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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)
サステナブル・オフィサーズ 第23回

社会の声を聞き、向き合い、事業を伸ばすーー更家 悠介 サラヤ社長

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Interviewee
更家 悠介 サラヤ社長
Interviewer
森 摂 オルタナ編集長/サステナブル・ブランド国際会議(SB)東京 総合プロデューサー

ボルネオのゾウ保護やウガンダでの衛生改善など、社会的活動で知られるサラヤ。社会課題を製品・サービスで解決するという姿勢は創業時にさかのぼる。2代目社長の更家悠介氏は単に創業精神を引き継ぐだけではなく、「社会と向き合う姿勢」を見い出し、貫いている。

サステナビリティと収益を同時にとらえる

――サステナビリティ経営は、何をやるのかも大事なのですが、なぜやるのか。「Why」がとても大事だと考えています。

更家:「なぜやるか」というのは、企業の根本的なところに関わります。もちろんサプライチェーンや調達の問題もありますが、「なぜか」と問われると、「根源的にやらなあかんから」に尽きるでしょう。

経営者として世の中を見る感覚や見方が原点にあって、哲学とまでは言わないにしても、やるべきこと、あるいはやってはいけないことが自然と出てくるように思います。

――一般の企業経営者の間では「サステナビリティやCSRは収益に結びつくのか」という葛藤があるようです。

更家:やはり収益あっての企業なので、そこからは逃れられません。「会社は儲けてなんぼ。利益を生むから存続できる」と。もちろん利益を生むように努力していくことは必須です。

しかし、水を汚さない、環境を劣化させない、資源を大事に使うなどは、企業にとって真剣に考えるべきことです。企業だけでなくて消費者も含めてです。サステナビリティをしっかり問題意識としてとらえ、収益と同時にとらえる。もし収益が上がっていくのであれば、社会的活動の優先順位を上げて取り組むべきでしょうね。

――サステナビリティに取り組むことは、収益にもプラスになることが多いはずです。

更家:今は社会がそういう雰囲気になってきているので、有り難いです。結局、顧客とのコミュニケーションも進化し、「この野菜は私が精魂込めて作っています」というように、アピールするようになった。サプライチェーンが前より分かりやすくなってきた。世界が狭くなってきた感じがします。

――確かに、以前よりも地球規模でモノを見る考え方が増えてきました。

更家:人間が初めて月に初めて行ったのが1969年。ローマクラブの『成長の限界』が1972年。この辺りから「地球的な見方」が出てきました。そして、いま12億人が海外旅行をする時代。インターネットの普及もあり、だれでもすぐに現地の事が分かり、それが地球全体に結びつく。単なる概念ではなく、実態としてです。

地球規模で物事を考えながら、持続可能性を考えようという意識は高まっています。当社もボルネオのパーム油の問題に直面しています。原料の持続可能性や妥当性について、企業として考えていかなければなりません。

パーム油の環境破壊問題を知らされる

――サラヤさんは比較的、早くから社会的な取り組みをされてきたと思うのですが、最初のきっかけは何でしたか。

更家:もともと当社の「ヤシノミ洗剤」は1971年に始めました。当時、洗剤など生活排水が社会問題になっていました。そのころの洗剤は石油系が主流だったので、河川湖沼の水質汚染や泡立ち、酸欠による魚の大量死の問題が起きていました。 

さらに性能を上げるためにリンを入れていたので、富栄養化が起き、これも問題になりました。そこで当社は石油系ではない、リンもはいっていない、ヤシの実から作った「ヤシノミ洗剤」を小売りで始めたのです。

当社は1952年が創業年ですが、そのころ赤痢患者が11万人もいて、手洗いのための薬剤が必要でした。60年代の大気汚染では光化学スモッグで喉をやられるので、うがい薬を作りました。そうした社会問題の解決策として、当社はDNA的にそういうものを商売にさせてもらっています。

――常に社会課題のすぐ近くに、本業があったということですね。

更家:本業があったのと、それに社会問題を加えながら、本業を作っていったのと、両方あると思います。ところが、ヤシノミ洗剤は環境に良いと言われていたのが、実は環境に悪いと日本のテレビ番組で指摘されたのです。2004年のことでした。

すぐに調査員の方を雇って、行ってもらいました。3カ月くらいかけて現地を回っていただいたところ、確かに洗剤の原料であるパームオイルの生産において、森林破壊やゾウの生態系への影響が広範囲に起きていることが分かりました。

アブラヤシ(パーム)農園が拡大し、ボルネオゾウが住む森林が減りました。小動物を捕らえるためにワナに子象がかかり、鼻や足にロープが食い込んで傷つくなど、ゾウの生態系に深刻な影響があることが分かったのです。

そして、マレーシア・サバ州の野生生物局がゾウの保護・治療のプロジェクトを始めることになり、当社も資金的に支援をすることにしました。ただ1社がお金を出しても、持続可能ではないだろうということで、日本でNPOをつくり、基金を募ることにしました。今では年間で6000万円程度を動かしていると思います。

――現地のメディアに批判されても逃げずに、むしろ積極的に課題解決に取り組まれたということですね。

更家:最初はそれを放映された後、「なぜパーム油なのか」「他の油を使いなさい」「サラヤさんの商品が好きだったけど見損なった」などと電話を多数いただきました。でも、取り組みをしているうちに改善してきて、結局は良かったと思っています。

社会課題や社会からの批判にしっかり向き合うことで、リスクを減らし、ビジネスも進めていけるのです。ノウハウも蓄積され、消費者との距離感も近くなります。特にNPOの人たちと一緒にやっていると、少し感覚が違うところが勉強になります。

ヤシノミ洗剤も売上高はずっと少しずつ伸びていますので、これは顧客にご支持いただいていると思っています。さらにヤシノミ洗剤の売上高の1%をボルネオのコンサベーショントラストに寄付しています。もちろん、私たちも努力して、現地の情報を発信しています。

「きれいごと」かもしれませんが、バリューチェーンで、顧客と当社とボルネオの現地が環境的な価値、バリューチェーンをつくることができました。これは強固な結びつきなので、ビジネスにとっても非常にプラスなのです。2016年には「これからのビジネスは『きれいごと』の実践でうまくいく」(東洋経済新報社)という書籍を出しました。

「きれいごと」も長年やれば理解される

――日本人は「きれいごと」に対して、アレルギー反応を示すこともありますね。

更家:こういうこと言っておいて、裏で企んでいるんちゃうんかと。最初は僕もきれいごとは嫌だったのですが、ボルネオで活動を13年くらいやっていると、そろそろ「悪企みではないだろう」と思っていただけるのではないかと考えています。

――社員たちへの浸透においても、きれいごとなのか、本音なのかという議論もあるかと思います。

更家:最初のころは社員も「何のこっちゃよく分からん」と。ここにお金を使うのであれば、給料上げろという話ですよね。ただ、だんだん、マスコミに取り上げられたり、賞をいただいたりしているうちに「ああ、ウチの会社は良いことやっているのだな」と思ってくれる人が増えてきました。

――ほかにはどんな社会的な取り組みをされていますか。

更家:例えば、「関西再資源ネットワーク」という会社があり、当社をはじめいろいろな会社が出資しています。

いまメタン発酵に取り組んでいます。オランダの「リノグロ・エナジー・ヨーロッパ」という会社に出資して、一緒にやっています。日本では、食品生ごみに加えて、活性汚泥ゴミがとても多いのです。

本来、それと食品生ごみを合わせてメタンガスを作り、発電すると非常に効率が良いのですが、省庁の壁もあり、難しいのです。まだメタン自体のコストが外国の3倍ぐらいする。ですので、安くできるような研究をずっとやっています。

――SDGs(持続可能な開発目標)が国連で採択されて2年余りたちましたが、日本の経営者の9割以上は分かってないのではと危惧しています。日本はサステナブルな社会に向けて変わっていけますか。

更家:今は悲観的です。日本は、外圧や大きなショックがないとなかなか動きません。論理で動く国民ではないです。感情で動くところが多いです。そういう意味では、ドイツをはじめ欧州の方が着実な感じです。

ゴミ問題は国や地域で取り組むべき

――自社だけでなくて、地域、他の企業、他の経営者もサステナブルになっていくためには、どうすれば良いでしょう。

更家:製品の調達だけでなく、パッケージデザインもリサイクルにつながるように変えていく。誰かがしっかりリサイクルをビジネスにしていく。こうした循環を作りたいのです。世界では都市のゴミ問題が非常に深刻です。利権の問題もありますが、こういうのは日本政府が働きかけて、長期融資をして、さらにゴミ発電をやりましょうとかね。

資源の問題でも、地下から掘り出すものはいつか無くなるはずなので、それに備えることが大事です。先ほど申し上げた直近の損益と一緒で、「無くなる」と言っても、耳を貸すのは少数なのが現状です。

――大阪の中小企業の経営者の意識はどうでしょうか。

更家:大阪の人は結構、目先のことに行く人が多いですが、何かやりたいという人は結構います。「ワシんとこ、こんな水の機械作ったんだけど」とか、「こういうイノベーションの技術を持っているけど」とか。おもろいことが好きな人が多いので、枠組みさえできれば、みんなやり始めると思います。

――サラヤさんは30年後くらいにはどんな会社になっていると思いますか。

更家:いまは薬剤メーカーですが、今後は、機器と洗剤の組み合わせで新しい可能性を探っています。

例えば医療機器では、「ステリエース」という機械を4月か5月に発売します。真空装置とプラズマを使った滅菌装置です。医療器具や機器の消毒に使います。例えばカメラ付きの医療器具は高温で殺菌できないのですが、これは30~40度という中低温で非常に高いレベルの滅菌ができます。さらには医療分野の感染予防、特に、院内感染予防のためのいろいろなツールや薬剤の研究を進めています。

――サラヤの創業製品である石鹼も、もともと感染の予防という社会課題の解決を目的とした商品でしたね。

更家:そうなのです。これは人が生きていくとか、感染を起こさないとか、インフルエンザやノロウイルス、エボラ出血熱など地球規模の課題にも繋がります。バクテリアのコントロールとか、ウイルスコントロールの話で、そこはサステナブルかどうかというのは、ボーダー的なところはあるけれども、人間にとって、やはりそういう対策はきちんとしなければなりません。

そこで、食品衛生という切り口があるのです。いまの時代は食品の安心・安全への懸念が多い。ですので、食品流通の分野にも興味があります。そして、やはり「健康」です。特に予防的に働く商品を開発したいと思っています。

――それは基本的にはモノづくりを通じて、ということですね。

更家:そうですね。ものづくり、プラス「サービス」です。やはりモノをつくっても、どう使うかというところが非常に大事です。これを飲んだら病気が治りますよ、この機械を買ったらなんでもできますではなく、インストラクションや現場のフィールドサービス、機械が正しく動くようなメンテナンスサービスなど、こうしたサービスが非常に大事ではないかと思います。

――会社の上場は考えていますか。

更家:アジアやアフリカで社会活動をやっているので、上場したらすぐに株主から止めろと言われるでしょう。とりあえず今は、金利が安いので、上場しなくても、銀行のサポートで上手く回っています。

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更家 悠介(サラヤ社長)
更家 悠介(サラヤ社長)

1951年生まれ。1974年大阪大学工学部卒業。1975年カリフォルニア大学バークレー校工学部衛生工学科修士課程修了。1976年サラヤ株式会社入社。取締役工場長を経て1998年代表取締役社長に就任、現在に至る。1989年日本青年会議所会頭、地球市民財団理事長などを歴任。NPO法人ゼリ・ジャパン理事長、ボルネオ保全トラスト理事などを務める。

森 摂
インタビュアー森 摂 (もり・せつ)

株式会社オルタナ代表取締役社長・編集長。東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。訳書に、パタゴニア創業者イヴォン・シュイナードの経営論「社員をサーフィンに行かせよう」(東洋経済新報社、2007年)がある。一般社団法人グリーン経営者フォーラム代表理事。特定非営利活動法人在外ジャーナリスト協会理事長。