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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)
サステナブル・オフィサーズ 第28回

事業を通じて社会課題の解決をーー三宅香・イオン 執行役 環境・社会貢献・PR・IR担当

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Interviewee
三宅香・イオン 執行役 環境・社会貢献・PR・IR担当
Interviewer
川村 雅彦 オルタナ総研 所長・首席研究員

イオンは上場企業の中でも本業による社会貢献活動に力を入れ、しっかりと実績を残している企業として知られている。その取り組みも、SDGs(持続可能な開発目標)の目標に適う「脱炭素宣言」「再生エネルギーの導入」「持続可能なうなぎの確保」など多岐にわたる。同社が社会貢献活動を行うようになった経緯や、現在の取り組み状況について、三宅香・執行役 環境・社会貢献・PR・IR担当に聞いた。

会社理念に「平和」と「環境」を据える

イオングループの基本理念

川村:イオングループは日本の環境経営を牽引してきたと認識していますが、まず、グループの企業理念やサステナビリティに対する姿勢をお聞かせください。

三宅:当グループの基本理念は、お客様を中心に、平和・人間・地域が頂点になっており、平和を追求し、人間を尊重し、地域社会に貢献する、というものです。この基本理念は、30年近く使用されています。

「平和」が基本理念に据えられた背景には、名誉会長の岡田卓也(以下、名誉会長と表記)の体験にあります。

終戦直後、焼け野原になってしまったところにバラックでお店を再開し、「焼土に開く」と記載したチラシを配布しました。それを握りしめて、お客様が喜んで買い物に来てくださったこと、そのお客様を迎える喜びが原点でした。

平和であるからこそ、商売をさせていただいているという感謝の気持ちを忘れずに、私たち企業も平和が続くことに寄与していかなければならない。それが、事業の存続に結びつき、使命であると考えています。

川村:現代風に言えば、社会がサステナブルでなければ企業もサステナブルではない、ということですね。

三宅:流通は特にお客様の日々の暮らしを支え、生活に直結しているところからもサステナブルでなければなりません。

今でこそサステナブル、持続可能性ということも一般的に言われるようになりましたが、当社は、最初からその概念がビルトインされている企業であったのだと思っています。

1969年にジャスコになり、2001年にイオンへとグループ名を変更する訳ですが、イオンはラテン語で「永遠」を示す語で「平和が永遠に続くこと」つまり、サステナブルそのものです。世の中がサステナブルで平和が永遠に続くために寄与する、という思いが理念にも示されました。

川村:それは当時から流通業・小売業としてという前提があったのですか。

三宅:名誉会長は、「小売業は平和産業である」とよく話しています。当社には、平和やサステナビリティの考えが創業当時からあったと言えます。

また、早い段階から環境への取り組みを行った理由は、名誉会長の思いと考えによるものです。1つ目は、創業地の三重で四日市ぜんそくを見てきたことにあります。2つ目は東西の冷戦終結後、次は南北問題であり、そのキーワードは「環境」と考えたことにあります。これからの世界で最も重要な課題は環境問題であるという認識のもと、小売業として、何ができるかを常に考えてきました。

タルボットの買収が契機に

川村:それでは、イオンのCSRに対する具体的な考え方をお伺いできますか。

三宅:CSRという考え方は以前からありましたが、言葉としては使ってきませんでした。80年代にアメリカのタルボット(TALBOTS)を買収しました。

当時タルボットは、ジェネラル・ミルズ(General Mills)社の傘下で、ジェネラル・ミルズ社からタルボットの売却の話があって、私たちが買うことになりました。

タルボットの買収には色々な意味がありました。当社の財務面への貢献はもちろんのことですが、ジェネラル・ミルズ社には、5%クラブというものがあって自分たちの税前利益の5%を社会貢献活動に使う、いわゆるフィランソロピーを行っていました。これを聞いた名誉会長は、感銘を受け、5%は難しいが、当社は税前利益の1%(ワンパーセントクラブ)で始めようということになりました(1989年)。

この時の考え方は、本業であげた利益の一部を社会貢献活動に使うということで、国際交流や地域振興、次世代育成などの活動を展開してきました。ただ次第に、本業であげた利益の一部を使い社会貢献をするだけでは十分ではないと考え始めたのです。

川村:本業であげた利益の一部を使い社会貢献をするのは、「貢献活動ではなく還元活動」ということに気がついたのですね。

三宅:ここ数年は、本業で利益を追求していく中で、社会がより良くなることが重要だと考え始めました。もちろん、社会に還元する活動も、1%クラブも健在ですが、それとは別に本業を通じて行おうということです。新たなチャレンジとして昨年から発表してきた「脱炭素ビジョン2050」や「食品廃棄物削減目標」、「持続可能な調達方針・2020年目標」は、すべて本業の領域にあたります。

事業を通じて社会問題を解決することで私たちの利益につながりかつ、社会に対してこれまでとは別なアプローチで貢献できるという考えです。

SDGsへの取り組み

川村:SDGsの取り組みについては、どのようにお考えですか。

三宅:SDGsは17項目がありますが、基本的に私たちが関わらない項目はないと思っています。なぜなら、生活全般のものを扱う企業であり、これまでもサステナビリティを目指してきたからです。

つまり、SDGsの目標何番をやりましょうということが逆に難しいのです。

とりわけ、持続可能な調達やエシカル消費には重点を置いています。エシカル消費に関しては、世の中のすべての商品がエシカルであるべきで、最終的なゴールにほかなりません。可能な限り、エシカルなものを販売して社会に広げていく意味合いは大きいと思っています。それゆえ優先順位を高くしているのです。

川村:「脱炭素」の長期目標を定めたときは苦労されたと思いますが、そのときのことを教えていただけますでしょうか。

三宅:苦労するのはこれからだと思っています。目標をつくるのは簡単でした。前述のようにイオンの理念と、サステナビリティは、揺るぎないものとして当社に受け継がれているからです。しかし、これまでも様々な中長期目標を定めてきましたが、2050年のように本当に長期なものは初めてです。

2017年3月に私が着任した段階で、同年11月のCOP行きが計画されていて参加することになりました。当初は、政府間協議であるCOPに参加する意味があるのかわかりませんでした。ですが、是非イオンの環境責任者として行ってきてほしいと背中を押され、行くことになりました。

そこで、日本国内の温度感とグローバル社会の温度感のギャップに大変驚きました。

アメリカは別ですが、特に日本政府とヨーロッパなどの国々の政府とのギャップには驚きました。こんなにも日本が立ち遅れていることに、「えっ・・・」と鳥肌が立ちました。

アメリカの大学にいたこともあり、これまでも日本が世界の中でどういう立ち位置にいるかを相対化して意識するようしていましたが、とても驚きました。帰国後、「このままでは大変だ」という思いが大きくなりました。

バックキャスティングで「ありたい姿」描く

川村:今年3月に流通業で初めて「脱炭素2050年ビジョン」を出されましたが、その理由をお聞かせください。また、名誉会長や社長のご意見はどうでしたか。

三宅:まず、経営会議に提案しましたが、このとき初めて社長やその他の経営陣がこのビジョンを知ることになりました。一切の忖度や根回しはありませんでしたが、私は、社長の岡田元也(以下、社長と表記)に理解してもらえるとの確信がありました。

キーワードがいくつかあります。1つは、グローバル社会です。その中では日本がとにかく遅れているということです。私たちは、グローバル・リーディング・企業になることを目指していますので、これに遅れては成しえません。日本の会社がやっていなくても、ウォルマートやテスコ、グローバルでは当たり前になっています。

帰国後の2017年12月から数回にわたり経営会議が開かれ、2050年の脱炭素ビジョンを提案しました。「そんな先の長期目標が必要なのか、ここにいる責任者はみんな一線から退いて責任が取れないではないか」と言われましたが、「大丈夫です、組織としてのビジョンですから。私は86歳なので生きています」と言って笑顔で応じました。

社長からは、「脱」という表現について、「低」ではだめなのか、「脱」できるのか、と言われました。私は、「できるできないではなく、目指すのです」と宣言しました。それは宣言することに意味があると思ったからです。

川村:それはまさにバックキャスティングであり、ありたい姿へのコミットメントですね。

三宅:例えば、イオンが再生可能エネルギーを買う意思を示せば、外のマーケットが反応して、サプライヤーに売る気を起こさせることにもつながります。そのために宣言をするということです。

2050年ビジョンを掲げましたが、経営会議で「中間地点の2030年目標が必要なので、そのためのSBT目標を作るために少し時間をください」と伝えました。その後、2050年脱炭素(ゼロ)からバックキャストして、2030年は35%削減(10年比)目標とし、その達成手段として、再生可能エネルギーへの転換と省エネによるエネルギー削減を提示しました。

川村:それは従来型の省エネに再生可能エネルギーを入れていくことが基本なのですか。

三宅:そうです。それが基本です。再生可能エネルギーへの転換と省エネルギーを組み合わせなければならないと考えています。そして再生可能エネルギー100%での事業運営を目指す国際イニシアチブ「RE100」にも参加しました。

川村:省エネと再エネへの転換の割合をどのようにお考えですか。

三宅:今は、微々たるものですが、今後はイノベーションと普及で投資コストが低下することが考えられます。完全には読み切れないことが多いため2030年の35%削減達成のため、優先順位として年1%の削減はマストで、グループ企業に課そうと思っています。

LED化をはじめ、様々な方策はあると思いますが、無理なく確実に実現できる数字にするつもりです。残りは、再エネへの転換と考えています。店舗が日本全国にあるので、エネルギーの地産地消などやり方は多様にあります。まずは、ムーブメントをつくっていきたいと思います。

川村:これまでMSC(海洋管理協議会)認証など生態系保全にも積極的に取り組まれてきましたが、今話題のうなぎの問題について、現在の取り組みと、今後の予定についてお聞かせください。

三宅:うなぎは長い間、絶滅危惧種と言われていますが、本格的に社内検討を始めたのは3年くらい前からです。私たちのもう1つの使命として「食文化を守る」ことがあります。日本の小売業として、日本の食文化を継承することが1つの責務だと考えています。

10年くらい前に、アメリカの団体の方から鯨の販売についてご指摘を受けたことがありました。まず、市場が必要かどうかを調査しました。鯨肉に対してのお客様のニーズがあるのかどうか。ある場合はいつ食べるのか、嗜好品として食べるのか、文化に根づいた食文化なのか。こうした調査をした結果、地域差があり、単純に販売を中止することはできないとの結論に至りました。

その団体と、継続的に協議をし、「私たちは日本の食文化を守るためにも販売を継続したい」と当社の考えを伝えました。最終的には、店舗数を限定し、販売量を制限することで決着しました。その団体から、食文化に対する一定の配慮を認めるという一文をいただき、合意しました。

うなぎも同様で、持続可能な調達方針を踏まえ、企業としてどうあるべきか、何ができるか考え、検討しました。この場合も単純に販売しないというのではなく、パートナーとして、インドネシアの団体とWWF(世界自然保護基金)、インドネシア政府と手を組み、インドネシアウナギの稚魚の調査を実施し、管理された捕獲、漁獲・養殖で絶滅させないモデルを作る研究の助成することにしました。今後、その研究に基づいた採り方により、持続可能な調達の証であるMSC、ASC(水産養殖管理協議会)認証を目指します。

川村:小売業全体ではこのような動きに対する認識はどうでしょうか。

三宅:業界では、多くの関係者がうなぎの問題を認識していますが、具体的な取り組みについては各社ごとに差があるようです。ただ、当社も3年間くらいは、すぐに具体的な対策を取れる状態ではありませんでした。取引先との調整など、解決しないといけない課題が多々あるからです。

今回は、うなぎの問題を表に出し、消費者の皆様にも一緒に考えていただきたいと思い、公表しました。

川村:考え方が実に明快ですね。最後に、今後さらにグローバル展開していくときに、サステナビリティの観点でイオングループにはどのような課題があると思いますか。

三宅:国によって、どの段階(経済の発展度合いなど)どの段階にあるのかによって、サステナビリティの考え方にも温度差があると思います。プロセス自体は同じですが、そこへ到達するスピードは違うかもしれません。しかし、サステナビリティの基本的なベクトルは同じですので、グループ全体で取り組んでいきます。

川村:イオングループのサステナビリティに対する姿勢が良く分かりました。本日は、どうもありがとうございました。

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三宅香(みやけ・かおり)
三宅香(みやけ・かおり)

1991年、ジャスコ(現イオン)入社。同社2020年グループビジョン策定PTリーダー、同社ブランディング部長を経て、2008年、クレアーズ日本代表取締役社長就任。2013年、ジャスコ グループお客さまサービス部長。同年社名変更により、イオン グループお客さまサービス部長。同社お客さまサービス部長、同社執行役員就任、お客さまサービス部長 兼 グループお客さまサービス部長、同社 広報部長 兼 お客さまサービス部長 兼 グループお客様サービス部長、同社執行役就任、同社環境・社会貢献・PR・IR担当を経て、2018年より現職。

川村雅彦
インタビュアー川村 雅彦 (かわむら・まさひこ)

前オルタナ総研 所長・首席研究員。前CSR部員塾・塾長。九州大学大学院工学研究科修士課程修了(土木)。三井海洋開発㈱を経て㈱ニッセイ基礎研究所入社、ESG研究室長を務め、現在は客員研究員。環境経営、環境ビジネス、CSR経営、統合思考・報告、気候変動適応を中心に調査研究・コンサルティングに従事。(認定NPO法人)環境経営学会の副会長、(一社)サステナビリティ人材開発機構の代表理事。論文、講演、第三者意見多数。主要著書は『環境経営入門』『カーボン・ディスクロージャー』『統合報告の新潮流』『CSR経営 パーフェクトガイド』『統合思考とESG投資』など。