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有機綿のビジネスが東北復興や社会貢献を相次ぎ促進

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「ふくしまオーガニックコットンプロジェクト」から生まれた「ふくしま潮目-SIOME-」てぬぐい

有機綿の栽培を通じて東北の復興や社会貢献につなげようという試みが大きく広がっている。福島で和綿を栽培する「ふくしまオーガニックコットンプロジェクト」では、双葉郡へも栽培地を広げ、原発避難者の仕事を創出する一方、収穫した有機綿を自社商品に活用する企業も増えている。繊維専門商社の豊島(愛知)はかねてから進める有機綿を通じた社会貢献とビジネスを両立するプロジェクト「オーガビッツ」をさらに発展させ、有機綿生地や製品を製造・販売するアバンティ(東京・新宿)も全国各地で広がる有機和綿栽培の支援を行う。(箕輪弥生)

有機綿ビジネスが福島・浜通りの農業・コミュニティ・環境を再生

「ふくしまオーガニックコットン」SDGs事業概要図
ロハス・ビジネス・アライアンス 大和田順子共同代表 作成

東日本大震災から7年目、福島の浜通りではいわき市から始まった有機和綿の栽培地が、広野、楢葉、富岡、大熊といった福島原発事故の被災地に近い双葉郡の町や南相馬市にも広がり、福島のコットンベルトを形成しつつある。

福島県で国産の和綿を栽培するという「ふくしまオーガニックコットンプロジェクト」は震災直後の2012年に、いわき市で野菜や米の代わりに食用ではない綿を栽培して耕作放棄地を減らし、福島県の農業を再生しようという試みから始まった。綿が塩害にも強く津波被害のあった場所でも育てられることや、土壌から綿への放射性セシウムの移行が非常に少ないという特徴をとらえたものだ。

収穫された綿は輸入された有機綿と混ぜて生地に加工している。生産されたコットンは、手ぬぐいなどのオリジナル商品として加工して販売する他、ラッシュジャパンや、パタゴニア、日本IBM、ブリヂストンスポーツといった企業による製品化も進む。特にラッシュは風呂敷「Knot-Wrap」を定番化して好評だ。賛同する企業では、同プロジェクトの有機綿を使うことに加え、実際に生産地に赴き、農作業を一緒に行うなどして支援するケースが多い。

同プロジェクトの特徴は有機綿の製品化だけでなく、栽培を通じて原発避難者や帰還者、農家、支援する企業や個人がつながり、原発事故によって分断されたコミュニティを再生していることにある。これまでに同プロジェクトに参加した人は延べ2.3万人を超え、原発避難者や帰還者の仕事も作り出している。同プロジェクトをきっかけに有機綿だけでなく野菜の栽培を始めたり、援農ボランティアなどの受け入れのための施設を作ろうという農家も生まれている。

昨年からは栽培された有機綿を地域の中で加工する糸紡ぎを地域の女性たちの手仕事にしていこうという動きもある。プロジェクトの発起人である企業組合「いわきおてんとSUN」の吉田恵美子代表理事は「福島の地域課題を解決する手段として農業があるということを自分たちの手で実証していきたい」と話す。

本業を生かして全国で有機綿栽培を支援――アバンティ

有機綿を通じて被災地での仕事を作り出そうという試みを行っている企業に、アバンティがある。29年前から有機綿の事業を行うパイオニア的企業だ。同社では東日本大震災直後から「東北グランマ仕事作り」プロジェクトを始め、現在も約10名の雇用を続けている。岩手県久慈市や宮城県石巻市といった地域の女性に、有機綿を使った製品を手作りしてもらい、それを販売することで支援を行う。

実は、「ふくしまオーガニックコットンプロジェクト」も同社の渡邊智惠子代表のアドバイスもあってスタートしている。現在も同プロジェクトで栽培された有機綿を生地に加工するなど協力関係を続ける。

有機綿栽培は福島県だけでなく、新潟県糸魚川市、群馬県みどり市・桐生市、静岡県南伊豆町、滋賀県大津市、宮崎県高鍋町に広がり、同社は栽培した綿花を買い取り、製品化も行う。現在は、ほぼ0%である日本の繊維自給率を、10%へ引き上げていこうと、全国の耕作放棄地での綿花栽培を支援している。

有機綿を普及させ社会貢献につなげる「オーガビッツ プロジェクト」

オーガビッツプロジェクトの寄付先には、臨床道化師(クリニクラウン)が入院生活を送る子どもたちの病室を定期訪問する事業もある

有機綿は世界の綿生産量のわずか1%に留まっているが、有機綿を使った製品は日本でも確実に拡大している。良品計画が展開する無印良品やパタゴニアでは衣服に使われる綿をほぼすべて有機綿に変更しており、H&MやZARAなども有機綿の使用を急拡大させている。

その中で創業100年目を迎える豊島は、綿花の取扱量で日本最大の企業だ。同社は綿花の原料を扱う部署からの提案で2006年から有機綿を普及させて、社会貢献にもつなげる活動「オーガビッツプロジェクト」を継続して展開している。

同プロジェクトの仕組みは、有機綿を含む商品をより多くの人に届けることを狙い、同プロジェクトに協賛した取引先の商品の販売代金の一部が社会貢献事業に寄付される。東日本大震災の被災地の津波到達地に桜を植樹する「さくら並木プロジェクト」をはじめウミガメなどの海洋生物を保護する「ブルーオーシャンプロジェクト」など多岐にわたる10プロジェクトが毎年選ばれている(表1参照)。

オーガビッツに協賛するブランドの製品につく「しゃべるタグ」

対象商品にはプロジェクトの内容を音声で聞くことができる「しゃべるタグ」をつけ、消費者は商品を購入することで社会貢献に参画でき、取引先も商品ブランド価値を高めつつ、社会貢献に寄与できる。

現在100ブランドがプロジェクトに参加。これまでに累計645万枚の製品が販売され、これによる寄付総額は約2400万円を超えた。

同社広報の加藤美月さんは「サーフ系ブランドは海洋生物の保護を、キッズブランドは療養中の子どもたちの支援へと、ストーリー性と参加のしやすさがプロジェクトへの共感を生んでいる」と話す。

同社は2011年から栃木県の「渡良瀬エコビレッジ」と900坪の和綿畑を栽培契約し、社員が綿花栽培に参加する他、収穫した有機綿を製品化するなど国産の有機和綿の復活にも力を注ぐ。

紹介した3つの取組みはどれも、環境への配慮に加え、社会課題を解決するビジネスとしても成立している。加えて有機和綿を自ら栽培することで、関連企業、NPO、生産者、地域住民らとネットワークが形成され、プロジェクトに広がりが生まれている。これがSDGsの観点から見ても多くの持続可能な仕組みをもつことにつながっている。

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箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」(文化出版局)「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。JFEJ(日本環境ジャーナリストの会)会員。

http://gogreen.hippy.jp/