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廃棄物流の仕組みを変えて循環型経済を実現する

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プラスチックごみの輸出を制限するバーゼル条約の改正に各国が合意し、我が国から輸出できずに行き場を失ったプラごみが国内にあふれている。いわゆる「静脈物流」の効率化が喫緊の課題となる中で、都内の静脈物流事業を手がける白井グループ(東京・足立)はこのほど、物流の仕組みを変える先進的な事業に乗り出した。人工知能(AI)やIoTの技術を導入し、廃棄物流の事業者が連携するためのプラットフォームを構築。これによりコストの削減など資源循環へ実効的な効果を見込む。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局=沖本 啓一)

静脈物流の課題

生産者から消費者へ商品を輸送する物流を「動脈物流」と呼ぶことに対し、消費者からリサイクル処理業者への物流、または素材として生産者へ帰る物流のことを「静脈物流」という。朝、街で見かけるごみ収集のトラックはすべてこの静脈物流にかかわる業者のものだ。

静脈物流は大きくわけて、一般家庭から出る「一般廃棄物(一廃)」と、企業や店舗から出る「産業廃棄物(産廃)」の物流に分けられる。一廃は各自治体が無料で収集、処理しており、実際に収集車を走らせる業者の選定や、オペレーションを自治体が一括して行っている。対して産廃の場合、各企業や店舗が業者と各個に契約を結び、ごみを収集してもらう。そのため、例えば一つの繁華街に密集して10の店舗があった場合、それぞれごみ収集業者を手配し、10台のトラックが収集に来るといったような、非効率的なことが起こり得、それに近いことは実際に起こっている。

日本ではこのように、静脈物流の仕組みが非常に複雑化している。そんな中、5月にはバーゼル条約の改正に世界180カ国が合意。これまで中国などに輸出していた廃プラスチックを国内で処理しなければいけなくなった。政府はリサイクルをしない単純焼却によるごみ処理を各都道府県に要請。受け入れを拒否する自治体も現れるなど、プラごみをめぐる状況は目まぐるしく変わっている。産廃の処理コストは10%も上がり、現在は値上げによる対応を行っている。

資源循環プラットフォーム事業

白井グループはこれまでも、東京都の実証実験など2度にわたって静脈物流の課題を解決する取り組みにあたってきた。それらの実証実験などの経験を生かし、静脈プラットフォームを構築する「資源循環プラットフォーム事業」の実装に着手した。「現在、廃棄物処理市場の規模は3.8兆円。その50%を物流コストが占めています」と同グループで資源循環プラットフォーム事業部長を務め、工学博士でもある馬場研二氏は説明する。

車両やドライバーの動きを効率化しコストを削減、同時に無駄なトラックの稼働によるCO2排出量を大幅に減らす。輸送経路上での手続きを迅速化し、廃棄物の移動経路の記録を関係業者や外部機関などが把握しやすくすることによってリサイクル量の拡大を狙う。まさに「次世代型」の物流システムは、収集トラックの自動配車や書類の電子化といったAI、IoT活用がひとつの肝だ。これらのシステムを統合的にオペレーションできるよう、プラットフォーム機能を構築するという。

静脈プラットフォームの位置づけ

新品の製品が消費者へ届く「動脈物流」ではAmazonや楽天といった「注文を受け、宅配業者に荷物を振り分け、届ける」プラットフォームが存在する。企業や店舗が廃棄物を出し、リサイクルされるまでの静脈側で、同様のプラットフォームを構築するというモデルが白井グループの新しい事業だ。収集の受付をネット上で一元化し、輸送業者の手配やリサイクル業者への割り振りなどをシームレスに行う。非効率だった産廃の物流を、一廃同様に効率化。社会全体で循環型の経済を構築する。

パートナーシップで実効性を

「米国などではそもそも、一廃と産廃の収集経路が違うということがない。効率的にごみ処理をするという過程で淘汰された方法を、日本はまだ制度としています。白井グループがこのようなプラットフォーム・オペレーターとしてのモデルを実装できたのは、たまたま(一廃と産廃の)両方の領域を事業として持っていたため」と馬場氏は話す。交通インフラの新しい考え方で、移動手段をシームレスにする「MaaS(Mobility as a Service)」の仕組みも参考にした。「『WaaS(Waste as a Service)』とも呼べる、インフラ・サービスとしての静脈物流という考え方」(馬場氏)

このプラットフォームが機能するためには「そこに集うプレイヤーの参加数が大きくなれば実効性も増す」と馬場氏は力を込める。プラットフォーム構築に着手したばかりでこれから事業者などに参加を求めることになるが、企業同士の既存の契約が白紙になるのでは、と尻込みする業者も多いという。実際には各個の契約にプラットフォームが大きく関与することはない。効率化して稼働が空いたトラックは、別の事業や働き方改革に生かすことも考えられる。都内に1000とも言われる中小の廃棄物流業者らが、互いの利益を侵害することなくパートナーとして連携することで、サービスをより安価にしつつ、企業も社会も持続可能な、暮らしやすい社会を実現できるのかもしれない。

沖本 啓一(おきもと・けいいち)

フリーランス記者。2017年頃から持続可能性をテーマに各所で執筆。好きな食べ物は鯖の味噌煮。