ、いいサービスが出て世の中が良くなる。そういう循環こそが大切で、本来、ESG投資っていうのはそういうことだと思っています。

企業の中の人が注目される時代

寒竹:私たちが目指しているのは、今まで資産形成してみたかったけれど何か難しくてできないなと尻込みしていたお客さまに資産形成を始めていただくことです。そうしたお客さまの気持ちに立った時に会社としてどうあるべきか、ということも常に自問しています。

最近よく「twitterの中の人」というように、企業の中にいる人の言動、つまり企業の姿勢に対して消費者がすごく敏感になっています。それまで良い会社だと思われていたのが、中の人の発言一つでガッカリされて支持されなくなったり、炎上したりといった風潮が強い。ですから「tsumiki証券ってどんな人?」っていうところも社内でよく話し合っています。青井(青井浩・丸井グループ代表取締役社長)には常々、「金融の人になるな」と言われます。特にウェブサイトでは20代のメンバーを中心に、とにかくお客さま目線に立って、自分が何も分からずに資産形成を始めたとしてどんなことが分かれば嬉しいのか、といったことを分かりやすい内容で発信するよう心がけています。

田中:丸井グループの戦略におけるtsumiki証券の位置付けとして、何を期待されていますか。

寒竹:グループのサステナビリティの観点から言って「すべての人に金融サービスを提供するファイナンスシャル・インクルージョン」は一つの大きな軸です。既存の金融では今までサービスの届かなかった若者を中心とするすべての人に豊かなライフスタイルを実現する金融サービスを提供することこそが、グループのミッションであると考え、カード事業からフィンテック事業へと未来志向で再定義を行った経緯があります。ですから、tsumiki証券はとても重要な位置付けにあります。お客さまとの長期的な関係性を大事に、グループの成長に向け、息の長いビジネスを続けていくことが大事だと考えています。

自分らしく生き、人にも優しくできる社会を

田中:その豊かなライフスタイルを実現する金融サービスとは、何を指すのでしょうか。御社の事業を通してどういう社会をつくっていきたいとお考えですか。

寒竹:もちろんお金が増えるという物質的な豊かさもありますが、資産を増やすことによって自分のやりたいことができたり、家族のために何かをやってあげられたりすることで、心の充足が得られると思うんですね。そうすると自分らしく生きていけるし、人にも優しくできる。そういうことが必要ではないでしょうか。コロナ禍でもあまりピリピリすることなく、ポジティブに生きていける。そんな社会にするために貢献していきたいです。

田中:寒竹さんは最初の立ち上げ時からこのtsumiki証券に関わり、さまざまな思いやCEOとしての強いビジョンをお持ちだと思います。最後に、いちばん大切にされていることをお話しください。

寒竹:お客さまの生活の一部でありたいと思います。お客さまに、世の中にいいことができるためのサービスとして弊社を選んでいただき、コツコツと投資を続けていただいく中で、弊社に関しては、忘れられてしまうぐらいの存在でいいと思っています。お客さまのために何がいいかを考えて働くって、すごく前向きになれるし、健康的ですよね。

それから、私は新しいことに挑戦するのが好きです。チャレンジというのはそれ自体が仕事だという思いもあります。これまで何十年もいろんな方たちがトライしてきたことを、簡単に私たちが変えられるとも思っていません。だからこそチャレンジのしがいがあります。とにかく、お客さまのためにいいことだと思ってやっていますので、それを信じて仕事をするということがモチベーションになっています。

文:廣末智子 写真:高橋慎一

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寒竹 明日美 (かんたけ・あすみ)
寒竹 明日美 (かんたけ・あすみ)

tsumiki証券株式会社代表取締役CEO
1997年入社。店舗勤務から経理部に異動し、以降、経営企画・財務部門で当社グループの経営計画・事業計画の策定に携わる。2014年に国分寺マルイ店次長(副店長)を務めたほか、IR部の課長として投資家との対話を担当。2018年2月、代表取締役CEOに就任。

インタビュアー田中 信康 (たなか・のぶやす)
田中 信康

SB Japan Lab / サステナブル・ブランド国際会議 ESGプロデューサー
サンメッセ総合研究所(Sinc)代表
サンメッセ株式会社 専務執行役員 経営企画室長 営業副本部長
大手証券会社にて株式、デリバティブ取引業務、リサーチ関連業務、人事、財務・IR、広報部門など管理部門を幅広く経験した後、大手企業の財務・IRコンサルタント、M&Aアドバイザー、コーポレートコミュニケーション支援業務の責任者として従事。数多くの経営層との対談を含め、財務・非財務コンサルティングのキャリアを活かし、企業経営にかかわる統合思考、ESG/SDGsコンサルティング、社内浸透、情報開示の支援業務を中心に、各講演・セミナー、ファシリテ―ションなど幅広いコンサルティング業務に携わり、サステナブル・ブランド国際会議東京にてESGプロデューサーに就任し、企業と地方自治体との地方創生・地域連携プロデュースも担う。