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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

ビジネスパーソン要注目のエシカルブランドSALASUSU

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トラベルサコッシュ 4,500円(税込4,860円)/写真提供=SALASUSU

カンボジアに工房を持つエシカルファッション・ブランド「SALASUSU(サラス―スー)」。同ブランドが企画し、国内の学校関係者がカンボジアでさまざまなテーマを学ぶスタディツアーにはこれまで、62校、11360人にのぼる参加があった(2018年9月時点)。SALASUSUのブランドには「LIFE JOURNEY」というコンセプトが掲げられ「経済的に困難な背景を持つカンボジア女性の人生の旅を応援する」という意味があるが、実は日本のビジネスパーソンにも大きく通じる「ひとづくり」への思いが込められている。共同代表の青木健太さんと横山優里さんにSALASUSUが投げかける意味合いを聞いた。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局=沖本啓一)

SALASUSUの商品を購入すると、ちょっとした「仕掛け」を見つけることができる。ひとつはタグに、商品を作った女性の名前がスタンプで押されていること。そして、工房を見学するツアー(カンボジア国内発)のチケットが同梱されていることだ。

商品のタグに作り手の名前がスタンプされる 写真提供=SALASUSU
工房見学ツアーチケット 写真提供=SALASUSU

同ブランドの前身は途上国での児童の人身売買や強制労働の問題解決に取り組むNPO法人「かものはしプロジェクト」のカンボジア事業部。貧困家庭の家族に仕事をつくるために、現地の工芸品などを製造する工房をつくった。その後、子どもが労働力として売買されるケースは減り、同NPOはカンボジアからの撤退を決めたが、貧困によって学校に行けず、仕事に就けない女性たちという課題が残っていた。

ものづくりを通して日本の消費者に課題を伝えるには、もっと商品を手に取ってもらうことが必要だ。工房はファッションブランドとして生まれ変わった。そこで働くのは、小中学校を中退した18-25歳の、経済的に難しい背景を持つ女性たちだ。読み書きができない、決まった時間に仕事場へ通えない、などさまざまな課題を持つ。

目指すのは「根本的な自立」

彼女たちが自立するためには、消費者に喜ばれ、その対価をもらうという根本的なビジネスの感覚を理解する必要がある。そこで、ひとつひとつの製品に自分の名前をスタンプし、「自分が作ったものだ」という意識を持ってもらった。同時に買う人にも彼女たちを身近に感じてもらうことができる。

SALASUSUのほとんどの商品に押されるスタンプは、たった3つ。基本的に3人でひとつの商品を完成させている。一般的な大量生産の工程では、60人以上がライン作業に携わるという。作業を細分化・ライン化すれば品質は安定する。しかしそれでは作り手が、仕事に誇りを持てない。

工房で働く女性 写真提供=SALASUSU

工房の作業時間のうち2割は、「アンガーマネジメント」や「他者とのコミュニケーション」といった研修プログラムに費やす。これらのトレーニングをしながら働き、2年経つと工房を「卒業」しなければならない。卒業後に改めて行政の職業訓練を受ける女性、都市部のホテルで働き始め、会計のスキルを身に着けた女性など、彼女たちのキャリアのスタートを支援する。目先の就業ではなく根本的に自立することに主眼を置く。

製品づくりという意味では、ベテランがいなくなる仕組みだ。「事業と課題解決のバランスを取ることはとても難しい。だけど、それを諦めることはありません」と青木さんは話す。

レディース サンダル/8,500円(税込9,180円) 写真提供=SALASUSU

もうひとつの「仕掛け」の工房見学のチケットは、年間に約30人が利用する。そのほかのツアーなども含めると、年間に2000人以上がカンボジアの工房を訪れるというから驚きだ。国内の高校生、大学生を対象とするスタディツアーには、これまでに1万人以上が参加した。ツアー部門でリーダーシップをとる共同代表の横山さんは「現地の女性たちが生き生きと働く姿に、私自身もとても勇気づけられます。それがSALASUSUを立ち上げた大きな理由でもあります。一方的な課題解決ではなく、作り手と買い手の双方へのエンパワーメントを目指しています」と話す。

工房の外に広がる「ひとづくり」の思い

工房で働く「作り手」の女性は約70人 写真提供=SALASUSU

SALASUSUの稀有な点は、これらの取り組みがさらに広がりを見せるところにもある。自立支援、職業訓練のプログラムは、人材育成プログラムとしてカンボジア国内の企業からのニーズが生まれている。トレーニングメソッドの共有だけでなく、トレーナー養成を手がけることもある。また、リーダーシップの育成プログラムとして、日本企業が工房や村をめぐるツアーを利用する例もあるという。

あくまでも課題解決を事業の芯とし、そこで生み出された手法を事業として、さらに課題解決が促進される。事業の動機に「カンボジアの貧困課題の解決」がなければ、こんなにも大変なことはやらない、と青木さんは笑う。

「日本にいると会社の枠組みや、KPI、ルールの存在が大きく『自分が何をしたいか』が見え難くなります。しかし、見えないままでやっていけるほど簡単な時代でもありません。サステナビリティを追求するときに、自分自身のエネルギーが湧き出る内面にアクセスすることが大事です。リーダーシップの開発のためには、しっかりと内省することが必要だと感じています」(青木さん)

SALASUSUは「SALA=学校」「SUSU=頑張って」を意味する。カンボジアの女性を支援し、応援したい、という思いのブランド名だ。しかし貧困家庭への支援から企業の人材育成、スタディツアーという立体的な展開は、「途上国」「先進国」「売り手」「買い手」という枠組みを超えて、関わるすべての人への「学びの提供」と「応援」を感じさせる。

最後にSALASUSUのパーパスを聞いた。

「人が人に関わることで応援し、成長していける。それを信じ、さまざまな形で伝えていくこと」(青木さん)「つまり、LIFE JOURNEYですね」(横山さん)

SALASUSU期間限定ショップを展開中

~6.12(水)
東急百貨店 渋谷駅・東横店1階ポップアップステージB

6.5(水)~6.18(火)
横浜高島屋7階

■編集局からのお知らせ
今回お話をうかがったSALASUSU共同代表・青木健太さんのコミュニティ・コラムが、6月から連載開始予定です。

沖本 啓一(おきもと・けいいち)

フリーランス記者。2017年頃から持続可能性をテーマに各所で執筆。好きな食べ物は鯖の味噌煮。