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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

未来のエネルギーシステムの創造に向けてーーPwCオランダ イェロン・ファン・フーフ氏

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気候変動や資源の枯渇などを背景に、世界的にエネルギー転換が進んでいる。脱炭素社会を実現し、世界をより持続可能な軌道に乗せるためには、関連産業のみならず、政策立案者や研究機関、投資家、多国籍企業などの強いリーダーシップが必要だ。2月開催のサステナブル・ブランド国際会議2022横浜の基調講演から、PwCオランダのエネルギー・公益事業の専門家であるイェロン・ファン・フーフ(Jeroen Van Hoof)氏による未来のエネルギーシステムの創造に向けた提言を紹介する。(廣末智子)

「水素などの代替燃料の進歩や、全く新しいエネルギーシステムの開発は未来に新たな機会を約束するものだ」。最初にそう力強く呼び掛けた同氏。今後数年の間に、エネルギー、公益事業、資源分野の進化を促すいくつかの大きなトレンドが見られるだろうと語り始めた。

投資家は記録的な金額をこの分野の投資に注ぎ込み、再生可能エネルギーの生産やエネルギー貯蔵、グリーン水素やその他の低炭素のコストを引き下げるためのイノベーションに多くの資本が投入されている。昨年、英グラスゴーで開催されたCOP26では、153カ国が2030年の新たな排出量目標を再検討し、公約を強化することで合意した。これらのコミットメントと中国、米国によるネットゼロ宣言により、「政府は脱炭素化の応援団から、移行の責任者へと変貌を遂げた」と解説する。

もっともエネルギー技術の転換には「社会の混乱と変革が伴うことを肝に銘じる必要がある」と強調。次の大きな流れは「技術のムーンショットではなく、社会のあらゆるレベルの人々やコミュニティによる何千もの小さなステップを共に築いていくこと」であり、先進国であっても、適切な中間補償などがなければ、エネルギー貧困が拡大する恐れもある。

自動車メーカーは電力網の重要な一翼を担うようになる

そうはいっても、近未来のエネルギーシステムの見通しには明るい面もある。世界がグリーンエネルギーへと移行するにつれ、さまざまな産業のビジネスモデルが収れんされ、エネルギー分野における従来の障壁を切り崩していくからだ。化石燃料を扱う企業は風力や太陽光発電に投資し、やがて統合エネルギー企業となる。水素をはじめとする代替燃料はその存在感を増し、電気自動車はエネルギー貯蔵庫として拡大し、自動車メーカーは電力網の重要な一翼を担うようになる。実際、エネルギー分野におけるデジタル化のスピードは近年急速に加速しており、多くの伝統的なビジネスモデルの変革につながっていることは論をまたない。

一方で、課題は、現在世界で生産される水素の多くが化石燃料を原料とするグレーなものであることだ。パリ協定の1.5度目標を実現するには「世界の脱炭素化率を8倍にすることが必要」であり、その手段として再生可能エネルギーを活用したグリーン水素が優れているにもかかわらず、現状では製造コストの高さがネックになって進んでいない。もっともその価格が今後は継続的に下がるという見方を示し、「それに間に合うように中期的な計画を立てる」とともに「必要なインフラ整備をすぐにでも始めなければならない」と強調した。

また最後に直線的な経済から循環型経済への移行の重要性について触れ、「循環型経済が勢いを増すにつれ、企業は複雑な相互依存関係を乗り越えなければいけないことに気づくだろう」と指摘。「再生可能エネルギーやエネルギー貯蔵の利用は、リサイクルや廃棄物処理に新たな課題をもたらす可能性もある。そのような緊張関係を解消することを視野に入れて事業を再構築する企業は多くを得ることができる。企業は循環型社会の担い手として生まれ変わらなければいけない」と締めくくった。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。