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世界で加速する人権への関心

欧州CSR最前線:エクスポネンシャル・シンカーがSDGsを加速させる

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SB-J コラムニスト・下田屋 毅

「エクスポネンシャル・シンカー(Exponential Thinker)」といわれる人々が出てきている。この「エクスポネンシャル」とは、指数関数的に「急成長させる/飛躍する」という意味で、そのような思考を持った人々が昨今、技術を爆発的に進化させ、ビジネスを指数関数的に急成長させている。

ジョン・エルキントン氏 Copyright © 2018 Sustainavision Ltd All rights reserved.

筆者が、トリプルボトムラインを提唱したジョン・エルキントン氏に聞いたところによると、サステナビリティに関して、NGOや社会起業家は今後も同様に重要な役割を果たし続ける。その一方で、この「エクスポネンシャル・シンカー」が、今後サステナビリティに関しても重要なキーパーソンとなるという。

この「エクスポネンシャル・シンカー」とは、「スペースX」「テスラ・モーターズ」などを率いるイーロン・マスク氏の様な思考を持った人たちのことである。また「ウーバー(Uber)」や「エアービーアンドビー(Airbnb)」などのように短期間に飛躍した組織は、「エクスポネンシャル(飛躍型)企業(Exponential Organization)」と呼ばれている。このような人や企業が、進化のスピードが加速している飛躍的テクノロジーを使用して、ビジネスを急成長させ、飛躍的に展開している。

イーロン・マスク氏のような思考を持つエクスポネンシャル・シンカーたちは、世界的な視野に立った大きな問題解決を行うことを話している。地球には多くの課題があるので、それを段階的に少しずつ変えるのではなく、考え方や発想を変えて達成できるようにする。例えば、イーロン・マスク氏は多くのプロジェクトに関わっており、その中のテスラでは、かっこいい車をつくって多く儲けるというのではなく、抜本的に人間の移動方法を変え、化石燃料に依存しない移動方法を開発しようとしている。

またマスク氏は根本的な考え方から改めて、化石燃料から電気にシフトしやすいようにし、インフラやソーラーファームなどをつくり変えることを考え、さらに他のメーカーが後追いできるように、これらの情報をオープンソース化している。このように変化をスピードアップさせ、爆発的な変化を起こそうとしているのである。

この変化を後押しする動きがある。人類のための根本的なブレークスルーをもたらすことを目指し「Xプライズ財団」を創設したピーター・ディアマンディス氏と、AI(人工知能)研究の世界的権威であるレイ・カーツワイル氏が、エクスポネンシャル・シンカーを育てる教育機関として「シンギュラリティ大学」をシリコンバレーに創設している。同大学は、最先端の指数関数的に飛躍するテクノロジーを活用し、地球上に暮らすすべての人々に影響を与える世界の最重要課題の解決を行い、より豊かな未来を構築することを目指し、教育を行っている。

プロジェクト・ブレークスルー

サステナビリティに関わる部分では、国連グローバル・コンパクトとジョン・エルキントン氏が関わる英国に拠点を置くVolans Venturesとのパートナシップで、「エクスポネンシャル・シンカー」や「飛躍型企業」のコンセプトを基本として、「プロジェクト・ブレークスルー」というプロジェクトを立ち上げている。

そこでは今後5年から10年間のサステナビリティの方向性を調査し、国連持続可能な開発目標(SDGs)にどのように貢献することができるのかについても考えている。SDGsは、2030年に向けた非常に野心的な目標が設定されており、これらは国連のすべての加盟国が、世界の貧困を解消し、地球環境を保護し、すべての人々の尊厳と生活を確保するという、今後15年間の世界の最重要課題を解決するための目標である。

この「プロジェクト・ブレークスルー」では、企業や次世代のイノベーター、起業家の間で、変化と影響について指数関数的に急成長させ、スケールアップさせるコミットメントを示し、持続可能なイノベーションにおける最良の考え方と具体例を示している。また、持続可能なソリューションという次の波を推進する上で不可欠な革新的なビジネスモデルと破壊的テクノロジーの分析を行うことも特徴としている。

現時点で、企業はビジネスモデルを変革し、社会に貢献し、新しい市場を開拓するための行動をとってはいるが、この「プロジェクト・ブレークスルー」では、ブレークスルーを起こすためにさらに多くのことを企業が実施していかなければならないとしている。

この「プロジェクト・ブレークスルー」の中で、「ブレークスルー」という用語は、次のビジネスのアジェンダの略語として使用されている。

1.段階的な変化を起こしていても、革新的なビジネスモデルと破壊的テクノロジーの視点から考えた場合に、もはや少しも十分ではないということを受け入れる
2.市場崩壊が起こっており、加速する可能性が高い
3.その時代では、迅速かつ適切な方向に動くことができる人にとって、巨大な新しい機会を提供する
4.責任を持ってビジネスを行い、SDGsに関するイノベーションの機会を見つける企業は、将来のマーケット・リーダーになる

ジョン・エルキントン氏は、「現時点では、大企業をはじめとする多くの企業がCSR・サステナビリティに関する取り組みを行っているが、そこでの目標は、例えば二酸化炭素の削減を10%行うなど段階的にターゲットを決め実施していることが多い。

しかしエクスポネンシャル・シンカーは、10%の削減など段階的に少しずつ行うのではなく、どのように行動すれば今年に10倍とか100倍とかというようにスピードアップができるか、どれだけサステナビリティのペースをあげることができるかを考えている。例えば、何百万人という単位でなく、何百億人に影響を与えるにはどのように取り組みをすればよいか。どのような考え方が必要なのかということを考えている」と話す。

テクノロジーに関しても、10年前に想像したものやそれ以上のものが現時点で実現されている。このプロジェクト・ブレークスルーにおいては、SDGsを達成するために、エクスポネンシャル・シンカーがこれらの飛躍的テクノロジーをどのようにサステナビリティのために使用することができるか。そして、どのように新しいビジネスモデルが考えられるか。サステナビリティについてスケールアップするにはどのようにしたら良いのかを考え始めているのである。

またジョン・エルキントン氏は、指数関数的に飛躍するサステナビリティを達成するために次の3つを挙げている。

1.マインドを変え、もっと野心的に考える
2.破壊的テクノロジー、いろいろな分野の早いペースでのテクノロジーの変化の必要性
3.今までにない新しいビジネスモデルをつくる

現時点では、国連持続可能な開発目標(SDGs)の達成について、それが実現可能な目標なのかどうかという懐疑的な声も聞こえてくる。しかし、ジョン・エルキントン氏は、このようなエクスポネンシャル・シンカーや指数関数的に飛躍する企業が、サステナビリティに関することにおいても出現することを期待しており、現状を打破できると楽観視している。

急激に変化する現在の状況において、従来の数十倍のパフォーマンスを発揮できるのは、これらエクスポネンシャル・シンカーや指数関数的に飛躍する企業である。また、このテクノロジーが爆発的に進化している現在の状況を見逃さず、取り組む企業が生き残っていく。いずれにしても、悲観的にも思える現在の状況から救ってくれるのはこれらの飛躍的な概念を理解した企業である。もうガラパゴスなどと言ってはいられず、生き残りをかけても取り組むことが必要となっているのかもしれない。

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下田屋 毅
下田屋 毅 (しもたや・たけし)

サステイナビジョン代表取締役。一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会代表理事。欧州と日本のCSR/サステナビリティの架け橋となるべく活動を行っている。大手重工メーカー工場管理部にて人事・労務・総務・労働安全衛生などを担当。環境ビジネス新規事業立ち上げ後、渡英。英国イーストアングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA。

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