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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)
サステナブル・オフィサーズ 第30回

マーケティングと社会課題は表裏一体――榎本 亮・NEC 執行役員 兼 CMO パートナーアライアンスグループリーダー

Interviewee
榎本 亮・NEC 執行役員 兼 CMO パートナーアライアンスグループリーダー
Interviewer
森 摂 オルタナ編集長/サステナブル・ブランド国際会議総合プロデューサー

NECが、サステナビリティを軸にした新たなマーケティング戦略に向けて舵を切った。事業領域がBtoCからBtoBやBtoGにシフトする中、製品やシステムの性能を強調するのではなく、自社のテクノロジーがグローバル規模で社会課題をどう解決できるかを訴求し始めた。榎本 亮・執行役員 兼 CMO パートナーアライアンスグループリーダーに新戦略の狙いを聞いた。

BtoCからBtoBへの転換

――チーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)としてマーケティング・ブランディングを担当し、同時にサステナビリティも担当されるというのは、他社ではなかなかない存在だと思います。


榎本:私は3年前に入社しましたが、最初からサステナビリティ課題がはっきりと明確にあって、それに向かって取り組んできた訳ではありません。自分の目で見て、もっと良くなると思うことを一つひとつやってきました。

当社は以前、BtoC事業の割合が大きかったので、マーケティングでもBtoCの影響が色濃く残っていました。パソコンや携帯電話を一度に100万台販売する手法と、社会ソリューションとして世界の100社に販売する手法では、当然、マーケティングも異なります。

具体的には、自社の製品やシステムについて個々の優位性を訴えるのではなく、導入していただくことによって、社会課題をどう解決できるのか。あるいは導入していただくことが、社会課題解決に向けてどれだけ効果があるかが重要になります。

ですので、顧客が新しく社会課題解決のためのアクションを起こす時、依頼先の第1候補に当社が入るようにブランド戦略を転換してきたのです。

BtoB事業の比率が高まれば、マーケティング手法も見直さなければなりません。それ以外でも、組織の改編やマインドセット、予算の再配分についてなど、引き続き手をつけなければならないところは多いと考えています。

――BtoBに則したブランド戦略は成功しましたか。

榎本:当社は、一定の知名度はあると自負しています。以前のCMで「バザールでござーる」というものがありました。その効果で親近感や価格がリーズナブル、そういった身近なブランドイメージがありました。

一方で、先進性や提案力などについて、顧客にイメージしてもらえるようなアプローチが弱いとも感じていました。ブランド認知はもちろんですが、それが顧客にとってどういう意味を持つのかを考えています。

具体的には、現在の信頼性を維持しつつ、それに先進性や提案力をプラスするということです。「何か新しいことをやるとき、NECに相談してみないと」というような立ち位置にブランドを切り替えていきたいですね。

すべての案件で社会課題を社内で共有

――CSRやCSV(共通価値の創造)について、ご自身ではどう感じていらっしゃいますでしょうか。

榎本:2016年に一橋大学の名和高司教授のもとで1年間、CSVを勉強し、多くの方々と知り合うことができました。そこで実感したのは「今の若い人たちが本当にやりたいと望むことを行う企業経営をしない限り、良い人材は企業に来なくなる」という危機感でした。

NECとして、CSVをどう形作っていくかが、重要であると考え、その時の勉強テーマを「企業の経済活動と社会課題の解決を両立させる」に決めました。ここでCSVを勉強したことにより、異業種のCSR・CSVに関連する方々とディスカッションできる土台ができました。

――サステナビリティは、マーケティング、ブランディングの軸となり得ると考えますか。

榎本:当社は以前からSDGs(持続可能な開発目標)の17目標を、当社の導入事例にそれぞれ当てはめていました。当社のマテリアリティ(重要性の決定)をきちんと行っていこうという時期と同じ頃でした。結果的に当社の事業は、SDGsの目標と親和性が高かったと言えると再認識しました。ただ、重要性についての見解は社内で分かれることもありました。

――大きな会社ほど、意見の相違は起きやすいですね。

榎本:当社の事業自体が「社会価値」や「社会に資する」だったので、SDGsとマーケティングの連携はスムーズに進んだと思います。「君たちはサステナビリティをやっているんだぞ」と社員に無理やり言っているわけではありません。

私たちの価値は、顧客に「当社をお選びいただいた効果はいかがでしょうか」と伺って初めて分かります。私たちマーケティング部門が顧客に会う機会は少ないです。実際に顧客と会うのは、当社のSE、営業です。

そうすると、彼らがサステナビリティについて理解し、納得しないと、話していてもうわべだけの対応になります。私たちの仕事は、社員にサステナビリティをきちんと納得してもらうことなのです。

――その意味で、社員にサステナビリティは十分浸透しましたか。

榎本:まだ十分ではありません。当社が社会ソリューション企業と言い始めて4年目なので、毎年どのくらい納得しているのか、調べています。サステナビリティを理解している人の割合は増えてきましたが、それを「自分ごと」として人に説明できる水準の社員がもっと増えなければいけません。

――SDGsやサステナビリティをきっかけに案件を受注できた事例はありますか。

榎本:把握しきれていない部分もありますが、私たちは必ず当社の事業の話をする時に、社会課題を共有するようにしています。それはプレゼンテーションを含むすべてです。

これまでのNECはイノベーションを強調して「当社のこれは世界一です」とか、「何倍速いです」などと訴求してきました。しかし2015年度後半ぐらいから、なぜそれをやるのかを考えるようになりました。そして、主語をNECではなく社会や顧客とし、製品だけを訴求する宣伝はやめました。

――それは榎本さんの判断だったのですか。


榎本:そうです。製品の宣伝をメインにしては絶対にいけないと。そのやり方では共感を得られません。顧客が理解したとしても、試しに他社にも話を聞いてみようとか、相見積もりを取ろうという話にはなります。しかし、NECでやってみようとはならないのです。

共感を得る切り口は、サステナビリティとは言ってませんが、社会課題だと考えています。人口の問題であり食料の問題であり、必ず社会課題から入るものです。こうしたことは、セールスフォース・ドットコムで勉強しました。

――創業者マーク・ベニオフ氏の考えですね。

榎本:彼はマーケター(マーケット戦略立案者)です。そしてセールスフォース・ドットコムはマーケティングで大きくなった会社です。

――同時に、彼は社会起業家ですね。

榎本:考えていることの8割が「ダボス会議」ではないでしょうか。自社の事業は2割程度のような気がしています。

NECは2013年の中期経営計画で「社会価値創造型企業への変革」を打ち出しました。先に話したようにマーケティング手法を改めたことで、舵を切れたと考えています。当社は、現在も扱う製品やシステムは従来と一緒です。社会ソリューションとして展開しているものも、実はそんなに変わっていませんが、物販的な発想から課題に対する共感を得るようにメッセージを変えてから、マーケットからの反応が良くなりました。

自社製品・システムの導入で迷宮入り事件を100件以上解決

――今おっしゃったことはまさに、SDGsでいう「アウトサイドイン」(社会課題起点のビジネス開発)ですね。そうしたシステムの導入事例はありますか。


榎本:社会課題の起点である地球レベルの課題はいくつかあります。その中で最大の一つは人口問題です。日本は減りますし、世界では激増します。もう一つは「地球温暖化」です。

地球の人口が増え、しかも都市部への人口集中が進むと、犯罪や交通渋滞の問題、エネルギー不足や食糧不足など、様々な課題が生まれることが想定されます。

それに対して、当社のスマートシティを実現するソリューションとして、安全な都市づくりを目指す「セーファー・シティーズ」と、サプライチェーンの中で人や物、プロセスをつなぐことで新しい価値を見出すことを目指す「バリューチェーン・イノベーション」があります。

当社が社会ソリューションに取り組む際は、ICTの会社なので、デジタルを使うことは当然なのですが、デジタルならではのリスクを考慮しなければ、個人情報を含め危険な状態になります。そこを対処しなければなりません。

当社はもともと生体認証で、指紋認証・顔認証・光彩認証で世界一です。National Institute of Standards and Technology(米国国立標準技術研究所)が毎年コンテストを行っていて、そこで世界一が認定されるのですが、当社はそこで世界一に認定されました。一度ではなく何年もです。

一卵性双生児は声紋だと判別がつきにくいと言われています。指紋や顔も100%の一致はありません。99.9には行っても100はないのです。

そこでどうするかというと、指紋・顔・虹彩の3つの認証を掛け合わせでトリプルチェックを行います。

99.9×99.9×99.9になれば、限りなく100になります。生体認証で100を目指す方法はそれしかありません。

どんな方法も100%はありませんが、今それが私たちのデジタルサービスを提供する時の一つの差別化要素になります。こちらの導入事例として、米国の警察で14年間ぐらい迷宮入りになりかかっていた案件の中から、私たちの生体認証技術を入れていただいて1週間で、100件以上を解決に導くことができました。

――それはどうやって解けたのでしょうか。

榎本:14年間証拠として保管しておいたものを、当社の技術でもっと高度に個人を特定するところまで持っていったのです。

別の事例として、イギリスの警察では、当社の顔認証システムを使って入場禁止のフーリガンを2日間で4~5人逮捕した実績があります。当社の目指している「セーファー・シティーズ」の目的は、悪人を捕まえるというより、安心して暮らせる街にする、街を良くするところにあります。

他にはアルゼンチンの都市で生体認証技術を導入し、自動車盗難を80%減らしました。その結果として観光収入が2016年に10年前と比較して300%上がったそうです。こちらはCSVのVの方、経済価値の部分です。街が安全になり、海外からの観光客が増えました。

人口問題の導入事例として、病院と一緒に入院患者様の不穏予兆発見に取り組んでいます。患者が動転して予期しなかった行動を取ることがあるのですが、現在当社の技術では、実際にそれをやる40分前に、71%の確率で予想できます。これを未然に防ぐことにより、医療従事者への負担も軽減できます。

――日本企業とはどのような事例がありますか。

榎本:カゴメの事例なのですが、私たちのAI、コンピューターでシミュレーションし、トマトの収穫を上げる取り組みを行っています。ポルトガルの農場で行っています。計画的に生産でき、食糧を無駄にせずに済む取り組みです。2014年から行っています。

世界にはトマトの栽培に適した「トマトベルト」と呼ばれる地域があります。北緯・南緯とも35度から40度くらいで、意外と狭いのです。地球温暖化が進んだ場合に、狭い帯が北と南にずれるわけです。

シミュレーションでは、2050年には緯度が3度ぐらいずれる。すると大変なことになります。新しい国でトマトの栽培を行うことになる。トマトの農家も違う人になる。当社のAIでトマト栽培のデータを蓄積しておき、活用することによってノウハウをスムーズに導入することができるわけです。

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榎本 亮(えのもと・まこと)
榎本 亮(えのもと・まこと)

1963年6月4日生まれ。岩手大学人文社会科学部法学科卒。1995年から2002年までArthur Andersen(後のBearing point)においてマーケティング戦略・営業改革等を推進するコンサルティング部門のパートナーに従事。Bearing point 合流後はCommunications領域のマネージングディレクターとして2008年まで従事。2009年から2014年までIBMでパートナー/理事。2014年セールスフォース・ドットコムの執行役員に就任。2015年からNECの執行役員となり、コーポレートマーケティング本部を担当。2017年4月にNECの全社マーケティング活動を統括するCMOに就任。

森 摂
インタビュアー森 摂 (もり・せつ)

株式会社オルタナ代表取締役社長・編集長。東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。訳書に、パタゴニア創業者イヴォン・シュイナードの経営論「社員をサーフィンに行かせよう」(東洋経済新報社、2007年)がある。一般社団法人グリーン経営者フォーラム代表理事。特定非営利活動法人在外ジャーナリスト協会理事長。