第8回: あるパン屋さんに学ぶ『素敵なCSR』
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企業が『社会のために良いこと』をする。それを『本業 外 でやるか』『本業でやるか』といった視点が、モヤモヤして困っている方々によくお目にかかります。そこで、『あるパン屋さん』を例に解説します。
オーナーの『一人二役(double role)』 ―世話好きな住民・センスのいい経営者
街の高台に、老舗のパン屋さんがあります。そのオーナーは、とても面倒見がよく、町内会の世話役やPTA会長も喜んで引き受けてくれます。平日でも会合やクリーン活動等に積極的に参加し、町内運動会には、商品である美味しいパンを無償提供しています。
これが、パン屋さんの『企業市民』としての活動、いわゆる「社会貢献活動」です。企業が社会の一員として、「良き企業市民であれ(Corporate Citizenship)」という信条を織り込むことは、永続発展にとって不可欠な気構えです。ところが、パン屋さんの商売環境が時代とともにどんどん変化します。
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創業時から高台の住宅地に店を構え、若夫婦好みのフランスパンが人気を博し、歯ごたえあるバケットを看板商品として繁盛してきました。ところが、近年は高齢化が進み、自慢のバケットがさっぱり売れなくなりました。坂道も急なので、一部のお年寄りは『買い物弱者』と呼ばれたりしています。そして、若い女性たちには、近所のヘルシー食材店が人気です。
そこで、オーナーは考えました。「そうだ!葉酸入りのヘルシーパンや、かむ力が弱くなった高齢の方でもラクラクかめるフランスパンを開発しよう!」と決意しました。そして、閑静な住宅街でもあるので、静かで環境によい電気自動車で配達することにしました。
また、近隣住民には、新興国の若者が増えてきたので、彼らを低賃金ではなく大事に雇用して、日本語を教えたりして喜ばれています。これが、戦略的CSRの側面である『事業による社会課題解決』、すなわち「価値共創型CSR/CSV」の概念です。
パン屋さんと地域社会との持続的な相乗発展に向けて、オーナーのいい感じの『一人二役(double role)』、とても素敵ですね。
「CSRブランディング」の全体構造
パン屋さんの模範的なCSRをご紹介しましたが、規模の大小・業種業態に関わらず、原理原則は同じです。
では、ここで下図に基づいて、「CSRブランディング」の全体構造を俯瞰しておきましょう。多くの会社が、企業理念というものを掲げています。それは、会社が最も大切にする根本的な考え方であり、会社の目的、存在意義、価値観が言葉で表現されています。今日まで、営々と長きにわたって発展している企業には、ほとんど全てと言ってよいくらいに「社会を幸せにする」「社会を豊かにする」という概念が込められています。
したがって、まずは、その社会に迷惑をかけるわけにいきません。これが、社会の要請に対応する「基本的CSR」です。「CSRブランディングの3つの輪の図」のグリーンの輪の「現代社会の要請」となります。
その要請をきちんと果たした上で、もちろん「社会の役に立つ」ことを目指します。そのためには、Off Businessで行なう「社会貢献活動」と、On Businessで取り組む「価値共創型CSR」や「CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)」があります。
前者が、いわゆる『社会貢献活動』であり、後者が、『事業による社会課題解決』です。両方とも、「現代社会の期待」に応える『グリーンの輪』に該当しますが、On Businessの方は、『
事業による
社会課題解決』なので、ブルーの輪とグリーンの輪が重なったところに位置します。
この全体フレームは、社会的責任の国際規格 ISO26000における、グローバル標準の CSRの定義とも整合します。それによれば、「企業の意思決定と事業活動が、社会や環境に及ぼす『影響』に対する責任」とされています。
企業がこの世に存在し事業を営めば、地球や社会に必ず影響 を及ぼします。その『影響』 には、ネガティブとポジティブ、負の影響と正の影響がある。前者は防ぎ、もしくは緩和する。後者の良い影響は、現代社会にアジャストしたかたちで、一層醸し出すというものです。
「CSRブランディング」の全体構造
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この全体構造を踏まえ、次回(第9回)からは、いよいよ、3つの輪の中心に位置する★(レッドスター)にブレークスルーするために、「らしさ」を掘り下げていきます。無形資産の中核要素である「ブランド」の世界にいざないます。企業ブランディングにはもちろん、年明けにふさわしく、パーソナル・ブランディングにもお役立てください。
コラム「CSRブランディング最前線!」:第3回「CSRブランディング」の戦略フレームを参照