サステナブル・ブランド国際会議2016 持続可能性とブランドの共創探る

企業人や専門家の議論熱く

世界12都市で開かれている「サステナブル・ブランド国際会議」が2月24日、日本で初めて、株式会社博展の主催で開かれ、300人の定員を上回る聴衆が集まった。「企業と地域とNPOのオープンイノベーション」「B2BのCSRブランディング」「サステナビリティ(持続可能性)はなぜ、ブランドの中核になるのか」など多彩なテーマで討議が続いた。

(オルタナ編集長・森 摂 写真:福地 波宇郎、川畑 嘉文)

BREAKOUT SESSION#1企業と地域とNPOのオープンイノベーション

企業と地域とNPOのオープンイノベーション」をテーマに、パネルディスカッションに登壇したのは、清水勇人・さいたま市長、高橋陽子・日本フィランソロピー協会理事長、柳生好彦・小豆島ヘルシーランド相談役の3人。ファシリテーターは、青木茂樹・駒澤大学経営学部教授が務めた。

青木教授は「ブランドは今やコストをかければできるものではない」と語り、勝沼のワイナリーの例を挙げた。地元産ブドウを使ったまちぐるみのワインづくりを、多くの顧客がSNSで自由に拡散。大企業の広告をしのぐ効果を出していると紹介した。

小豆島ヘルシーランドは、オリーブオイルの化粧品等を製造・販売する事業をしている。柳生氏によれば、同社は年間109万人の小豆島への観光客を「5年後までに300万人に増やす」ため、古民家再生、芸術祭、メディア発行も手掛ける。

清水氏は、「当市の考えるCSRは経営そのもの」と述べ、「さいたま市CSRチャレンジ企業認証制度」を紹介。市内企業の99%を占める中小企業が対象で、現在までに69社を認証した。

自治体がCSRを推進する理由を「企業の魅力を伸ばすことが、都市のブランディングや持続可能な発展につながる」と話した。「市の認証が中小企業にとっては信用になる。マッチングで新ビジネスが生まれた例、社員の意識が向上した例を聞いた」。

高橋氏は子どもの寄付教育を紹介。2015年度の「チャリティー・リレーマラソン」では、東京の中学生が募金を集め、東北の6校に約50万円ずつ寄付。東北の中学生が使途を決めたという。「フィランソロピーとは、寄り添い思いやること。ケアを核にした個人のボランタリズムが企業CSRのベース」と語り、「三方よしに、孫まご子こよしを加えるのが日本流のサステナブル・ブランドだろう」とまとめた。

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「企業と地域とNPOのオープンイノベーション」と題し、(左から)青木茂樹・駒沢大学教授、清水勇人・さいたま市長、高橋陽子・日本フィランソロピー協会理事長、柳生好彦・小豆島ヘルシーランド相談役が登壇した
Video:BREAKOUT SESSION#1
企業と地域とNPOのオープンイノベーション

BREAKOUT SESSION#2CSRとブランドで担当者が議論

サステナビリティへの取り組みやCSR活動は、企業のブランドを強くするのか」とのテーマで登壇したのは、日立製作所情報・通信システム社コーポレートコミュニケーション本部の増田典生・ブランド戦略部担当部長兼CSR部担当部長、UBS証

券の堀久美子・コミュニティアフェアーズ&ダイバーシティ・エグゼクティブディレクター、中越パルプ工業の西村修・営業企画部長の3人。モデレーターはオルタナ編集長の森摂が務めた。

増田氏は、「活動の先に、ブランディングは醸成されていく」と話す。同社のビジネスは、B2B2C2S(Sは社会)と繋がっており、価値の最終提供先は社会である。事業創出には、社会課題を起点としたバックキャスティングが重要という。

同社は岩手県釜石市でNPOと連携して復興支援活動に取り組んできた。地元住民からは「3年以上にわたり継続して来釜し、当地に寄り添って地道に活動して頂いていることは、本当にありがたい」と感謝を伝えられた。

堀氏は、「サステナビリティを追及することがUBS証券の企業価値につながっている」と話した。「地域・長期・社員参画」を行動原則に、堀氏は社員のボランティア活動を促進している。聴覚障がい児向けにITプログラミングを教える活動など、社員の専門性やスキルを生かしたボランティア機会が年間75以上提供され、65%の社員が参加しているという。

中越パルプ工業は日本で唯一、国産竹からも紙をつくっている総合製紙会社。「本業による持続的な社会的課題の解決を図る『竹紙』を核にブランディングを進めてきた。社内の理解は得にくいが、外に発信し続けていけばそのうち会社全体も変わっていくと思っている」(西村氏)。竹紙の取り組みは多くの賞を受賞し、年々知名度を上げている。

レポート写真
B2B企業のCSRブランディングについて話した。右から、UBS証券の堀久美子氏、中越パルプ工業の西村修氏、日立製作所の増田典生氏、オルタナ編集長の森摂氏
Video:BREAKOUT SESSION#2
B2BのCSRブランディング

KEYNOTE ADDRESSサステナビリティとCSRは表裏一体

午後の部では、タイ・バンコクのブランドコンサルタントであるシリクン・ヌイ・ローカイクン氏が「サステナビリティはなぜブランディングの中核となるのか」と題して基調講演した。要旨は次の通り。

大量生産・大量消費の時代には、ブランドは「問題」の一部だった。しかし今後、責任ある生産と消費ができれば、ブランドは「解決策」になり得る。

ブランドは、ものづくり、イノベーション、マーケティングの全てに影響を及ぼす。ブランドがサステナビリティを備えれば、より良い社会をつくることも可能だ。サステナビリティに関するマーケティングとCSRは、分けないほうがいい。社内で両部門が協力すれば、より大きなインパクトを起こせる。

ブランドをつくりたければ、CSRを使う。つまり、振る舞いを変えれば良い。よく「リターンはあるか」と聞かれるが、CSRは、単に与えることではない。愛する家族と何かを共有しても、人は還元など期待しない。消費者は大切なステークホルダーであり、外部者ではない。

サステナブル・ブランド(以下SB)のコミュニティの一員になれば、イノベーションを共有し、製品開発やマーケティングに生かせる。私たちの使命は、世の中を変えること。そのために、1.CSRの認識を広める、2.理解し、コミュニケーションする(エンゲージメント)、3.約束し、増幅させる(コミットメント)、4.共創する(コ・クリエーション)ーーが求められる。

SB国際会議は、学びと交流と協働を効率的にサポートする仕組みとして、2つのネットワークと1つのプラットフォームを用意している。MITと協力して、CSRの効果を測定するSBメトリックも提供している。

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シリクン・ヌイ・ローカイクン氏がサステナビリティとブランディングの関係性について話した
Video:KEYNOTE ADDRESS
サステナビリティは何故、ブランディングの中核となるのか

PANEL DISCUSSION「サステナブル・ブランドとは何か」

サステナブル・ブランドとは何か、企業は何をすべきか」と題したパネルディスカッションでは、青木茂樹・駒大教授、ピーター・D・ピーダーセン・NELIS共同代表、シリクン・ヌイ・ローカイクン氏の3氏が参加。足立直樹・レスポンスアビリティ代表がモデレーターを務めた。

青木教授は、「サステナブル・ブランド(SB)は産業革命、情報革命に次ぐ、第3のグリーン革命に対応する企業戦略だ。SBは企業理念とそのブランド戦略を架橋する存在になり得る」と期待を表した。

ピーダーセン氏は「なぜSBなのか、には二つ理由がある」と切り出した。ひとつは大きな理由で「20世紀以降、人口や資源の消費は指数曲線的に増えたが、これだけの指数曲線から軟着陸できた種も文明も過去にはないこと」。

もうひとつは小さな理由で「企業にとって厚みがあるブランドを求めるのか、薄っぺらいブランドで良いのかという問題」だという。

ヌイ氏は「母国タイの国王は『足るを知る経済社会』を唱えている。サステナビリティは単なる『永続的』ではなく、ピープル(人)、プロフィット(利益)、地球(プラネット)の3Pを追求したものでなければならない」と話した。

「ビジネスで利益を作らなければ持続的にはならない。資源は私たちのものではない、次世代のものだ」「消費者の間にも、SNSを通じて、持続可能性に向けた変化が起こっている」と主張した。

足立直樹氏は、UPS、コカ・コーラ、H&MのYouTubeの動画を紹介し、「こうした新しい表現方法がSBを加速する」とした。ピーダーセン氏は、「SBの出発点は、社会と環境とのトレードオフではなく、トレードオン。両者が互いに矛盾することではないことを理解する必要がある」と主張した。

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パネルディスカッションでは、(左から)足立直樹・レスポンスアビリティ代表がモデレーターを務め、青木茂樹・駒大教授、ピーター・D・ピーダーセン・NELIS共同代表、シリクン・ヌイ・ローカイクン氏が登壇した
Video:PANEL DISCUSSION
サステナブル・ブランドとは何か、企業は何をすべきか

SPECIAL KEYNOTEサステナビリティで企業品質を高めよ

サステナビリティで企業品質を高めよ」と題して、有馬利男・国連グローバル・コンパクト ボードメンバー/一般社団法人グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン代表理事/富士ゼロックス元社長が特別講演した。講演の趣旨は以下の通り。

いま、会場の画面に「モーレツからビューティフルへ」のCMを流しました。1970年に放映された富士ゼロックスのCMです。空をビューティフルに、ビジネスをビューティフルに。もう一度、立ち止まって考えてみましょうと掲げました。

私が富士ゼロックスに入社して3年目のことです。当時は光化学スモッグが各地にひろがって、化学物質も広がって、大きな問題になりました。

このCMは、社内の営業部門からは冷たい反応でした。お客さまからは「よく分からない」という反応でした。

それに反して、若者の反応が良く、ポジティブに受け止められました。このCMで、当社は、学生就職ランキングの一ケタに入りました。

私はブランド論の専門家ではないですが、「モーレツからビューティフル」が富士ゼロックスブランドのアイデンティティを確立したと思っています。

ここに流れる考え方、企業の在り方は今でも富士ゼロックスに流れています。その意味で、富士ゼロックスはSBと言っても良いかと思っています。

サステナブルなブランドの条件には4つあると考えます。

第一に、ブランドそのもののメッセージが社会の根源的な期待や課題に沿っていること。第二には、ブランドのメッセージそのものが事業の経営の実態を体現していること。第三は、事業が実際のプロセスにおいて、ブランドのメッセージを実行していること。第四は、ブランドのメッセージや方向性やプロセスにおいて、ガバナンスが統合的に効いていることーー と考えます。

富士ゼロックスという企業は、何のために存在するのか。今でも何のために会社があるのかと聞かれ、「良い製品やサービスを作り、利益を上げ、雇用や税金を払い、配当すること」と答えている経営者がたくさんいますが、そうではありません。

ゼロックスの創業者、ジョセフ・ウィルソンが定めたミッション「我々のビジネスの目標は、より良いコミュニケーションを通じて、人間社会のより良い理社会に貢献解をもたらすこと」のように、していくことであるはずです。

例えば、2015年9月15日の国連総会で決議されたSDGs(持続可能な開発目標)のような動きには、私たちは事業でどう応えていくか。社会が求めているゴールに対して、私たちは企業としてどう取り組んでいくのか。

こうしたことを中心に考えて行けば、そう大きな間違いは起きません。ただ、それをブランドのメッセージとして打ち出した時に、自社事業の実態がそれに沿っていなければなりません。

会社ではよく「言行一致」と言っていましたが、まず自分たちの会社の中で実践して、効果を把握して、確信を持ってお客様に勧めていた。「口ではそういったけど、実行するのは難しい」ではだめなのです。

サステナブルなブランドメッセージを出した時、ビジネスモデルを変える能力を鍛え、パッケージを組んでいく力が必要です。

社会的課題を掲げた中で、事業のプロセスにおいて、やるべきことをきちんとやる。資材を調達するサプライチェーンの問題もあります。

例えば、当社の深せん工場におけるサプライヤー要因によるラインストップ時間は、2007年を100とすると、2014年は「5」にまで減らせました。CSR調達はコストの削減にも寄与するのです。その結果、ワーカーの離職率は深せん市平均の3分の1にすることもできました。

サステナブル・ブランドの推進とは、「経済性」「人間性」「社会性」の三兎を追うことです。この三つの要素が統合的に高い企業こそ、企業の品質が高いと言えます。そこにイノベーションが生まれるのです。

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国連グローバル・コンパクト・ボードメンバー・富士ゼロックス元社長
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Video:SPECIAL KEYNOTEサステナブル・ブランド 日本企業の先進事例発表

GENERAL SESSION日本企業も先進事例で競う

当日最終セッションの「サステナブル・ブランド 日本企業の先進事例発表」では、「触れる地球」を開発した竹村真一・京都造形大学教授がナビゲーターを務めた。プレゼンターには、高橋健三郎・味の素理事・広報部長、神田三奈・三菱ケミカルホールディングス経営戦略室KAITEKIグループグループマネージャー、花形照美・リクルートホールディングスソーシャルエンタープライズ推進室室長が登壇した。

味の素の高橋氏は、グループ理念の実現のため、アミノ酸技術や知見を生かし、事業を通じた社会との共通価値創出の取り組みであるASV(Ajinomotogroup Shared Value)を紹介。世界中の社員にこの取り組みを「自分ごと化」してもらうため、社員セッションを開催するなど、ステークホルダーとサステナブルなブランドを共創する工夫をしているという。

三菱ケミカルの神田氏は、「地球の持続可能性は危機的な状況。化学はなじみがないと思われがちだが、大気・水・いのち、衣食住に関連するすべては化学が基本になっている。物性や機能を制御できる化学は、様々な産業のパートナーとしてソリューションを提供できる」と表明した。

リクルートの花形氏は、スマートフォンやタブレットで受験勉強できる「受験サプリ」や、介護応援プロジェクト「ヘルプマン ジャパン」といったサービスを紹介。「リクルートには起業家精神が根付いている。新規事業提案制度が浸透し、当社のCSRは圧倒的な『ボトムアップダウン型』」と説明した。

竹村教授は、「地球環境における負の側面を解決するため、骨太な『未来ビジョン』を築き上げなければならない。今の地球を、新しい地球にバージョンアップできるようなスパイラルが求められている」とまとめた。

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(左から)ナビゲーターの竹村真一・京都造形芸術大学教授と事例を発表した花形照美・リクルートホールディングスソーシャルエンタープライズ推進室室長、神田三奈・三菱ケミカルホールディングス経営戦略室KAITEKIグループマネジャー、高橋健三郎・味の素 理事広報部長
Video:GENERAL SESSION
日本企業も先進事例で競う