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企業のダイバーシティ&インクルージョンを新基準で評価 D&I Award 2021開催 

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日本全国からさまざまな形でD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)に取り組んでいる企業、またはこれから取り組んでいこうとしている企業を募集し、新しい評価基準によって、その取り組みを認定・表彰する国内初のプロジェクトが進んでいる。国内最大のダイバーシティ企業情報サイトを運営するJobRainbow(ジョブレインボー、東京・渋谷)が主催する「D&I Award 2021」だ。9月17日まで応募を受け付けている。折しも東京オリンピック・パラリンピックの開催間際に発生した一連の騒動を巡り、急速にクローズアップされた感のあるD&I。同社は「多様性と包摂」の意味から、「多様性を尊重し生かしていくこと」と定義する。LGBTQ +や女性活躍といった特定の観点を超え、より多角的にD&Iを推進する企業を後押しし、100人いれば100通りある働き方の実現に向け、社会全体のムーブメントを加速させるのが目的だ。(廣末智子)

「女性活躍のみでLGBTはまだ」の言葉に衝撃を受けた

プロジェクトは、「すべてのLGBTが自分らしく働ける社会の創造」を目指して2016年にJobRainbowを創業した星賢人CEOが、ある企業の“ダイバーシティ担当者”から「『うちは女性活躍のみでLGBTに関してはまだ(これからだ)』という言葉を聞いて衝撃を受けた」ことなどをきっかけに、「本当の意味での多様性とは、すべての人が持つ差異を“彩”に変えていくことであって、人の命に関わることであり、企業にとっては競争力の源泉になるものであるにもかかわらず、日本ではダイバーシティという言葉が軽視されている」と考えたことが原動力に。

また創業から5年経ち、LGBTの当事者を巡る就職差別自体は少なくなってきていると感じる一方、障がいがあったり、外国籍であったりといった、二重、三重にマイノリティに属す場合、途端に不利になってしまう現状があることから、「日本のすべての企業がD&Iを実現し、この言葉が必要とされなくなるような社会を作りたい」という思いのもとに独自の認定制度の創設を決めたという。

「LGBT」「ジェンダー」「障がい」「他文化共生」「介護/育児」の5要素を指標に

JobRainbowでは、企業の多様性推進を可視化する指標として「LGBT」「ジェンダー」「障がい」「多文化共生」「介護/育児」の5要素を位置付け。アワードでもこの5要素を軸に、さらにその一つひとつに対して「行動宣言」「教育/理解促進」「人事制度」「コミュニティ」「働き方」の5つの側面から細かく評価する独自のダイバーシティスコアを策定した。

例えば「LGBT」については、「差別禁止規定や経営トップのメッセージを出すなど行動宣言を伴っているか」「管理職をはじめ全社員に教育や理解を促す研修などが行われているか」「同性パートナーシップ制度や相談窓口などの人事制度があるか」「カミングアウトしている社員がいる(いた)か、社内にアライ(支援者)の活動があるか」「男女別の制服がなく、性自認に合わせて選択が可能かどうか」などの具体的な説問がある。5要素すべての設問数は100におよび、企業のD&Iの取り組みを幅広い尺度から評価する。

これらは、「D&Iを実践することに課題を感じている企業にとっても、実行性のある施策をつくるための参考になる指標」であり、また「マイノリティ、マジョリティという枠組みを超えて、すべての人がいきいきと活躍できる企業づくりの基準となる指標」だという。

独自スコアで全企業を認定 16社に大賞など授与へ

アワードの募集対象は、外資系企業を含む日本国内で企業活動を行う企業。基本的には過去2年間のD&Iの取り組みが審査対象となるが、企業の規模や業種、創業年数などにかかわらず、全国どこからでも応募することができる。

応募企業の取り組みは、最初に上記のダイバーシティ・スコアに沿って採点し、その総得点によって、「BEGINNER」「STANDARD」「ADVANCED」「BEST WORKPLACE」のいずれかの認定を授与。さらにこの認定企業の中から16社を選出し、「大企業部門(従業員301人以上)」「中小企業部門(同300人以下)」「地方企業部門(東京、神奈川、大阪、愛知以外に本社を置く企業)」「スタートアップ企業部門(設立から10年以内)」の4部門で各1社の「D&I AWARD大賞」と「D&I AWARD賞」を各3社ずつ決定する。

「D&I AWARD大賞」と「D&I AWARD賞」については、「ジェンダー、LGBT、障がい、多文化共生、介護/育児に関して、満遍なくレベルの高い取り組みをしている」「各マイノリティに対する個別の取り組みにとどまらず、ダブルマイノリティなどスペクトラムな多様性、より複合的な問題に対しても取り組んでいる」などを評価基準に、日本にとどまらず、国際的にもD&Iをけん引していると言えるような先進企業に授与する方向だ。審査には各企業のヒアリング調査も踏まえ、星氏のほか、作家の乙武洋匡氏と、ユーグレナ執行役員でジーンクエスト代表取締役の髙橋祥子氏、FCAジャパンマーケティング本部長のティツィアナ・アランプレセ氏の4人が当たる。

応募は6月末から受け付けており、星氏によると、既に上場企業や外資系企業、またD&Iの取り組みを始めたばかりのスタートアップや地方企業からもエントリーが入っているそう。業種も大企業ではITや金融、自動車関連など、また介護や飲食店などの中小企業や、地方の従業員100人以下の工場などからも応募があり、「とても手応えを感じています。日本は中小企業に支えられており、まだまだたくさんの応募を楽しみにしています」と話す。応募締め切りは9月17日で、今年10月か、遅くとも11月までにはすべての結果が分かる予定だ。応募は、アワードのHP内のフォームから応募できる。

オリパラの騒動は日本の“非ダイバーシティ性”炙り出した

今回のアワードについて、星氏は、「ダイバーシティを『女性活躍』や『LGBT』『外国人』といった限定的な属性からみるのではなく、一人ひとりの持つ多様な属性や個性、価値観、経験に焦点をシフトしていくよう、社会全体でD&Iの在り方をアップデートし、すべての人が生きやすい社会の実現につなげたい」と強調。一方、今回の東京オリパラの開幕式直前の一連の出来事について、「日本社会の意志決定構造における『非ダイバーシティ』的な側面が炙り出された。このような前時代的な価値観やプライドが優先されてしまう実態は、オリンピックの組織委員会に限らず、日本の政治や大企業の中にも依然としてあることだと思う」とした上で、「こうした状況を是正し、本当の意味のダイバーシティを日本に取り戻していくためにもアワードを通して新たな道を示していきたい」と話している。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。