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CSRブランディング最前線

第25回:創業の精神に、「CSR」を接ぎ木する

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SB-J コラムニスト・細田 悦弘

~ ビジネスと社会課題解決を両立させ、‘らしさ’で競争優位を創り出す!待望の戦略メソッド ~

変化の激しい今日こそ、これから進むべき方向性を照らしてくれるのが、自社の創業期です。創業者の志やスピリットに立ち返り、自社の存在意義や事業の軸足を再確認してみませんか。創業の精神や企業理念を今に実現するためには、『CSR』を接ぎ木することをおすすめします。

なぜ、老舗企業になれたのか

入社式でのトップメッセージ。多くの企業で、創業時のエピソードや創業の精神、そして企業理念が熱く語られたのではないでしょうか。ある大手自動車メーカーもそうでした。クルマの定義が大きく変化する時代を迎え、次の100年のモビリティ社会の主役を張るには、『らしさ』が求められる。その『らしさ』を知恵と情熱で生み出した、創業時の志や精神に言及されていました。

大阪門真に本社を置く大手電機メーカーは、この春創業100周年を迎えました。全国の新聞に、創業者と全国47都道府県とのつながりを示すエピソードをもとにした企業広告を出稿しました。同社は初期の頃から、会社の存在意義を広告で発信することを重視してきており、企業は社会に貢献し、すべてのステークホルダーのためにあるべきという姿勢が一貫しています。

時代とともに変わり続ける暮らしにつねに寄り添い、「社会に『お役立ち』を提供し続ける会社」であるために、次の100年に向けて挑戦していくとのことです。

今日まで営々と長きにわたって続けられたということは、それだけの年数、いつの時代にも市場が求めるものを提供し続けてきた証です。それは、創業者とその志を脈々と受け継いできた歴代の経営者、その志に共感し経営者を支えてきた従業員の奮闘努力、そして、まわり(ステークホルダー)の協力が結実したものといえましょう。

設備などの有形資産ばかりでなく、伝統の企業文化、代々伝承されてきた技術や知見、みんなで培ってきた信用や信頼などの「無形資産(見えざる資産)」によって、長年の歴史が刻まれてきたわけです。

創業者の口癖が、ミッションステートメントの源流

過去のことなら、前例を見ればいい。今だけであれば、他社を見ればいい。「未来の課題」に立ち向かうには、自ら考えなければなりません。激動の時代、これから進むべき方向性を照らしてくれるのが、自社の創業期です。創業者は自分の頭できちんと考え抜き、試行錯誤を繰り返し、情熱をもってチャレンジしてきました。創業者がどんなことを考えていたのか、常日頃何を言っていたのかを今一度確認してみましょう。多くの老舗企業は、「創業者の口癖」が企業理念やミッションステートメントの源流となっています。

企業理念の出発点は、創業者の思想・哲学・信念です。

創業の精神や企業理念に立ち返り、これを未来に向かってどう実現するかが、現代社会における企業の存在意義です。企業の本質までいったん戻って、自社の「天命」を悟り、今の時代にどう適用するかが、現代経営の勘所です。

企業理念は、経営や事業における判断の拠り所となります。環境の変化を察知して、それがもたらす脅威(リスク)と機会(オポチュニティ)を識別し、どのように対処すべきかの原理原則となります。環境の変化によるシグナルを読み取ることができなければ、どれだけの設備があっても、優秀な人材がいても、今日生き残っていけないでしょう。

先進のCSRの本質は、「現代社会への対応力」です。現代社会の要請と期待に応えることです。「要請」に対応し、リスクを回避します。「期待」を的確に捉え、ビジネスの機会を創出します。

創業の精神に、「CSR」を接ぎ木する

「接ぎ木」は、主に果樹や花木で使われる繁殖方法で、「台木」に品種の違う穂木を接ぐことが基本的な方法です。下の部分が台木、上の挟まっている細い枝の部分が「穂木」です。

せっかく花が美しくても、成長が遅かったり病害虫に弱い品種があったとします。そこで、生育が旺盛で病害虫がかからない品種を台木として選び、そこに花が美しい品種のものを穂木として選んで接ぎ木すると、「生育が旺盛で耐病害虫の台木の性質を受け継いだ、美しい品種の花が咲く」ということです。

見た目は、花の色、大きさカタチ、枝振りなどは当然さした穂木のものと同じものになりますが、「目に見えない性質」はしっかりとした台木のものを受け継ぐのです。土台がしっかりとしていれば、上部の花の生育もしっかりとするということです。そして、さし木で殖やした株は、種で育てたものよりも根の生育が衰えがちですが、種で育てた台木に接ぐことによって、活力を向上させることもできます。

財務データ上、元気に見せることに注力している企業が散見される中、本当に元気な企業は「理念の実現」を主眼としています。自社の生み出す価値ある商品やサービスを通じて世の中、社会へ貢献することを「目的」とし、それを継続するために、「手段」としての利益をきちんと確保します。

創業の精神や企業理念という「台木」のもとに、CSRを「接ぎ木」して、時代にふさわしい果実(ビジネス)をたわわに実らせる。ここに、現代経営とCSRの融合があり、これからの永続企業の黄金律といえましょう。

次代にも輝き続ける企業であるために

創業のスピットこそが「らしさ」の源流であり、競争優位の源泉です。そこに、使命と存在意義があります。創業時から醸成されてきた「企業文化」、すなわち価値観や規範および思考や行動の様式を社内で共有することが競争力を左右します。

時代に選ばれ、次代にも輝き続ける企業であるために、事業活動に「CSR(社会対応力)」と「らしさ」を融合させ、競争優位を創り出す戦略メソッドが「CSRブランディング」です。

※第3回コラム 参照
https://www.sustainablebrands.jp/article/sbjeye/detail/1188025_1535.html

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細田 悦弘
細田 悦弘  (ほそだ・えつひろ)

公益社団法人 日本マーケティング協会 「サステナブル・ブランディング講座」 講師
一般社団法人日本能率協会 主任講師

1982年 中央大学法学部卒業後、キヤノン販売(現キヤノンマーケティングジャパン) 入社。営業からマーケティング部門を経て、宣伝部及びブランドマネジメントを担当後、CSR推進部長を経験。現在は、企業や教育・研修機関等での講演・講義と共に、企業ブランディングやサステナビリティ分野のコンサルティングに携わる。ブランドやサステナビリティに関する社内啓発活動や社内外でのセミナー講師の実績豊富。 聴き手の心に響く、楽しく奥深い「細田語録」を持ち味とし、理論や実践手法のわかりやすい解説・指導法に定評がある。

Sustainable Brands Japan(SB-J) コラムニスト、経営品質協議会認定セルフアセッサー、一般社団法人日本能率協会「新しい経営のあり方研究会」メンバー、土木学会「土木広報大賞」 選定委員。社内外のブランディング・CSR・サステナビリティのセミナー講師の実績多数。

◎専門分野:サステナビリティ、ブランディング、コミュニケーション、メディア史

◎著書 等: 「選ばれ続ける会社とは―サステナビリティ時代の企業ブランディング」(産業編集センター刊)、「企業ブランディングを実現するCSR」(産業編集センター刊)共著、公益社団法人日本監査役協会「月刊監査役」(2023年8月号) / 東洋経済・臨時増刊「CSR特集」(2008.2.20号)、一般社団法人日本能率協会「JMAマネジメント」(2013.10月号) / (2021.4月号)、環境会議「CSRコミュニケーション」(2010年秋号)、東洋経済・就職情報誌「GOTO」(2010年度版)、日経ブランディング(2006年12月号) 、 一般社団法人企業研究会「Business Research」(2019年7/8月号)、ウェブサイト「Sustainable Brands Japan」:連載コラム(2016.6~)など。

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