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サステナブル・オフィサーズ 第22回

統合思考を実践する組織づくりで環境と経営を両立――積水化学工業 平居義幸 常務執行役員(経営戦略部長)

Interviewee
平居義幸 積水化学工業 常務執行役員(経営戦略部長)
Interviewer
川村 雅彦 オルタナ総研 所長・首席研究員

積水化学工業は、持続可能な社会と経営の実現を目指し、環境経営を更に進化させたCSR経営を打ち出している。2017年4月には経営戦略部にCSR推進部を統合した。組織改編の狙いとは何か、改変によってどう組織が変わったのか。同社の平居義幸常務執行役員に、積水化学工業の環境・CSRに取り組み全般を10年以上前から理解している川村雅彦・オルタナ総研所長(環境経営学会副会長)が聞いた。

経営危機を契機に「3つの際立ち」を追求

川村:改めて、積水化学工業が戦略的に環境問題や、広義のCSRに取り組む理由や思い、狙いをお聞かせください。

平居: 私たちの環境経営の成り立ちは環境保全から始まり、2003年に環境経営に軸足を移し、2006年からはCSR経営にステージを上げています。環境経営に向けて最初に大きく舵を切った背景には、次のような経緯があります。

当社の連結売上高は、1996年度に過去最高になりました。バブル崩壊後、住宅以外の事業が低迷するなか、阪神・淡路大震災後の住宅特需と、1997年に予定されていた消費税の増税前の駆け込み需要が重なり、住宅事業が会社をけん引しました。しかしその住宅バブルもはじけ、1998年度から4年連続で最終赤字に苦しみました。

そこで、事業の選択と集中を進め、「当社の強み・際立ちは何なのか?」を問い直すなかで、環境経営に取り組み、際立つ高収益企業を目指していきました。当社はセキスイハイムブランドで展開する住宅事業やプラスチック加工技術による最終製品や中間素材を扱う事業も手掛けており、メーカーとして製品を通じて環境に貢献しよう、エコロジーとエコノミーの両立をしようという考えを持ちました。これが環境経営に大きく軸足を移した当初の状況であり、その後、環境の中期計画や、それを更に進化させたCSR経営に取り組み始めたのです。

川村:ある意味で構造的に痛手を追い、単に新たなビジネスを始めるということではなく、経営基盤や組織、考え方を見直したという位置付けでしょうか。

平居:その通りです。ビジネスとしては「人」が基盤です。また、顧客のサティスファクションと品質を一体として「CS品質」の向上を狙い、前述の「環境」では、特にメーカーとして環境に配慮した製品の開発・拡販に注力していきました。これら3つで際立っていくことに、経営基盤として重きをおくようになりました。事業の面では、エンドユーザーに向かうサプライチェーンの「中流」で、例えば自動車の軽量化・燃費向上に貢献する樹脂製部材など環境に配慮した素材を提供したり、住宅事業では、「光熱費ゼロ住宅」のコンセプトを打ち出すなど、エコロジーとエコノミーの両立を具現化していきました。

川村:他のハウスメーカーとの違いはどのようなものですか。

平居:当社の場合、平たい屋根の住宅商品が大半で、ソーラーパネルを多く、効率的に設置することができることもあり、1999年頃から積極的に顧客に提案をはじめ、これまでに20万棟近くに搭載いただいております。これは業界トップです。また、建築工程のうち工場で生産する比率が非常に高いユニット工法で住宅をつくるので、設計どおりの高い断熱性や気密性が実現でき、省エネ性に優れています。これに、HEMS(エネルギーマネジメントシステム)や蓄電池の搭載、さらにはEVとの連携を進めており、光熱費ゼロなだけでなく、エネルギー自給自足も可能になってきています。そこで差異化をしているのです。

「統合思考」に基づいた組織を実現

積水化学工業のCSR概念図(提供=同社)

平居:2014年に当社のCSR経営が本格的に始まりましたが、当初から事業とCSRを一体化するという思想がありました。それを全社員に浸透するにはどうすればいいか、ということが課題でした。

そこで重要なのが社是です。2017年に新たなCSR概念図を策定しましたが、この頂点に「Service」「Speed」「Superiority」から成る、社是「3S精神」を置いています。そして、社是を受けてグループビジョンが存在しますが、そのなかには「世界のひとびとのくらしと地球環境の向上に貢献します。」という言葉が含まれており、経営の根幹で、環境問題への対応そのものです。これは、現在のSDGsまで繋がる考えでもあります。

従来、当社の「理念体系」(図の左側)と「CSR概念」(図の右側)を社員に同時に説明する機会がありませんでした。後者はCSR研修などでのみ社員に呈示されていました。しかし、これは本来一緒であるべきです。そこで、私たちは「統合思考」に目覚めました。

川村:環境を担当される役員から「統合思考」という言葉が出ることに驚きました。しかし、経営戦略部長としては統合思考がなければ経営戦略の推進ができない、ということですね。

平居:そうです。経営戦略の中の事業を通じた社会課題の解決は、環境・CS品質・人材の「3つの際立ち」をもって実現します。当然、事業プロセスには責任があります。責任は安全や働く環境をもって実現します。そして土台にガバナンスがあるのです。

従来は経営戦略部とCSR推進部が分かれていましたが、思考を統合するなら、組織も統合しなければなりません。2017年には統合思考への組織変革を行い、経営戦略部にCSR経営と環境経営を取り込みました。

川村:ここまで具体的に行動をしている会社は少ないのではないのでしょうか。経営戦略部の中に、経営企画、CSR推進、環境経営、IR、広報などが含まれていますね。

平居:コンプライアンスや監査は、ガバナンスを効かせるという意味で別の部署になっています。実は環境経営側から統合思考という言葉が出て、全社的にもすんなりと組織の統合が進みました。これからは魂を入れていく段階となります。

川村:組織の統合体制が確立して1年近く経ちましたが、元は別々の機能をもつ部署なだけにマネジメントが難しいのではありませんか。統合の効果を感じられていますか。

平居:私たちは「自然資本」を使って事業をしています。使った自然資本に対して100%以上を地球に返していかないと、生物多様性が保全された地球は実現できません。地球に自然資本をリターンするために、3つの方針を立てています。そのひとつが環境貢献製品です。

私たちが展開する事業の業容が拡大していくことによって、環境貢献製品によって解決可能な課題領域は明らかに広がっています。地球上の自然環境だけではなく、持続可能な社会をつくるために必要な社会環境課題に対しても貢献を拡大していくことを意識し、環境貢献製品はSDGsに当てはめ、定義をし直しました。これらの取り組みの実現は組織を統合したことのひとつの成果かなと思います。加えて、社外の専門家などをアドバイザーとして、製品が「際立っている」と言えるのか、より地球環境に貢献するにはどうすればいいかなどの客観的な意見を聞き、社内基準に照らして環境貢献製品を認定しています。

またCO2を削減する投資は従来も社内で行われてきましたが、各事業部における採算性の観点で導入を見合わせざるを得ないケースが多くありました。そこで、2017年度~2019年度の現中計の3年間で、120億円の環境貢献投資の枠組みを設定することで、全社としてCO2削減に資する設備の導入・更新を進めています。

この金額はこの3年間で予想される売上規模の0.3%を超え、今までの規模と比べ多額です。これにより、より実効性の高い地球温暖化対策に取り組めます。これは、経営戦略とCSR推進が一体化したからこその成果です。

川村:環境については環境教育や自然資本でもKPIを設定されていますが、どのような取り組みがあるのでしょうか。

平居:環境教育については、社内外で啓発のイベントを開催しています。その一例が世界各地にあるグループ会社の従業員のこどもの参加を募集し、フィールドでの環境学習や工場や環境貢献製品を見てもらい当社グループの事業を通じた環境学習を行う「こどもエコサミット」です。最終日に参加者が「自分が今後どのような環境に良い活動をするか」「積水化学に何をしてほしいか」という宣言をします。その学びと宣言を地域や家庭に持ち帰り、活動を普及してもらいます。また、当社はこどもたちからの提言を受けて、これまでに、グループ全体で環境活動に取り組む「SEKISUI環境ウィーク」や、グループで一番環境によい活動をした従業員を選ぶ「最もエコな人」の制度を設けました。

昨年、当社創立70周年を記念して開催した「世界こどもエコサミット2017」では、アメリカやヨーロッパと東南アジアなどの地域ごとで、環境への理解度やそもそもの情報量に違いがあることに気付いた子どもたちから、子どもたちの環境教育が必要だ、との提言があり、現在はこの提言をいかにして具現化するか、社内で検討を進めています。

環境負荷を数値化、指標化

川村:「自然資本」の考え方について、具体的にお聞かせ頂けませんか。

平居:私たちの製品には自然資本が使われています。自然資本の利用は地球への負荷となります。まず、利用している自然資本を、LCA(ライフサイクルアセスメント)手法の「LIME2」(注)を活用し、金額として価値換算しました。これによって製品がどれだけの自然資本を利用し、そのうちどれだけリターンできているかを製品ごとに評価しています。

(注) LIME2:日本版被害算定型影響評価手法。国内の環境条件や環境科学の最先端の手法を反映し、事業などの環境負荷を計測・評価する手法。

環境負荷を100%とした場合、100%以上のリターンをしなければいけません。現在は76.9%のリターンができていますが、2019年度に90%、2030年度には100%以上を目指しています。数値化することによりサプライチェーンへの働きかけの重要性を認識し、製品による自然資本への貢献の大きさも再認識しました。これを基にして、2050年ビジョンに反映していく展望を持っています。

川村:今後、住宅はエネルギー効率が良くなり、価格も安くなり、個別のビルや家だとゼロ・エミッションに近づくのでしょうか。

平居:住宅性能そのものについては、現時点でかなりゼロ・エミッションに近く、ほぼZEHを実現できるレベルになってきていると感じています。

川村:あとは普及が課題ですね。日本の世帯数は減っていきますが、家は限りなくCO2を出さず、RE(再生可能エネルギー)を利用する社会になっていくということでしょうか。

平居:経産省から「2020年までにハウスメーカー等の建築する注文戸建住宅の過半数でZEHを実現すること」という通達も出ています。時代としてはそういう流れになっています。住宅分野の環境負荷低減に対しては、社会的にも追い風が吹いていると感じます。

組織に横串を通し、グローバルな統括を実施

川村:海外市場に対するビジネス戦略の現状と今後についてお聞かせください。

平居:カンパニーごとに状況が違います。最も海外進出が進んでいる高機能プラスチックスカンパニーでは、海外での売上比率が7割近くになります。環境についても強く世界の要請を受けており、従業員の意識も高くなっています。

環境・ライフラインカンパニーは、事業の基盤としてこれから海外に目を向けていく段階です。環境貢献製品が売れ出していて、例えば鉄道線路の枕木用途に使用される人工木材などがあげられます。ヨーロッパでは防腐剤に規制がかかり、木製の枕木が使えなくなることで一気に注目されました。トータルとして積水化学グループ連結で海外売上比率は2016年度で24%です。これを2019年度には30%にしたいと考えています。それに伴い、海外調達率も上がっていきます。

2017年度の組織変革で、経営戦略部の中に海外統括グループも新たに作りました。そして、ヨーロッパ(オランダ)、アメリカ、中国、そして東南アジア(タイ)に各地域の統括会社を設け、ガバナンス強化を進めています。経理財務、人事、法務に関しては、グローバルでルールを統一し、海外統括グループを管轄します。これを横串として経営戦略部に組み込んでいます。

川村:経営戦略部が横串となり、組織上はグローバルも含めて全体的な統括が可能となっている訳ですね。

平居:私たちはビジネス全体そのものを経営対象として押さえています。3つの社内カンパニーごとに戦略をもっていますが、経営戦略部は一回り大きな視点で全体を統括する役割を担っています。

川村:経営戦略部として「統合思考」に基づき、CSR経営、環境経営、海外統括まで包括されていることは、ユニークで力強く感じます。本日はありがとうございました。

インタビュアーの川村 雅彦・オルタナ総研所長(左)と積水化学工業の平居 義幸・常務執行役員
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平居 義幸(ひらい・よしゆき)
平居 義幸(ひらい・よしゆき)

1963年生まれ。1985年積水化学工業株式会社に入社。2009年高機能プラスチックスカンパニーフォーム事業部長。2014年に執行役員就任。2015年CSR推進部担当、経営戦略部長(現在)に。同年取締役(現在)、2017年に常務執行役員就任(現在)。

川村雅彦
インタビュアー川村 雅彦 (かわむら・まさひこ)

オルタナ総研 所長・首席研究員。CSR部員塾・塾長。九州大学大学院工学研究科修士課程修了。三井海洋開発株式会社を経てニッセイ基礎研究所入社、ESG研究室長を務めた。環境経営、環境格付、環境ビジネス、CSR経営、統合思考・報告、気候変動適応を中心に調査研究に従事。環境経営学会の副会長。論文、講演、第三者意見多数。主要著書は『環境経営入門』『カーボン・ディスクロージャー』『統合報告の新潮流』『CSR経営パーフェクトガイド』『統合思考とESG投資』など。