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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

サステナビリティの一歩先「リジェネレーション」とは 概念や背景学ぶ:SB国際会議2021横浜プレイベント開催

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昨年2月のSB国際会議 基調講演で話す、サステナブル・ブランド創設者のコーアン・スカジニア

サステナブル・ブランド ジャパンは13日、「サステナブル・ブランド国際会議 2021横浜」(2021年2月24日・25日 開催)のプレイベントとなる「サステナブル・ブランド2021横浜シンポジウム」をオンラインで開いた。横浜・みなとみらいにゆかりのある2社が登壇したほか、「The Road to Regeneration」と銘打ち、国際会議のテーマであり、日本語では再生や新生といった言葉で訳される「Regeneration(リジェネレーション)」という言葉が生まれた背景やその概念について、SBプロデューサー2氏が解説。ポストコロナで社会はどう生まれ変わり、その中で企業はどのような役割を求められるのかといったことについても議論を深めた。(廣末智子)

右上から時計まわりに青木氏、大崎氏、田中氏、足立氏

はじめに本シンポジウムの協力会社である京セラ(本社・京都市)から、研究開発本部室オープンイノベーション推進部 リレーション推進課責任者の大崎哲広氏が登壇し、同社の「みなとみらいリサーチセンター」について紹介。機器・システム系の研究拠点として、脱炭素社会における地方創生のため、地域内の再生可能エネルギーや蓄電池などをAIによりコントロールする実証実験や、自動運転の車内で今までにない乗車感覚を提供する未来カーの車載システムの研究開発などを行うとともに、共創スペースやクリエイティブハブを備えたオープンイノベーションの推進拠点としても活用していることを報告。「『目立つ』『つながる』『挑戦する』を合言葉にプラットフォームづくりに取り組んでいるので、ぜひ一緒につながって共創していきましょう」と呼びかけた。

次に、イベントの共催団体で、みなとみらいを中心に活動している有志コミュニティ「横濱OneMM」の田中悠太氏(日揮ホールディングス サステナビリティ協創部所属)が、国際色豊かな大企業や研究機関などが徒歩圏内に多く集積する地域特性を生かし、若手社員らが所属企業や組織、業界を越えて緩くつながりを持つ活動を行っていることを紹介。地域の課題解決に向け、企業間での複業を実現するなど、予定調和ではない化学反応を次々と生み出し、実践するコミュニティへとして発展していくため、ここでも「『この指止まれ方式』で仲間を増やしていきたい。横浜にゆかりのある多くの方に参加していただけたら」と共創を呼びかけた。

コロナで「異時空間」にリジェネレート
収束後も「ビジネス元に戻らない」が9割

この後、SB国際会議アカデミック・プロデューサーの青木茂樹氏が、「What’s Regeneration?」と題して登壇し、同氏自身は「新生」と訳している「リジェネレーション」の概念について講演。冒頭、オンラインを通じて参加者に「コロナが収束後、あなたのビジネスは元に戻るでしょうか」と問い掛けたところ、9対1の割合で「戻らない」という回答を得、予想以上の高率に驚く中で、「コロナの影響で、まさにわれわれがリジェネレートし、生まれ変わろうとしている。ではどういうふうに変わるのか。そもそもなぜリジェネレートしなくてはいけないのか」と切り出した。その前提として、今、目指すべき世界が「大きいことはいいことだ(Living Bigger)」から、「より良い暮らしを求める(Living better)」に大きく変わっており、それがまさに持続可能な世界につながっていること、リジェネレーションの考え方はコロナ前からあることなどを説明した。

例えば、ビル・リード氏による2007年の論文によると、サステナビリティがニュートラルでややもするとじっと我慢して動かない感じがあるのに対し、リジェネラティブは、人間が自ら自然の一部となり、少ないエネルギーで、且つ良い方向に再生していこうよという動態的な動きであるとされているのを紹介。その語彙感は中世のルネサンスに通じるものがあり、今、自然や生態系に回帰する方向性が生まれていること、少なくとも、このコロナ禍において、これまで人口の集中した街に住んできたわれわれがデジタルトランスフォーメーションしたことは事実で、リモートワークの定着によってまさに、中世以来、同時空間で仕事をしてきたのが、“異時空間”へとリジェネレートしている、と指摘した。

またSDGsについても、自治体や企業が個々の部局で取り組むのでなく、次世代の育成に向け、経済と社会、環境が相互に関係し合いながら、より個性的な局面をつくり出していくことがリジェネラティブな発想として重要であると強調。これまでのように上意下達で動くのでなく、多要性を尊重するいろんな組織のあり方が出てきたのは注目すべきことで、「そういうリジェネレーションもある」と言及。今後はAIに駆逐されない、深い知の蓄積から生まれる創造的思考とソーシャル・インテリジェンス(社会的知性)、非定型的な動きを企業や組織の器に組み入れるとともに、自然資本や歴史資本などにも重きを置いて、個人の働き方や生き方を考え直す必要があると締めくくった。

今までのビジネスは持続不可能だった
効率優先一転、企業に環境再生型農業広がる

続いて、SB国際会議サステナブル・プロデューサーの足立直樹氏が「今、企業が始めたRegeneration」と題して講演。最初に、世界の企業がリジェネレーションに向かう背景として、2050年温室効果ガス排出量ゼロに向け、世界の足並みが揃う中、今やいかに早くゼロを達成できるかを競争する時代になっていると主張。世界の500社近い企業がサプライチェーン上での森林破壊ゼロを掲げ、さらには600社以上が、生物多様性の喪失をゼロにするよう各国政府に求めるなど、そもそも今までのビジネスのやり方が持続不可能であり、それをいかに変えていこうかという現状があるという認識を語った。企業活動が地球環境に与えるマイナスをゼロに近づけようというのがサステナブルな動きであるとすれば、すでに破壊してしまった環境や社会を、工業的な力に頼るのでなく、人類以外の生命システムのデザインを真似ることによってプラスに回復させ、持続可能の上をいく、より良い環境・社会をつくるのがリジェネレーションだという。

その最たる動きとして取り上げたのは、これまで効率優先のビジネスを行ってきた米国を中心とした農業や食品の大メーカーが多額のコストと手間をかけ、土の健康性を取り戻すことを目的に取り組むようになった「Regenerative Agriculture(環境再生型農業)」を巡る状況だ。例えば穀物大手のゼネラル・ミルズは2019年春から自然循環を尊重する農業方式に切り替え、バリューチェーン全体でCO2の排出量を2025年までに28%削減することを目指しているが、現時点で14%減を達成するなど、取り組みを始めた企業の多くが短期間で成果を上げている。これにより、実はCO2の大きな発生源であった農業が今、大きく変わっているという。

その取り組みは、食品メーカーにとどまらず、消費財大手の英ユニリーバは、すべてのサプライヤーに対し、「環境再生型農業コード」に則った原材料の生産を求め、新しい「気候&自然基金」に約1200億円を投資した。また、グッチなど高級ブランドを多数抱えるファッション業界大手の仏ケリングも繊維を栽培する農地や、皮革をとるための動物を飼育する放牧地に再生型農業を採用。さらに小売世界大手の米ウォルマートは昨年9月、サステナビリティ戦略を加速させ「リジェネラティブ企業になる」と宣言した。具体的にはグローバルでのCO2排出量を2040年までにカーボンオフセットを用いずにゼロを目指す方針で、その一つの手段として環境再生型農業を位置付けている。このように、すべては自然を元に戻し、これ以上壊さないところに紐づく環境再生型農業が世界中で急速に広がりを見せている。

もちろん、リジェネレーションは農業だけの話ではなく、トリプルボトムラインの提唱者であるジョン・エルキントン氏も、最近では資本主義そのものをリジェネラティブにしていかないといけない、と発言するなど、新しいビジネスの連携や共創の形が求められている。日本でも始まっている、地方創生の推進と観光促進、関係人口の創出などを相互に行う「Regenerative Tourism(リジェネラティブ・ツーリズム)」の動きや、海に捨てられていた漁網から再生した糸で作ったアディダスのシューズが世界中で600万足売れている現象などにもリジェネラティブなビジネスのヒントは詰まっている。最後に足立氏は、「コロナ禍でさまざまなことが変わった今は、ビジネスのやり方を根本的に見直すいいタイミング。今、持っているリソースを使って何をしていくか。まさにリジェネレーションの時がきているのではないか」と語った。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。