サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイトです。ページの先頭です。

サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)
コミュニティ・ニュース

徳島・上勝町「ゼロ・ウェイスト」は新たなステージへ――NPO法人ゼロ・ウェイストアカデミー 坂野晶理事長

  • Twitter
  • Facebook
サステナブル・ブランド ジャパン編集局

曲がりくねった山道を車で登っていくと、ゼロ・ウェイストアカデミーは見えてくる。徳島県の山あいにある上勝町は2003年、2020年までに同町のごみをゼロにする「ゼロ・ウェイスト宣言」を日本で初めて行った。現在、同町のリサイクル率は81%。2005年に「ごみゼロ」を町内で推進し世界に普及するためにつくられたゼロ・ウェイストアカデミーは昨年、環境省主催「グッドライフアワード」で最優秀賞を受賞した。現在開催中のダボス会議の共同議長に選ばれ、サステナブル・ブランド国際会議2019東京にも登壇する同NPO理事長の坂野晶さん(29)を訪ねた。(サステナブル・ブランド ジャパン=橘 亜咲)

標高300メートルにある仮設のごみステーション。2020年春に新設される

上勝町は55ある集落が標高100~700メートルに点在している。「車を走らせていると、眼下に雲を見下ろすこともある」と坂野さんはいう。

1556人の住民は、ゼロ・ウェイストアカデミーの運営する「日比ヶ谷ごみステーション」にごみを集め、45分別する。なかには40分かけて車でごみを捨てに来る住人もいる。ここに集まるのは生ごみ以外のもの。生ごみはすべての住人が自宅のコンポストで処理している。

「ゼロ・ウェイスト宣言」から15年。焼却炉を閉鎖してからは18年経つ。当初は役場の職員が地道に説明して回ったという分別も、今では当たり前のこととなった。ごみステーションは現在、町内でも住民が最も集まるコミュニケーションの場となっている。

モンゴルからフィリピン、そして上勝町へ

坂野さんは兵庫県西宮市出身。関西学院大学で環境政策を学び、在学中に国際学生団体「アイセック」の活動でモンゴルに渡った。モンゴル支部の代表として現地学生のキャリアプランニングなどの支援を行った後、国際物流大手のフィリピン法人で2年間働いた。坂野さんは、今月22日から開催されている世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)の共同議長に6人の次世代リーダーの一人として選ばれ、世界銀行総裁やマイクロソフトCEOと共に議長を務める。

上勝町に住むきっかけは大学で出会った同町出身の友人だ。2014年にフィリピンから帰国した坂野さんは、大学院に進学するまでの半年間を友人の暮らす上勝町で過ごすことに決めた。移住するつもりはなかった。

折しも、ゼロ・ウェイストアカデミーは過渡期を迎え、新しい理事長を探していた。坂野さんと友人は同NPOで働くことになり、最終的に友人が事務局長に、2015年11月に坂野さんは4代目の理事長に就任した。大学院に合格していたが、それを蹴ってゼロ・ウェイストアカデミーで働くことを選んだ。

「環境政策の現場で経験を積みたいと考えました。上勝町のように、日本のなかで環境分野において地域で長年取り組み続けている事例は少ないです。さまざまな環境問題がありますが、ゼロ・ウェイストアカデミーの取り組みは単なる問題解決ではなく、より良い状態をつくるために何ができるのか発展的に考え実行していくものです。それが面白いと思いました」と語る。

設立から13年 ゼロ・ウェイストに貢献する人材を世界に輩出

ゼロ・ウェイストアカデミーは「ゼロ・ウェイスト宣言」を推進するために設立された。町内でゼロ・ウェイストを加速させ、上勝町から世界にゼロ・ウェイストを発信することを目指している。

「ゼロ・ウェイストアカデミーが果たしてきた最大の役割は、ゼロ・ウェイストに貢献する人材の育成です」

これまでの事務局長やスタッフもここで一定期間働いた後、別の場所でゼロ・ウェイストに関わる活動をしている。数日間かけて行う研修やインターンシップも実施しており、世界中から人を受け入れている。そうして上勝町に来た人たちは、考え方や取り組み方をここで学び、それを持ち帰って新たな取り組みを始めている。

視察は一時期よりも減ったというが、今でも年間約1000人が訪れる。行政や個人、企業の研修などさまざまだ。海外からの視察は3割ほどを占め、増えているという。

「住民の意識にどうアプローチし、どう人を巻き込み取り組んでいくのかーー。全住民が分別をしながら、地域ぐるみで取り組んでいる事例を学びたいと視察に来られます。先進国だけでなく、発展途上国の農村部でもごみに対する人々の意識を上げて取り組みをしていく必要があり、上勝町をモデルにしようと視察される方もいます」。坂野さんは、海外からの視察は今後も増えていくとみている。

上勝町内のカフェに貼られた「ゼロ・ウェイスト認証」

このほかに、ごみステーションやリサイクルショップの運営管理、飲食店向けの「ゼロ・ウェイスト認証」の審査・付与、「量り売り」の推進、上勝町ゼロ・ウェイスト政策の中期計画の策定、事業所のゼロ・ウェイスト監査と社員研修、小中学生向けに夏休みの体験学習などを行う。

ゴミステーション内にはリユースショップ「くるくるショップ」がある。回収してリサイクルに出すのではなく、地域の中でリユースしている。無料で必要なものを持ち帰ることができる。布地のものはリメイクやアップサイクルし、「くるくる工房」で販売し、地域のなかで循環させている

リサイクル率100%達成には、企業と政治の変化が必要

現在のリサイクル率81%は、上勝町でリサイクルできる限界値だ。リサイクルできていない残りの19%は紙おむつやゴム、革、塩ビ製品など。技術的にリサイクルが難しいものや、初めから使い捨て商品としてつくられているもの、衛生的にもリサイクルが難しいものだ。上勝町のような小規模ではリサイクルにまわすとコストが高くなるという場合もある。

「これまで以上に分別を頑張るということではなく、素材が変わっていくとか製品設計が変わってより分別しやすくなるとか、リサイクルできない製品がなくなるという状態に変わっていかないといけません」と坂野さんは話す。

「そのためにも、企業に働きかけるためにどういう役割を果たせるのか。どういう働きかけや提案をしていけばいいのか。組織として、そういう設計をしなくてはならないと考えています。これまでそうした経験が少ないので、今後の課題でもあります」

ゼロ・ウェイストアカデミーはいま、企業と連携し解決策を見つけるという新たな段階に入っている。

同時に、政治も変えていく必要があると指摘する。ごみの回収の仕組みを変えるためには、政治によって社会の仕組みが変わらなければならない。さらに日本では焼却炉ありきでごみ対策が進んでいるが、それを変えるにも政治の力がいるからだ。

変わらない状況をいかに早く、今変えられるか ダボス会議で問いたい

坂野さんは2012年から、世界経済フォーラムの33歳以下の若者の組織「グローバル・シェイパーズ」の日本支部に所属している。共同議長に選ばれたという連絡はメールで突然届いた。

今年のダボス会議のテーマは「グローバリゼーション4.0:第4次産業革命時代におけるグローバル構造の形成」。坂野さんは「なかでもサステナビリティは大きなテーマ。これからのサステナビリティの取り組みがどうあるべきかについて話していくことになると思います」と話した。

「『サーキュラーエコノミー(循環経済)は大事』といわれて久しいです。しかし、抜本的に経済の仕組みを変えるという方向には向かいません。変えることは大変ですが大事なことです。みんな嫌がるけど、今すぐ変えないと間に合いません。いかに早く、今変えられるのかーー。それをダボス会議で問うことが、私個人のテーマです」

上勝町については、「『ゼロ・ウェイスト』の取り組みはグローバルに通用するテーマです。しかし、素材や商品設計を変えてもらいたいと企業に伝えるにあたって、経済文脈で考えるとどういう風に戦略になりえるのか。どうすれば企業にも導入してもらえるのかということを考えなければなりません。そのためには、ローカルで取り組むこの問題をサーキュラーエコノミーという概念まで引き上げて議論を進める必要があると思います。ダボス会議での経験が、上勝町の『ゼロ・ウェイスト』の取り組みをサーキュラーエコノミーの文脈まで持ち上げるきっかけになればいいと思っています」と語った。

絶滅危惧種の鳥が生きていける地球を目指して

坂野さんの行動力のモチベーションになっているのは「鳥」。環境問題への関心も10歳の時に出会った絶滅危惧種の飛べないオウム「カカポ」がきっかけだ。

「もともと鳥が好きなので、絶滅危惧種の鳥が生きていける世界になるといいなと思っています」

坂野さんは10カ月の子どもを持つ母親でもある。「気候変動など大きな問題が深刻化するなかで、私の子どもたちは今と同じ地球環境では住めません。今あるものがなくなっていくことに対して、なんとかしたいという思いがあります。ごみの問題は全体のなかではとても小さなものですが、ごみの切り口からどう大きな問題の解決に近づかせていけばいいのかを考え続けています」と話した。

  • Twitter
  • Facebook