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サステナビリティ 新潮流に学ぶ

第29回:世界とつながる「みちのく潮風トレイル」~私たちはどこへ向かうか?~

SB-J コラムニスト・古沢 広祐
みちのく潮風トレイルの展示 (宮城県・名取トレイルセンター、筆者撮影)

三陸復興国立公園の創設をきっかけに被災地をつなぐ「みちのく潮風トレイル」が6月9日に全線開通します(全長900キロ)。世界に広がるトレイル(歩む道)の想いに秘められたもう一つの可能性について展望します。自然・健康、歴史・文化への関心が高まる中で、世界各地に自然の中を歩くロングトレイルやフットパス(散策小道)、巡礼街道などへの関心が高まっています。そこには、持続可能な社会への導きのヒントが隠れていそうです。

森=里=海、自然・歴史文化の発見

みちのく潮風トレイルとは、日本一美しい断崖などリアス海岸ならではの風景に出会える東北に生まれた新しい長距離歩道です。そこでは、豊かな海・山の幸をもたらす一方で冷害や飢饉、そして巨大津波被害を引き起こす、三陸特有の自然と風土の奥深さを肌身で感じとることができます。

みちのく潮風トレイル

みちのくといえば、場所は異なりますが松尾芭蕉が歩んだ「奥の細道」、宮沢賢治の作品の舞台となった風景を連想する方も多いでしょう。あるいは井上ひさしの「吉里吉里人(きりきりじん)」や「ひょっこりひょうたん島」などとも縁の深いところですね。

この連載コラムで、東日本大震災の被災地での動向についてふれましたが、震災後の地域復興の歩みや、困難な状況下での新たな模索については、今後とも注目していきたいと思います。

第11回:震災・復興とお祭りの復活――サステナビリティの底流
第17回:「世界で一番面白い街」のつくりかた

みちのく潮風トレイルは、環境庁の管轄なので長距離自然歩道の一環として自然とのふれあいがメインですが、三陸地域の特徴を活かした展開が期待されます。森・里・川・海のつながりとそこで紡がれた風土の物語は、このトレイルがもつ中核的な魅力でしょう。

とくに東北地方は独特の郷土芸能や神楽、お祭りが盛んな所ですし、その自然は地域の歴史文化と切っても切れない密接な関係をもってきました。

その意味では、有名な熊野古道や四国巡礼の遍路道、あるいはスペイン北部の巡礼路(サンティアゴ・デ・コンポステーラ)にも通じるような意味合いを秘めているのではないでしょうか。

その関連の動きとしては、潮風トレイルの一部なのですが「宮城オルレ」の取り組みが注目されます。

オルレとは、韓国・済州島から始まったトレッキングコースを指す言葉(方言)で、2007年に「済州オルレ」が誕生してブームとなり、日本に2012年「九州オルレ」(鹿児島、佐賀、熊本、大分各県の4コース)が誕生して広がりだし、2018年「宮城オルレ」(気仙沼・唐桑(からくわ)コース、奥松島コース)が誕生しました。

出典:宮城オルレのパンフから、筆者撮影

唐桑コースの特徴は、海の安全祈願の参詣文化として継承されてきた地域の複数の神社をめぐる生活路を、オルレコースとして蘇らせたものです。

宮城オルレ

気仙沼の唐桑といえば、海の漁師が山に植林する「森は海の恋人」運動で知られる畠山重篤さん(牡蠣養殖の漁師)の活動なども有名ですね。あるいは、震災後に地域の郷土芸能と今日的な創作演劇を組み合わせて誕生した郷土芸能劇「唐桑ものがたり 海の古道 神々の記憶」(2013年)も注目される動きです。

森は海の恋人
郷土芸能劇「唐桑ものがたり」

「唐桑ものがたり」は、地域に伝承される複数の郷土芸能を歴史物語に組み込んだ芸能劇で、中学生を含む地元の方々が総勢100人で演じる2時間余に及ぶ大作です。2017年には熊野神勧請1300年の節目を祝う祭りとして上演され、和歌山公演(新宮市、2017年)東京公演(目黒区民センターホール、2018年)も行われました。

共生・共存を覚醒させる「道」のイメージ

オルレやトレイルに私が関心をもった背景には、2014年に韓国で開催された生物多様性条約会議(COP12)での興味深いワークショップがあります。

それは平和と自然保護の象徴に、軍事境界の非武装地帯(DMZ)を恒久平和・自然共生の象徴エリアにしようという国際連帯の試みで、地球市民的な未来ビジョンを想起させました。

軍事境界線が野生生物の聖域(サンクチュアリ)という特徴に注目し、平和と自然保護のシンボル地帯とする市民運動は、欧州各地で冷戦終結時(1980年代終わり)に取り組まれた運動です。

その経験を欧州に留めずに、アジアを含むユーラシア地域へ広げる試みとして、COP12会合で韓国の非武装地帯(DMZ)がクローズアップされたのです。狭い国境意識を克服する人々のグリーン(環境)・ピース(平和)ベルト(地帯)の運動が、大陸をまたいで呼応しあいグローバルに再活性化し始めたことに感動しました。

こうした活動は、今日もっとクローズアップされてよいと思います。それは、韓国の板門店で2018年4月27日に南北首脳会談(4・27板門店宣言)が実現した後、1周年の今年には非武装地帯500キロに平和を求める人間の鎖を繋ぐ運動として継承されています。

軍事境界の運動とオルレやロングトレイルの運動とは直接の関わりはないのですが、私には理念として国境線を超える地球市民的な意識の高まりという共通点が感じとれます。

そもそも現在の国境線や民族的な差異については、人類史の根元をたどれば共通の源からの枝分かれにすぎません。私たち人類(ホモサピエンス)の出自を考えたとき、5~10万年前頃アフリカから世界中に移動・分散し(グレートジャーニー)、今日に至ったことが明らかになっています。まさにロングトレイルの積み重なりのなかで、今の私たちは生きているのです。

グレートジャーニー(国立博物館・特別展2013年)

自分の足で歩いて自然の雄大さや各地の土地柄に触れる体験については、その根底に自らのルーツに思いをはせる内面的な旅という一面もあるのではないでしょうか。まさに現代人の自己覚醒(宗教的な一種の巡礼)であり、未来への導きの意味さえ秘めていると思います。

私たちは何処から来て、どこへ向うか?~サステナビリティの「道」~

連載コラムをしめくくるにあたり、自らの存在を再認識する手がかりとして、トレイルに象徴される出会いの道に新たな意味を見出したいと思います。そのイメージを私なりに図示したものを示しておきましょう(図1)。

図1:私の中にあるロングトレイル(図は筆者作成)

図1を見てのとおり、自分が認知し意識している表層は、大海に浮かび出た氷山の一角にすぎず、奥底には宇宙的な関係性までもが深く潜在していることを、あらためて認識させてくれます。

自分と世界を宇宙的な視野からとらえ直すことで、現実世界が非常に狭い部分でしかないことが自覚できます。日常世界の利害対立や民族対立などを相対化して、ともに生きる世界を大きな視野から再構成できるのです。

近年、排他や敵対の意識がくすぶり出していますが、その対立や矛盾を相対化する新たな世界観が求められています。自分たちはどのような存在なのか、この世界を宇宙的スケールで認識しなおす時代が始まっているのです。

そのことを想起させる動画がユーチューブに多数アップされていますが、1分で観る世界(Our Story in 1 Minute)はお薦めです。

1分で観る世界

かつてアフリカを起源とした人類は、ゆっくりとした歩みのなかで地球の各地に広がりました。その後、地域的な諸文化や広域にまたがる諸文明を形成しつつ、大航海時代をへて、私たちは新たな一体化の流れ(統合化)の中で今日に至っています。そして20世紀、人間の活動領域は地球を飛び出して宇宙にまで広がり出しました。

他方、人間の大繁栄の半面で、地球の生物種の数多くが絶滅し、気候大変動を引き起こしています。21世紀のいま、人類の歩む道が問われているのです。

宮沢賢治がのこしたメッセージ

「世界がぜんたい幸福にならないうちは 個人の幸福はあり得ない」、この言葉は宮沢賢治の『農民芸術概論』の中の一文です。誰かの不幸を前提とするような状態、自分一人だけが幸せな世界は成り立たない、みなが幸せを共有する状態こそめざすべき道ではないかというメッセージです。

しかし、人間の世界には共感・協調だけでなく、競争心、優越感、ねたみ、差別意識などが伴いがちです。長い人類の歴史を振り返ると、生存競争以上の激しい敵対や抗争が繰り返されてきました。

内戦や国をあげての戦争、大量殺戮(ジェノサイト)にいたるまで、無数の争いが起きてきました。いま現在でも、この地上の各地でこうした事態が起きています。多数の兵器、人類を幾度でも全滅しうる核兵器まで生み出して、手放すことができないのが今の世界の現実です。

『農民芸術論』の引用の続きに記されているのが、次の文章です。

「自我の意識は 個人から集団 社会 宇宙と次第に進化する…(中略)…新たな時代は 世界が一の意識になり生物となる方向にある。正しく強く生きるとは 銀河系を自らの中に意識してこれに応じて行くことである…(後略)…」

彼の残したこのメッセージは奥深いものがあります。

そして今、私たちは国連の新目標(SDGs:持続可能な開発目標)を手にしています。そこには「人類と地球の未来は我々手中にある」(「2030アジェンダ」の前文の結語54)と記されていますが、この言葉に示されているように、私たちは、世界をどのように認識して構築していくのか、まさしく大きな岐路に立っているのです。


参考:拙著『みんな幸せってどんな世界 共存学のすすめ』

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古沢 広祐
古沢 広祐 (ふるさわ・こうゆう)

國學院大學経済学部(経済ネットワーキング学科)教授。
大阪大学理学部(生物学科)卒業。京都大学大学院農学研究科博士課程(農林経済)研究指導認定、農学博士。
<研究分野・活動>:持続可能社会論、環境社会経済学、総合人間学。
地球環境問題に関連して永続可能な発展と社会経済的な転換について、生活様式(ライフスタイル)、持続可能な生産消費、世界の農業食料問題とグローバリゼーション、環境保全型有機農業、エコロジー運動、社会的経済・協同組合論、NGO・NPO論などについて研究。
著書に、『みんな幸せってどんな世界』ほんの木、『食べるってどんなこと?』平凡社、『地球文明ビジョン』日本放送出版協会、『共生時代の食と農』家の光協会など。
共著に『共存学1, 2, 3, 4』弘文堂、『共生社会Ⅰ、Ⅱ』農林統計協会、『ギガトン・ギャップ:気候変動と国際交渉』オルタナ、『持続可能な生活をデザインする』明石書店など。
(特活)「環境・持続社会」研究センター(JACSES)代表理事。(特活)日本国際ボランティアセンター(JVC)理事、市民セクター政策機構理事など。
http://www.econorium.jp/fur/kaleido.html

https://www.facebook.com/koyu.furusawa

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