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第17回「世界で一番面白い街」のつくりかた

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SB-J コラムニスト・古沢 広祐

震災復興、ISHINOMAKI 2.0の挑戦

ISHINOMAKI 2.0のホームページ

東日本大震災の被災地で加速する人口減少、日本社会の縮図(未来)を垣間見るような状況の下で、その危機をばねに展開されているユニークな試みがあります。

5月連休にかけて、震災復興の動向を追って宮城県の石巻市と周辺地域を回りました。主に、雄勝地区や女川地区での春の例祭(神楽奉納)やお神輿の巡行などを見たのですが(関連コラム第11回)、今回は石巻市内で訪ねた「ISHINOMAKI 2.0」(一般社団)の活動について紹介しましょう。

2011年3月11日に発生した震災・津波による未曽有の災害は、多くの命とともに居住地や街の賑わいを奪い去りました。宮城県の東部に位置する石巻市も例外ではありません。震災当初、被災地の支援に多数の人々がボランティアとして現地入りしましたが、緊急支援的な活動の大きな波が引いた後、いわば第2ステージとでもいえる状況に入っています。

被災地では全国に先駆けて人口流出と過疎化が深刻化する中で、その状況を克服すべく多くの努力が繰り広げられています。危機的状況を転機に、元の石巻(1.0)から新しいまちへのバージョンアップをはかる、既成概念にとらわれないまちづくり集団として、「石巻2.0」は2011年6月に設立されました。

設立の中心となった松村豪太さんは、地元でスポーツクラブNPOの活動をされていた方ですが、震災を契機に全国からのボランティを受け入れて泥出しやがれき撤去を行う中で、新しいまちづくりの課題へと踏み出したのでした。

新たな集いの輪には、広告代理店、建築家、都市研究の学者が加わり、地元と移住の若者たちが中心となって「石巻を世界一面白いオープンでクリエイティブな街」にしようと、地域の閉鎖性や既成観念を乗り越える様々な仕掛けを創り出したのです。

「出る杭」を伸ばす

カフェ・交流スペースの「IRORI + cafe」

地元の人のみならずインターネットを介してつながり合うオープンシェアオフィス・フリースペースIRORI、復興BAR、復興民泊、石巻工房(市民工房)、2.0不動産、2.0エクスカーション、いしのまき学校、新聞メディアの発行など、各種事業が花開きました。

震災後4~5年を経過したなかで、諸事業は大きく3つの分野に集約されてきています。コミュニティづくり、教育、地方創生(起業・移住)、それらどれもが重要で内容説明が必要ですが、詳細は団体のウェブサイトを見て下さい。なかでも興味深いのが教育と起業(ローカルベンチャー)の取り組みです。

一例として「いしのまき学校」では、高校生が地域の課題とチャレンジすべき面白さを地元の人々から実地に学んでいます。ローカルベンチャー(起業)では2011年以降に20ほどが立ち上がっており、例えば「イトナブ」(IT×遊ぶ×営む×イノベーション)ではアプリ製作・デザイン企画・IT教育などを行いながら、IT活用について小学生から大学生まで次世代1000人育成(IT技術者)に取り組んでいます。

興味深いのは、石巻の課題を日本レベルそして世界レベルから見ていく視点があることで、例えば米国のミシガン大学との相互交流があります。そこでは地域衰退に直面するデトロイトとの比較とともに共通課題を見い出そうとする試みが行われており、注目される動きです。

問題や課題を前に、さまざまな出会いと成長が生まれること、そこで一番重要なのが面白さ、楽しさの発見であり、「出る杭」が大きく伸びることです。それこそがISHINOMKI 2.0の原動力であって、まさに「世界で一番面白い街」づくりにつながっているのです。

シェア、つながる力が課題解決

今日、私たちの身の回りの生活でも価値観の転換の兆しが見受けられます。物をたくさん所有する暮らし方から、分かち合いや共有する関係性を重視する暮らしが見直されています。バザー、ガレージセール、フリーマーケット(「メルカリ」他)が繁盛し、車や家屋や部屋、菜園などを共有するシェア・エコノミーの考え方が生まれたり、さまざまな実践が始まっています。

既成の枠組みを超えるこうした動きは、被災地でまさに重要な役割を演じています。例えば、同じ宮城県の気仙沼では、移住者と地元住民や行政とが密接な関わり合いを深めて、地元企業、漁業者などが連携して、深刻な地域課題にチャレンジしています。「ちょいのぞきツアー」、「ば!ば!ば!プロジェクト気仙沼」などのような、地域の生業、特産物、食文化、伝統芸能、工芸品、民家などを、都会のセンスを加味しての新企画を事業化する試みがスタートしています。

あるいは同じく南三陸町で被災地の復興に取り組むNPO「ウィメンズアイ」などは、女性の活躍の場づくりや交流を促す取り組みをしており、パン・菓子工房がスタートしたり、コミュニティ・カフェや助け合いのネットワークが生まれたり、従来の閉鎖的で家父長的な関係性とは違った形での試みが胎動しています。

社会的な関係のあり方としては、従来の結束型のみならずこうした橋渡し型の社会関係資本(ソーシャルキャピタル)をいかに活性化させていくかが重要です(連載コラム第11回参照)。被災地に限らず、今日の日本そして世界各地での社会的課題の解決には、そうした多様でダイナミックなつながり合う力が求められていると言ってよいでしょう。

石巻2.0代表の松村豪太さん(左)と著者

平成27年度ふるさとづくり大賞団体表彰<総務大臣賞>を受賞:
【地域づくりTV】ISHINOMAKI2.0「 世界で一番面白い街へ 」
https://youtu.be/qd3DAxpD150

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古沢 広祐
古沢 広祐 (ふるさわ・こうゆう)

國學院大學経済学部(経済ネットワーキング学科)教授。
大阪大学理学部(生物学科)卒業。京都大学大学院農学研究科博士課程(農林経済)研究指導認定、農学博士。
<研究分野・活動>:持続可能社会論、環境社会経済学、総合人間学。
地球環境問題に関連して永続可能な発展と社会経済的な転換について、生活様式(ライフスタイル)、持続可能な生産消費、世界の農業食料問題とグローバリゼーション、環境保全型有機農業、エコロジー運動、社会的経済・協同組合論、NGO・NPO論などについて研究。
著書に、『みんな幸せってどんな世界』ほんの木、『食べるってどんなこと?』平凡社、『地球文明ビジョン』日本放送出版協会、『共生時代の食と農』家の光協会など。
共著に『共存学1, 2, 3, 4』弘文堂、『共生社会Ⅰ、Ⅱ』農林統計協会、『ギガトン・ギャップ:気候変動と国際交渉』オルタナ、『持続可能な生活をデザインする』明石書店など。
(特活)「環境・持続社会」研究センター(JACSES)代表理事。(特活)日本国際ボランティアセンター(JVC)理事、市民セクター政策機構理事など。
http://www.econorium.jp/fur/kaleido.html

https://www.facebook.com/koyu.furusawa

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