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CSRブランディング最前線

第37回:新1万円札が示唆する、「サステナビリティ経営」の奥義

SB-J コラムニスト・細田 悦弘

新元号「令和」の発表後、ほどなくして新しいお札のデザインが発表されました。1万円、5千円、千円のそれぞれの顔となる3名の偉人の中に、「CSR/CSV」と非常に親和性の高い人物がいます。それは、渋沢栄一です。この機会に、先人の教えによる「サステナビリティ経営」の奥義を探究してみましょう。

新紙幣デザインから読み解く、サステナビリティ

令和時代がスタートしました。令和という元号が世に知らされた数日後、およそ20年ぶりとなる日本の紙幣の刷新が発表されました。新しいお札のデザインから、時代の価値観を象徴する「サステナビリティ」が感じ取れます。

3名の偉人から読み解くサステナブルな要素は、ライフサイエンス(北里柴三郎)、女性の活躍などのダイバーシティ(津田梅子)、そして持続可能な経営(渋沢栄一)です。

今回は、現代企業の「サステナビリティ経営」にとって範となる、渋沢栄一翁にフォーカスします。

日本資本主義の父

渋沢栄一は、日本で最初の銀行である第一国立銀行をはじめ、生涯に約500の銀行・会社の設立・育成に関わり、「日本資本主義の父」と言われています。実業家・渋沢の目覚ましい活躍は、一つの信念に支えられていました。それが「道徳と経済は両立させることができる」という「道徳経済合一説」です。この考え方の根拠を、彼は自らの信奉する儒学、とりわけ「論語」に求めました。

渋沢は、道徳を「論語」、経済を「算盤(そろばん)」と言い換えて「論語と算盤を一致させることが重要」と説きました。道徳の手本ともいえる「論語」とソロバンは、一見、とても不釣り合いでかけ離れたものとされがちですが、実はとても近いものであると唱えています。

「論語と算盤」とCSR/CSV

渋沢栄一は、「論語(道徳)」と「算盤(経済)」は表裏一体であると説きます。彼は、「道徳」を2つの側面から捉えました。経済にとって道徳は前提であり、道徳にとって経済は不可欠という考え方です。

前者の道徳を、「なすべからざることをするな」という消極的道徳とし、後者が「なすべきことをせよ」という積極的道徳とされます。そして、この2つの道徳が担保されてこそ、「正しい道理の富」が獲得でき、富の永続性につながるとしています。まさに、「論語と算盤」が示唆する現代的意義は、「サステナビリティ(持続可能性)」であると解釈できます。

それでは、この2つの側面の「道徳」を、「CSR/CSV」のセオリーと整合させてみましょう。

道徳なくして経済なし(消極的道徳)―基本的CSR

経済活動が円滑に行われ、永続的な利益を得るには、「消極的道徳」が不可欠です。すなわち、「不誠実に振る舞うべからず」「自己の利益を第一には図るべからず」という視点です。

渋沢は、「商人にとっては信用こそが根本だ」「うそなどつかずに商売はできる」と断言し、誠実さが経済活動に不可欠であることを強調しています。不正直に商売をしても、いっときは儲けることはできるかもしれないが、そのような利益は決して永続するものではない。「誠実」に商売をしてこそ、安定的・持続的な利益を獲得することができると主張しています。

ともすれば、ビジネスは利益本位で暴走し、大きな惨事を引き起こして破綻するきらいがある。ゆえに、暴走に歯止めをかける枠組みとして、「論語」の教えを実業の世界に埋め込もうとしました。

これこそが、現代企業に強く求められる誠実な対応、すなわち「基本的CSR」です。今やステークホルダーからの「信用・信頼」は競争力といえます。社会(ステークホルダー)との関係性の良し悪しは、中長期的にキャッシュフローを創出させる重要な無形資産(見えざる資産)として企業価値向上に大きな影響を与えます。

経済なくして道徳なし―CSV (Creating Shared Value:共通価値の創造)

渋沢が「消極的道徳」に優るとも劣らず重視したのが、「人々の生活を経済的に心配のないものにし、さらには豊かにすべし」という「積極的道徳」です。この時代においては、「人々を豊かにする」のは為政者の仕事というのが一般通念でした。これに対して、渋沢は「これからは民間企業が経済活動を通じて、この役割の中心的な担い手にならなければいけない」と考えました。

「経済なくして道徳なし」の本旨は、「商工業の経済活動を盛んにしなければ、公益の追求という積極的道徳を実現することはできない」ということです。この考えこそが、生涯に500社もの企業の設立・育成に懸命に取り組んだ原動力となったといわれています。

また、渋沢は「士魂商才」という珠玉の言葉を残しています。人が生きていくうえで士魂(武士のような崇高な精神)が必要なのはいうまでもないが、それだけでは生活できない。自立するためには士魂とともに商才もなくてなはならないという意味合いです。

「社会のためになる事業を通じて、自分自身も利益が得られる」「経済(営利)なくして道徳(公益)なし」という利潤と道徳を高次に調和させる取り組み方は、まさに「経済的価値と社会的価値を同時に実現する」というCSVのセオリーと相通ずるといえましょう。

渋沢栄一と「サステナビリティ経営」の真髄

現代企業は、社会性と経済性の両立が求められます。「企業の健全性」と「地球や社会の健全性」との相互依存性を認識することが、経営の矜持です。

企業が持続的成長をしたければ、健全な社会が前提となる。健全な社会は盤石な地球があればこそ成り立つ。こうした文脈で事業を営むことが「サステナビリティ経営」の基本姿勢とすると、まさに、渋沢栄一の信念は、現代経営の真髄といえましょう。

社会の要請に誠実に対応する「基本的CSR」でリスクを回避し、「CSV」で経済価値と同時に社会価値を創出する。これにより、社会(ステークホルダー)から信用・信頼を獲得し、社会的評価(Corporate Reputation)を高め、無形資産(Intangibles)を増大させる。それが「見えざる資産」として、持続的成長・中長期の企業価値向上に直結します。「CSR/CSV」は、サステナビリティを希求する現代企業の競争力の源泉です。

「CSR/CSV」のもと、さらに無形資産の中核であるブランド力に寄与する「らしさ」を発揮し、競争優位を創り出す戦略メソッドが「CSRブランディング」です。

☆編集部からお知らせです。

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細田 悦弘
細田 悦弘 (ほそだ・えつひろ)

中央大学大学院 戦略経営研究科 フェロー / 一般社団法人日本能率協会 主任講師

1982年 キヤノンマーケティングジャパン(株)入社後、営業からマーケティング部門を経て、宣伝部及びブランドマネジメントを担当後、CSR推進部長を経験。現在は、同社・CSR本部に所属しながら、企業や大学等での講演・研修講師・コンサル・アドバイザーとしても活躍中。CSR・ブランディング・コミュニケーション分野において、豊富な経験を持ち、理論や実践手法のわかりやすい解説・指導法に定評がある。

中央大学ビジネススクール 戦略経営アカデミー講師、一般社団法人日本能率協会 主任講師、一般社団法人日本能率協会「新しい経営のあり方研究会」メンバー、経営品質協議会認定セルフアセッサー、 Sustainable Brands Japan(SB-J) コラムニスト。社内外のブランド・CSRのセミナー講師の実績多数。

◎専門分野:CSR、ブランディング、コミュニケーション、メディア史
◎著書 等: 「選ばれ続ける会社とは―サステナビリティ時代の企業ブランディング」(産業編集センター刊)、「企業ブランディングを実現するCSR」(産業編集センター刊)共著、東洋経済・臨時増刊「CSR特集」(2008.2.20号)日本能率協会「JMAマネジメント」(2013.10月号)、環境会議「CSRコミュニケーション」(2010年秋号)、東洋経済・就職情報誌「GOTO」(2010年度版)、日経ブランディング(2006年12月号) 、ウェブサイト「Sustainable Brands Japan」:連載コラム(2016.6~ ) など。

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