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エアビー、観光地の混雑を解消する部署を新設

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米国サステナブル・ブランド編集部

民泊仲介大手の米エアビーアンドビー(エアビー)の登録物件数は485万件を超え、ホテル最大手5社のもつポートフォリオをしのぐほどだ。2017年の調査によると、190以上の地域のさまざまな旅行者がエアビーを利用している。3800万もの米国人旅行者が世界中でエアビーを利用し、米国国内でも3100万人がエアビーを利用している。(翻訳:梅原洋陽)

その一方で、これほどの規模のプラットフォームが何の問題もなく構築されてきた訳ではなく、ニューヨークやパリ、バルセロナのような都市ではエアビーを規制する法律を定めている。

オーバーツーリズム問題

エアビーはこのほど、「オーバーツーリズム(観光地の許容量を超える数の観光客が押し寄せる状態)」の解決を目指す「ヘルシーツーリズム」部署を新設した。旅先のコミュニティを経済的に支援し、現時点ではあまり知られていない場所に人を誘致し、環境に配慮した旅行習慣を促進することを目的としている。

同社のグローバル・ポリシー最高責任者を務めるクリス・レヘイン氏は、「旅行やツーリズムが、その他の経済活動よりも成長が速いという点からも、少しでも多くの人たちが恩恵を受けられるようにすることがとても重要です。しかし現時点では、平等なツーリズムが実現できているとは言い難い状況です。旅行がもたらす利益をより広く分配するために、観光地へのさまざまな弊害を引き起こしたマスツーリズムに代わる、より健全な旅行の在り方をエアビーは提案しています」。

同氏は、「私たちが目指すツーリズムは『ローカルで、本物、多様性があり、包括的で、サステナブル』なものです。世界各地の多様な民泊のホストが手にする収入や、ツーリズムを必要としている地域を宣伝する宣伝力、そして、民泊客を受け入れることで得られるサステナブルな利益を提供することで、私たちは観光地、居住者、そして旅行者それぞれに最適なスタイルの旅を提供することができます」と続けた。

同社の2017年の報告書には、「ヘルシーツーリズム」部署が促進しようとしている経済的利益が記載されている。アンケート調査から、民泊を受け入れるホストが得た収入の43%は家計の日常的な出費に充てられ、6%は新たなビジネスを始めるために使用されていることが分かった。

米国の場合、一般的なホストは年間43日間部屋を貸し出し、$7296(約79万円)を得ている。ゲストの出費の42%は宿泊先の近隣でなされており、53%のゲストはエアビーを利用したことで浮いたお金を、宿泊先の街や近隣の都市で使用している。

環境的な側面では、88%のホストは環境に配慮した何かしらの実践を行っていると答えている。環境に優しい掃除用具を用いたり、リサイクルを行い、宿泊者に公共交通機関の利用を勧めたり、ソーラーパネルを導入したりしているという。さらに、66%のゲストは、エアビーを利用する上で環境への配慮は重要だと回答した。

奈良やイタリア、フランスの地方で観光客を増やす

エアビーの取り組みの効果は、同社の共同創業者ジョー・ゲビア氏が奈良県吉野郡吉野町で始めたコミュニティハウス「吉野杉の家」などさまざまな事業に表れている。高齢化社会や、低出生率、若者の流出などにより、この家の近隣の京都や大阪の地方部は消滅し始めている。

「吉野杉の家」

「吉野杉の家」ができてから、32ヶ国からゲストが訪れ、吉野町の70もの仕事に対してお金を落としている。エアビーは、観光客が多過ぎる都市の問題を解消しながら、「地方の復活」を支援。消滅する地方部のコミュニティに観光客を呼び込もうとしている。

その他の地域においても、政府の要請を受けて、エアビーのジオターゲティングを駆使しながら場所を特定し、ツーリズムの促進を行っている。例えば、イタリアでのプロジェクトでは、同国内の40以上の村を観光地としてプロモーションしている。

似たような取り組みに、フランスの地方にある家族経営の農業地を訪れるツアーのプロモーションがある。レヘイン氏は、「こういった地域は、機会の欠如ゆえに経済的な課題に直面しています。しかし、素晴らしい場所であり、そこに観光客を送り込むことを私たちは目指しています」と語った。

リオ・平昌オリンピックでも宿泊施設の不足問題を解消

エアビーは世界規模のイベントを開催する都市の課題解決も行っている。例えば、世界経済フォーラムによると、エアビーがなければ、リオデジャネイロは2016年のオリンピックのために257ものホテルを建設する必要があったと報告している。そして平昌オリンピックでは、ホテルの7500部屋に相当する、1万5000人がエアビーを使用したようだ。これにより、この地域のエアビーのホストは合計で約230万ドル(約2憶5000万円)を手にすることができた。

ヘルシーツーリズムを促進する他のプロジェクトに、ケープタウン大学のビジネススクールと連携し、2018年9月に開催するアフリカ・トラベル・サミットがある。3日間に渡って開催するこのサミットには、世界中からイノベーターが参加し、アフリカのサービスが行き届いていない地域を活性化するサステナブルで包括的なツーリズムのあり方を、どのようにテクノロジーを利用ながら可能にしていくかを議論しあう。また、さまざまな資源が不足している地域に強固なツーリズムをどのように築くことができるかも重要な議題の一つとしている。

エアビーが新たに設立した、世界中の旅行業界のリーダーから構成された、ツーリズム諮問機関も話題を呼んでいる。世界旅行ツーリズム協議会の前会長のデイビッド・スコゥシル氏、国連世界観光機関の前事務総長のタレブ・リファイ氏、ルワンダ・ツーリズムの前局長のロゼット・ルガンバ氏、そして、前オーストラリア外務大臣、前ニュー・サウス・ウェールズ州首相のボブ・カー氏が加わった。

世界全体が豊かになるにつれ、旅行はより一般的なものになっている。2030年までにさらに10億人が中流階級に加わり、彼らも積極的に旅行をするようになるだろう。

スコゥシル氏は、「ツーリズムがいくつかの主要都市に集中することは、旅行者にとって望ましいことでありません。渋滞や過密による問題を引き起こし、居住者の生活の質を落とすことになってしまいます。旅行者を新たな地域へ連れて行き、お金をその地域に住む人に分配することで、エアビーは先駆者として突き進んでいます。旅行者をさまざまな都市や国に分散させることは、観光地の過密問題を解決する上で重要です」と語った。