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サステナブル・オフィサーズ 第40回

ミドリムシで本当に飛行機が飛ぶのか――出雲充ユーグレナ社長

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Interviewee
出雲 充 ユーグレナ創業者・社長兼CEO
Interviewer
瀬戸内 千代 オルタナ編集委員
出雲充・ユーグレナ社長

ユーグレナは、59種類の栄養素のほかジェット燃料に適した油脂を持つ微細藻類「ミドリムシ(学名ユーグレナ)」の特性を活用して、栄養失調や温暖化など地球規模の社会課題に取り組む。2018年秋には京浜臨海地区に「バイオジェット・ディーゼル燃料製造実証プラント」を立ち上げ、「国産バイオジェット燃料での有償飛行を2020年までに実現する」と発表した。ミドリムシジェット燃料で温室効果ガス削減に挑戦する出雲充社長に話を聞いた。

これ以上増やせない航空部門CO2

――バイオ燃料事業に取り組み始めたきっかけは何ですか。

バイオ燃料はインフラに加えてサトウキビ畑や藻類の培養プールなど生産基盤も必要なため、段階的にしか増やせません。日本で使っているバイオ燃料はわずか年間83万トンなのに対し、欧州は1900万トン、米国は6300万トンで、2桁も違います。

増産プランのない日本に対して、欧州では5年後に2900万トン、米国では1億3600万トンに増やす計画が進んでいます。

米国は環境問題に後ろ向きだと言う人がいますが、そんなことはありません。カリフォルニア州などの温暖化問題に対する意識の高さはレベルが違います。このままでは米国のバイオ燃料は日本の160倍以上になります。

だからといって、米国産のバイオ燃料をわざわざ運んできて日本から飛ぶ飛行機に積むほど非効率な話はありません。環境負荷軽減のためにも、エネルギーセキュリティの観点からも、バイオ燃料は自国で賄うべきです。

国際民間航空機関(ICAO)は、パリ協定とは別の枠組みで、航空セクターが出すCO2について、2020年の排出量を上限に、以降は超えてはならないと定めています。2030年には世界中の国際線が今の2倍は飛ぶ見込みですが、CO2を倍にするわけにはいきません。

つまり、バイオジェット燃料が必要なのです。しかも、島国の多いアジアは最大の需要地となります。まだ日本にバイオジェット燃料の供給体制はありませんが、この状況が許される時代は来年、2020年で終わります。

一度飛べば変わる

出雲社長は「0を1にすることで、バイオジェット燃料の世界は変わる」と話す

――日本でのフライト実現に向けての課題はありますか。

たくさんある課題の根っこは一つです。「0を1にする」ハードルが高過ぎることです。5億年前に繁殖したミドリムシが変化してできた石油を精製して作るケロシン(ジェット燃料の成分)も、バイオテクノロジーでミドリムシから取り出すケロシンも同じもので、積む機体も同じです。

まずやってみて問題があったら検討するという国々は、すでにバイオジェット燃料で飛行機を15万回も飛ばし、経験値を増やしている。一方で経験ゼロの日本政府は、「100%大丈夫なのか」と問い続けています。

ただ、いざゼロの壁を破れば一気に周囲が協力してくれるのが日本です。私も2回経験しています。1回目は2005年にミドリムシの屋外大量培養に成功した時。ミドリムシは栄養価が高いために、すぐに培養プールにプランクトンや細菌などが繁殖してしまいます。だから何十年間も絶対に無理と言われていました。

2回目は、2014年に東証1部に上場した時。エネルギー問題を解決するためには、何十年も続くサステナブルな会社でなければなりません。それで上場を決めましたが、大学発ベンチャーでは前例がなかったので無謀だと笑われました。しかし、いずれも実現した途端に状況が一変しました。ミドリムシジェット燃料の飛行機も、飛んだ翌日から世界が変わるでしょう。

組織や部門の壁超えて協働を

ユーグレナは横浜市や大手国内企業と2018年11月に「GREEN OIL JAPAN」宣言を発表した

――日本にはデンソーのコッコミクサや、筑波大学のオーランチオキトリウムなど、他の組織でも藻類の研究が進んでいます。

日本の遅れは危機的で、藻類の種類は問題ではありません。地産地消が求められるバイオ燃料は、オールジャパンでやるべきです。研究者は皆、「サステナブルな地球を目指す」という共通の思いで頑張っています。常に情報交換もしていて、来年の国際応用藻類学会は、筑波大学の渡邉信先生らの組織と当社で初めて日本に誘致しました。2020年4月に開催予定です。

ミドリムシの研究は、大企業や大学や研究所など大勢の「石油のない日本で、CO2を出さないミドリムシジェット燃料で飛行機を飛ばすんだ」という熱意に支えられて、急激なスピードで進んでいます。昭和50年代から蓄積してきた日本の農芸化学研究の成果が今、ミドリムシで結実しつつあるのです。

当社は、横浜市、千代田化工建設、伊藤忠エネクス、いすゞ自動車、全日本空輸の協力を得て、2015年から「国産バイオ燃料計画」を推進しています。今年2月にはデンソーと包括的提携を発表しました。

横浜の京浜臨海地区に完成した実証プラント。ミドリムシ油脂や廃食油などを主原料とするバイオジェット燃料を調合してバスや飛行機などに供給予定

完成したばかりの実証プラントでつくるミドリムシジェット燃料は1リットル1万円と非常に高いのですが、需要が生まれて大規模な工場ができれば、あっという間に100円になるでしょう。

――大きなプールを使うミドリムシ養殖について、土地利用や水不足の懸念はないのですか。

0を1にするのと、1を10や100にする仕事は別と捉えていますが、土地や水の心配はしていません。ミドリムシは約300種いて、淡水に限らず海水や汽水にも適応しています。国内の耕作放棄地のミドリムシ油田化や、世界で6番目に広い排他的経済水域を持つ日本の海洋の活用が可能と考えています。

サステナビリティへの「一貫性」

――ユーグレナ社のミドリムシ養殖は2019年1月にASC(水産養殖管理協議会)の海藻(藻類)認証を世界で初めて取得しました。

ASCのマークを付ければたくさん売れるという考えではありません。商品を持続可能なやり方でつくっていることを示したかったのです。やはり、こだわりが大事だと思います。

もう少し高尚な言葉で言えば、「一貫性」です。今では当社のドリンクを毎日25万人が飲み、8万人を超える株主がいます。会社としてのスタンスを発信し、約束を守り続けるために、ASC認証を取得したのです。

――バングラデシュで栄養失調の子どもたちと会って起業を志したそうですね。

不可能と思われるような社会課題でも解決し得ることを可視化していきたいのです。2005年の創業後、リーマンショックと東日本大震災が起きました。その前と後で私たちは違う世界にいます。従来のやり方の延長線上には、幸せな社会はないと多くの人が気付いています。

そもそも当社は、大儲けをするためにつくった会社ではありません。貧困層35億人と富裕層10人の資産が等しいような世の中は持続不可能です。SDGs(持続可能な開発目標)がメガトレンドとなったのも、受け入れる素地のある世代が社会の中核になりつつあるからでしょう。このトレンドと足並みをそろえて、仲間と一歩一歩、進んでいきたいのです。

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出雲充(いずも・みつる)
出雲充(いずも・みつる)

東京大学農学部卒。2005年8月株式会社ユーグレナを創業、代表取締役社長就任。同年12月に、世界でも初となる微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の食用屋外大量培養に成功。世界経済フォーラム(ダボス会議)Young Global Leader選出(2012年)、第一回日本ベンチャー大賞「内閣総理大臣賞」(2015年)受賞。著書に『僕はミドリムシで世界を救うことに決めた。』(小学館新書)がある。

瀬戸内千代
インタビュアー瀬戸内千代(せとうち・ちよ)

海洋ジャーナリスト。雑誌「オルタナ」編集委員、ウェブマガジン「greenz」シニアライター。1997年筑波大学生物学類卒、理科実験器具メーカーを経て、2007年に環境ライターとして独立。自治体環境局メールマガジン、行政の自然エネルギーポータルサイトの取材記事など担当。2015年、東京都市大学環境学部編著「BLUE EARTH COLLEGE ようこそ、「地球経済大学」へ。」(東急エージェンシー)の編集に協力。